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第44話 課題整理⑦

「改めて次ですね。今度は未知の探索――主な検討内容はマップ構成です。こちらも方針は決めたいですね」


「無理にマップを広げず、『こじんまり感』を活かのが大方針だな。基本的に相模が書いてくれたアイデアでいいんじゃないか。あとはマップの広さは、子供が遊びに出掛けて、日が落ちる前に帰ってこれるぐらいの範囲……ってところか」


「物語や世界観に合わせると仕方ないですが、バリエーションに欠けますね」


「そこは物語で工夫できるぞ」


 ホント、便利な舞台装置を思いついたものだ。


「どういうことですか?」


「ピーターはサーカス団の一員だろう?サーカスと言えば街から街への移動がつきものだ。街が変わればマップも変わる方が自然だろう」


「なるほど、サーカスって便利ですね。……あれ?……その場合、一度離れた街には戻りにくくなりませんか?」


「確かに……だが戻る理由さえあればいい。大人に頼んで連れて行ってもらうとか、忘れ物を取りに行くイベントを入れるとか、辻褄合わせの方法はいくらでもあるんじゃないか」


「でも、安易に大人を頼れる設定にすると、『じゃあ行方不明の親友のところまで連れて行ってもらえばいいじゃん』というツッコミが来ませんか?」


「そうなると、ピーターと親友の物理的な距離をかなり遠く設定する必要が出てくるな。親友とは海外公演で出会ったとかでどうだろう」


「子供を一人で外国に行かせるのは、さすがにハードルが高すぎます。物語を壊してまで理屈を通すくらいなら、いっそゲームだと割り切って、サーカス団ごと前の街へ移動させませんか?」


「そうするか。いざとなったら、背後霊が大人に憑依して『気が変わった、前の街に戻るぞ』って言わせればいいんだし」


「それはあまりに酷すぎます」


 その後も議論は紛糾し、最終的にはゲームらしく短距離用の「魔法の転移装置」を実装することで、あっさりと解決を見ることになった。


 

「さて残りは」


「物語への没入と努力の報酬ですね」


「簡単な方から行こう『努力の報酬』は丸投げにしよう」


「賛成です」


 先程までの議論で脳が疲弊していたこともあり、過去最短の話し合いで決まった。


「では物語への没入にとりかかるが……いったんここまでにしないか。次の話は長くなりそうだし」


・ライバルの導入(ライバルである背景も決める)

・ラスボスの導入(ラスボスの目的も決める)


 どう見ても長い議題になるとしか思えないテーマだ。


「そうですね。ではいつものようにAIさんに議事録を作ってもらいましょう」



##################


第10回・国民的大人気RPG制作会議 議事録


日時: 202X年某日

出席者: 相模(司会・記録補助)、因幡


1. 会議の議題と進め方の合意

本会議では、前回抽出した課題の具体的な「分解」と「解決方針の策定」を議題とした。細部については今後合流する他メンバーの自律性を尊重し、あえて決定を委ねる「アイデア」に留める柔軟な運用方針を確認した。


2. ゲームジャンルの定義とシステム骨子

企画書の記述において曖昧であったシステムに関する確認を行い、本作のジャンルおよび基本システムを以下の通り確定した。


・ジャンル: オープンワールド・アクションRPG(アセット『ハイフライヤー』との親和性を重視)。


・ターゲット層: 「家族で楽しめること」を最優先とし、観戦している側も退屈しないリアルタイムのアクション性を確保する。


・戦闘編成: 各カテゴリーから1体ずつ選ぶ制限を撤廃し、編成の自由度を担保する。操作性(L・Rボタンでのワンボタン切り替え)の利便性を考慮し、操作キャラクターは最大三体までとする。


3. 主要評価軸に基づく具体的な方針決定


成長の可視化)

・方針:一般的なRPGと同様に、戦闘で経験値を貯めてレベルアップや成長を行うフォーマットを採用する。


・仕様策定:具体的なパラメータ(ピーターの匂いに興奮して混乱する仕様等のアイデア)を含め、詳細な仕様策定は後から合流する他メンバーに委ねる。


・装備品の仕様と課題:各カテゴリーのキャラクター共通で装備可能なアイテムを充実させる。装備できないことによるストレスや機会損失を防ぐため、(移動速度上昇や特殊アクション解放など)による差別化を図る。


戦略的な攻略)

・連携アクション:各カテゴリー(背後霊・使い魔・ペット)の自由な組み合わせを可能にし、バランス良く組み合わせることで優位に立つ調整を行う。


・環境利用:背後霊に「周囲のオブジェクトをガタガタ動かせる」アクションを持たせる。これにより、子供のいたずらレベルの落とし穴や落石などのギミックを利用した敵へのダメージ付与を可能とし、上級者向けのテクニカルなプレイスタイルにも対応する。


・戦闘テンポの重視:最大三体編成を前提とした上で、テンポ良くを大方針とする。以下の計算式および理論を参考にバトルデザインを構築する。


 計算式: 狩り1サイクルあたりの時間 =(戦闘回数 × 戦闘時間)+ 準備時間 + 移動時間で計算する。


 時間配分: 準備時間(装備見直しや消耗品補充など)および移動時間(行き帰り)は短くするよう調整する。


 戦闘時間と回数のバランス: 戦闘時間が短ければ戦闘回数を増やす(ただし強敵は少なめ)、逆に戦闘時間が長ければ戦闘回数を少なくする方針を取る。


 アイテムドロップ率の調整: 戦闘回数が多い場合は渋め、少ない場合は緩めに設定する。


未知の探索)

・空間密度の向上:舞台が「街とその近郊」に限られるため、狭いマップを魅力に変える手法として、時間経過によるマップ変化や高低差の有効活用を取り入れる。


4. 舞台装置「サーカス団」の活用と移動システム

マップのバリエーション不足を解消するため、サーカス団の「巡業」設定を最大限に活用する。


・移動の正当性: 公演場所(街)が変わるごとに新しいマップを提供。


・再訪の仕組み: 過去の街へ戻るシステムについては、議論の末「物語的な辻褄(大人の説得など)」よりもゲーム的快楽を優先し、最終的に短距離用の「魔法の転移装置」を実装することで合意。


5. 努力の報酬に関する方針

本項目については、議論を待たず「他メンバーへの全面的な委任(丸投げ)」とすることで、因幡・相模両氏の間で即時合意に至った。


6. 次回への継続課題と総括

物語への没入に関する以下の重要項目については、議論の長期化が予想されるため、本回の検討を中断。次回会議にて集中的に協議を行うこととした。


・検討予定事項: ライバルキャラクターの役割・背景、およびラスボスの動機・目的の策定。


7. その他(特記事項)


・会議の疲弊度: 中盤の「転移装置」を巡る激しい議論により、両名の脳に著しい疲弊が見られた。そのため、後半の議題の取り扱いが加速度的に簡略化された傾向がある。


・閉会時の状況: 因幡より「話が長くなる」との予見が示され、これに相模氏が(無言の肯定をもって)同意。健全なプロジェクト運営のため、無理な延長を避ける判断がなされた。


##################


「議事録で『丸投げ』っていう言葉は初めて見たな。確かにそう言ったけど」


「文言を直しておきますね」


「特記事項はいつも通りだな」


「行間どころか私たちの体調まで気にするようになりましたね……」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「では、定時後にもう一回ミーティングを入れておきます」


「ありがとう。じゃあ、いったん本業に戻るか」


 ライバルとラスボスか……長い会議になるだろうな。


 そんな予感を抱えながらミーティングルームを出て自席に戻ると、噂をすれば何とやら、そこには和泉ちゃんが待ち構えていた。


「あっ」


 顔を見るなり、ビクッとした反応をされる。

 地味にショックだ。


「あれ、和泉ちゃん。何かありました?」


「あの……ちょっと、変な噂を聞いてしまって……」


「噂? どんな噂」


 和泉ちゃんが私の顔をちらっと見る。私に聞かれたくない内容なのかもしれない。


「俺は外そうか?」


「いえ、因幡さんも関係している噂なので……お二人とも聞いてください」


 因幡さんも? 嫌な予感がする。


「どんな噂なの?」


「えーっと、全部で三つあって……」


「三つも!」


 思わず相模と顔を見合わせる。


「怒らないで聞いてくださいね。まず一つ目は……」


 和泉ちゃんが、耳にした噂をまとめて説明してくれた。


 ①因幡さんが浮気現場を相模ちゃんに押さえられ、こっぴどく怒られた。


 ②浮気がバレた因幡さんが、相模ちゃんに叩かれながら『ごめん、相模が一番』と泣きながら謝っていた。


 ③謝られて機嫌を直した相模ちゃんが、夜の仲直りのために精力剤を買ってきた。


 ……怒るより先に、あまりに見事な三段落ちに感心してしまった。

 再び、相模と無言で視線を交わす。


「犯人……あの人しかいないよな」


「あの人しかいないですね……あれ?でも最初の噂は違いますか。あの現場では見かけませんでした」


「出所は分かった。最初の噂は石見から聞いたんだ。昨日の現場にはあいつもいたからな。今朝、日向さんと一緒に話しこみながら出社する姿も見かけたし、間違いなさそうだ」


 相模はしばらく考え込んだ後、やがて何かが吹っ切れたように、ぽつりと呟いた。


「……和泉ちゃんの『出番』ですね」


「えっ」

「えっ」


 和泉ちゃんと私の驚きの声が重なる。


 急に自分の名前が出てきて、和泉ちゃんはビックリしたのだろう。


 ただ私は違う。

 相模が何をするつもりか気づいてしまったからだ。


「和泉ちゃん、男の人をビシッと叱れるチャンスが来ました」


「えっ、あ、はい……」


 困惑する和泉ちゃん。


「先輩から『誰かを叱りたくなったら、代わりに和泉ちゃんがその人を叱る』権利をもらっています。早速ですが、使ってみませんか?」


「!?」


 和泉ちゃんが私に救いを求めるような目を向けてくるが私は静かに目を逸らした。


「それでは早速呼び出し……と思いましたが、私からだと気づかれてしまいますね。和泉ちゃん、日向さんに『プロジェクトの件で相談がある』という名目で、会議を設定しください」


「えっ……あっ……はい」


 相模の勢いに、思わずうなずいてしまう和泉ちゃん。


「安心してください。スクリプト(台本)は用意します」


 

 そして相模と和泉ちゃんは席を外した。

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