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第46話 ラスボス①

「これより第11回・国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は引き続き、私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」


 途中で「制裁イベント」が挟まったせいで定時を過ぎ、開始予定時間は一時間以上も押している。それなのに、相模はやる気満々だった。


「本日の議題は『ライバルとラスボス』の導入です。まずは先輩からどうぞ」


「まずはライバルから考えたい。物語におけるライバルの役割だが……」


・主人公の鏡:ピーターと同じ目的を持ち、常に一歩先を行く存在。

・物語の先導役:ピーターと競い合う形で次の目的地を提示する。

・物語のアンチテーゼ:ピーターが選ばなかった選択肢の結果を見せる。


「物語を作る上で便利そうな存在ですね」


「そうなんだけど、今回の物語にライバルが必要かどうかだな。短期的な目的はともかく、主人公の鏡の要素を強くすると最終目的もピーターと同じになってしまうんだよな」


「目的は遠くへ行ってしまった親友に会うことですからね。彼女にどちらが先に会いに行けるかをライバルと競い合う物語になってしまうと」


 相模の中では、親友=女の子で決まりらしい。

 

「……そういえば親友のキャラクターをちゃんと決めてなかったな。性別は女の子に確定でいいのか」


「私は断然女の子派です。ヒロイン役が欲しいですからね」


「ライバルのさじ加減を間違えると物語が寝取られものになりかねないな」


「これは寝取られじゃなくて『BSS』ですよ」


「何それ、放送局?」


「僕が先に好きだったのに(Bokuga Sakini Sukidattanoni)の略です」


「また闇が深そうなジャンルだな……。それから主人公が女の子の場合も、親友役は女の子でいいのか?確か主人公の性別は選べるようにする予定だっただろ」


 すっかり忘れかけていた。

 そういえば女の子側の名前も相模が決めるはずだったことを思い出し、指摘する。


「……ピーコのことですね」


「今、適当に名前考えただろ」


「先輩はどちらがいいですか?女の子でもプレイしたいと言ったのは、確か先輩ですよね」


 あれ?ボールが戻って来た。


「主人公が女の子だとしても、親友役は女の子がいい」


「どうしてですか?」


「自分が操作しているキャラクターが女の子だとするとさ、最後に別の男の子とくっつくとするだろ?どこか寝取られる気がして嫌なんだよ。なら百合の方がいい」


「百合もいける口なんですね。先輩の性癖もなかなか広いですね……」


 相模が呆れたような顔をする。


「相模はどっちがいいんだ」


「私もどちらでもいけます!」


 最近、相模の隠れた性癖が見え隠れしている。


「いや、性癖の話じゃない。それから、どさくさに紛れて変なカミングアウトしなくていいから」


「物語の主人公と親友役、両方の性別を選べるようにしましょう!」


 もはや隠す気もないな。


「一旦、そうしようか。で、名前は?」


「保留で……」


 暫定「ピーコ」。

 ……そういえば「ピーター」もすっかり馴染んだが、これも暫定の名前だったな。


「で、最初の話に戻る。ライバルの目的を何にしようか」


「先輩が言うように、親友の取り合いは止めた方がよさそうですね」


「物語の根幹には関わらせないようにした方がいいな。親友に絡ませると、どうやっても『薄い本』のネタにしかならない気がする」


 薄い本(同人誌)になるぐらい売れるのは嬉しくもあるのだが、自分たちが生み出したキャラクターを酷く扱われたくはない。それが子供なら、なおさらだ。


「そうですね……。サーカスで各地を回りますから、街ごとにガキ大将的な存在を置きましょうか。その街の探索におけるライバルとして」


「ついでに物語の先導役を任せる感じでいいのかな。『ここには凄いアイテムがある、お前に見つけ出せるか』といった具合のナビゲーター役も兼ねて」


「それでアイテムを見つけたら自慢しあって、モノによっては交換もできるとか」


「お店の役割も兼ねさせればいいのか」


 確かに手に入れたアイテムを処分する方法も考えないといけなかったな。

 うまい解決策を考えてくれたと内心で相模に感謝する。


「そこまで考えていませんでしたが、悪くないですね。子供同士の世界がある、という感じがします」


「子供同士の世界か……。でも子供同士って独自の経済圏があったよな。俺が子供の頃はシールやカード、消しゴムが流通していた」


「私の頃もそう変わらないですね。集めたシールと交換で色んなお願いもできましたし、今考えるとこれも立派な経済活動ですよね」


 現金が使えないからこそ、独自の価値基準が生れるのだろう。


 その中で交換レートの設定や、その他価値(お願い)への交換、貸し借り、賭けといった信用に基づいた取引まで行われる。


 お金ができる前は物々交換していたという説は間違いだな。

 いや、説明が足りないだけか。


 子供同士が考えた世界でも「物々交換」以上に経済が回る仕組みを生み出されているのは侮れない。


 なかなか面白い学説?を思いついたが、相模には言わない。

「また変なこと思いつきましたね……」と言われるのがオチだ。


「場合によっては自力や賭けでも稼げるからな」


「賭けですか。悪い子供ですね」


「いやいや、それくらいやるだろ?あと、給食のデザートを賭けて勝負とか、普通にやってたぞ」


 相模が先生モードに入るかと思い、牽制する。


「そういえば男子はよくそういうアホな争いをやってましたね……」


「うちの方は女子も混ざってたぞ」


「えっ、そうなんですか」


「うーん……よその地域でも同じだと思ってたけど、田舎だったからかな」


「先輩の故郷ですかー、興味ありますね。行ってみたいですねー」


 私の顔をチラチラとみる。何か催促されているようだが……。


「そうだな、機会があったらな」


 今は軽くかわしておく。


「約束ですよ、約束。でも地域柄ってあるんですかね。それなら、女子のガキ大将がいてもよさそうですね」


 私から給食のプリンを巻き上げた、あの子は元気だろうか?


「あっ、今、他の女の子のこと考えましたね」


 相模に鋭く指摘されるので、慌ててごまかす。


「ああ、考えた。泉州弁でまくし立ててくるキャラを導入しようかと思ってな」


「今日の和泉ちゃんですね。いいと思います。和泉ちゃんをモデルにしたガキ大将を実装しましょう」


 本人の許可なく、和泉ちゃん(泉州弁モード)の実装が決まってしまった。


「あとはガキ大将の悩みを解決したり、ピンチの時に助けたりすると、お礼のアイテムが貰えるようにするか」


「いいですね。最初に言っていた、物語のアンチテーゼにも組み込めますね。ピーターの『裏』を行ったガキ大将がピンチに陥り、そこに颯爽と現れるピーターたち、という展開も面白そうです」


「逆に助けてもらったりしてな……。今まで、親の思惑を超えることを物語の中核にしようとしてきたけど、子供同士の横のつながりも描きたくなってきたな」


「友情パワーというやつですね。それからピーターだけじゃなく、プレイヤーキャラクター同士の交流があってもいいかもしれませんね」


「お互いの使い魔ちゃん……使い魔がその世界で一般的な存在かは置いておくとして、ペット同士の交流はアリだな。もともとペットに『他の動物たちと情報を聞き出す』というアクションも考えていたし」


「子分けで別のペットを譲り受けて、種類を増やせるのはどうでしょうか」


「いいんじゃないか。本当に取り入れるかはともかくとして、アイデアとしては残しておこう」


 ライバルを考えることで、結果として物語やシステム周りも補強されてきた。ここまでは順調だ。


「よし、ライバルの設定はここまでにしようか」


「いよいよラスボスの設定ですね……と言いたいところですが、今日はここまでにしませんか? 始めた時間が遅かったせいもありますが、もう二十時を過ぎてます」


「そうだな。今日はここまでにしよう」


「ではAIさんに議事録作成をお願いしますね」


##################


第11回・国民的大人気RPG制作会議 議事録


日時: 202X年某日

出席者: 相模(司会・記録補助)、因幡


1. 会議の議題と進め方の合意

本日の議題を「ライバルとラスボス」の導入と策定に決定。司会は引き続き相模が務め、本回より会議ツールのAIによる自動議事録作成を導入。発言の明瞭化を徹底する運用方針を確認した。なお、前段の諸事情により開始時間は予定より1時間以上遅延した。


2. ライバルキャラクターの役割定義

物語を牽引するライバルの存在意義を、以下の三つの機能に集約することで合意した。


・主人公の鏡: ピーターと共通の目的(親友との再会ではない)を持ち、常に一歩先を行く競合者。


・物語の先導役: 競い合う過程で次の目的地や重要アイテムの所在を示すナビゲーター。


・物語のアンチテーゼ: 主人公が選ばなかった選択肢の結果を体現する存在。


3. 主人公および「親友」の性別と関係性

プレイヤーの没入感を優先し、キャラクター属性について以下の柔軟な仕様を策定した。


・性別の選択制: 主人公および親友役(再会対象)の性別をプレイヤーが任意に選択可能とする。


・感情的衝突の回避: 因幡氏より、女子主人公が他男キャラと結ばれることへの「寝取られ(BSS)」的忌避感が示された。これを解決するため、同性同士の結びつき(百合等)も含めた幅広い解釈を許容する方針。


・暫定名称: 主人公(女子)を「ピーコ」と呼称。ピーター同様、正式名称については引き続き保留。


4.「街のガキ大将」システムの導入と地域経済

サーカス団の巡業という設定を活かし、街ごとに固有のライバル(ガキ大将)を配置する。


・独自の経済圏: 「子供同士で流通する代替貨幣」を用いたアイテム交換・物々交換機能を実装。


・交流アクション: 悩みの解決によるお礼や、勝負、ペット(使い魔)の「子分け」による種類増加など、子供同士の横のつながりを描くシステムを検討。


・キャラクター造形: 特定の個人をモデルとした「泉州弁でまくし立てる女子ガキ大将」等の実装を検討。


5. 次回への継続課題と総括

ライバル設定の具体化に伴い、世界観およびサブシステムの補強に成功した。しかし、開始遅延の影響により終了時刻が20時を超過したため、以下の議題については次回へ持ち越しとした。


・検討予定事項: ラスボスの動機、目的、およびその存在意義の策定。


6. その他(特記事項)


・会議の熱量: 定時を過ぎた時間帯であったが、司会の相模氏による高いモチベーションにより、効率的な議論が展開された。


・地域文化の差異: 「子供同士の賭け事」を巡り、因幡氏が相模氏の成長環境(女子が混ざるガキ大将文化等)に驚きを示す場面があった。これらはゲーム内のキャラクター多様性に反映される予定。


##################


「ついに会議の熱量まで言及するようになりましたね」


「会議の雰囲気が残せる点でいい機能かもしれないぞ」

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