第43話 課題整理⑥
「これより第10回・国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は引き続き、私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」
口の中にまだ、あの暴力的な甘さが残っているような錯覚を覚えながら、いつも通りの開会宣言を聞く。
「本日の議題は『課題の分解』です。いつもなら先輩に話を振るところですが、本日はこのまま私が説明を続けます」
そう言うと相模はディスプレイ上にメモを映し出した。
成長の可視化):明確な課題あり。レベル・強化要素の考慮が必要。
・装備したアイテムの外見をプレイヤーキャラクターとピーターに反映させる。
・パラメータは戦略的な攻略の後で決めればよい(戦闘システムに合わせる)
戦略的な攻略):明確な課題あり。アクションの仕様を詰める。
・敵、味方キャラクター同士の連携アクション導入。
・あとは未定(実際にプレイしてみないと実感がわかない)
未知の探索):『こじんまり感』をどう魅力に変えるかが鍵。
・同じ場所でも「時間」で変化するマップ。
・高さの有効活用(木に登れる等)
・狭いマップを活かしたパズル的要素(広いと面倒)
・隅々まで調べることで見つかる何か(狭いからこそ隅々まで調べたくなるはず)
物語への没入):現状維持。独自性を強みとする。
・ライバルの導入(ライバルである背景も決める)
・ラスボスの導入(ラスボスの目的も決める)
努力の報酬):概ね良好。おまけ要素の検討。
・隠しキャラクターの追加。
・ピーターの着せ替え。
・背後霊ちゃんの色替え。
「お、頑張ったな」
「頑張りました」
「ご褒美にラスグッ……」
「結構です。話を戻しますが」
「ふむふむ」
「リストアップはしてみましたが、物語への没入以外は方針だけ決めて、残りの細かな課題は他のメンバーに任せても良いと思います」
「思い切るな」
「はい。私が書いたことも制約ではなく、あくまでアイデアのたたき台です。これ以上に面白そうな案が出れば、そちらを優先すべきですから」
相模の説明を聞きながらリストを眺める。
彼女が「任せても良い」と言った中にも、魅力的なキーワードがいくつかある。
例えば装備の外見反映は……いや、ちょっと待て。
オープンワールドのRPGで装備が反映されないのは、今の時代では「仕様漏れ」に近いのではないか? 今回の開発は、オープンワールドRPG『ハイフライヤー』のアセット流用が前提だ。その視点でリストと企画書を再度見返す。
「どうでしょうか」
黙り込んだ私に、相模が尋ねてきた。
痺れを切らしたわけではなく、単に私の反応が読み取れず気になったのだろう。
「すまん、少し気になることがあって確認してたんだ」
「何でしょうか」
「相模。一応確認だけど、今回作ろうとしているのはオープンワールドのアクションRPGでいいんだよな?」
オープンワールドのアクションRPGであれば、リアルタイムで回避や攻撃を行うアクション形式になるのが自然だ。自ずとプレイヤースキルが重視されるゲーム性になる。
「はい、そのつもりです。ハイフライヤーのアセットを使うのであれば、当然そうなるものだと思っていました」
「実は企画書のどこにも、ジャンルの明記がなかったんだ」
「えっ」
「キャラクターにアセットを使うとは書いてあったけど、ゲームシステムそのものについては触れられていなかった」
「うっかりしていましたね……」
「一応、オープンワールドでも戦闘はアクション形式じゃなくて、ターン制にしたりコマンド形式にする選択肢もあるけど検討してみるか?」
ターン制やコマンド形式の戦闘ならば、じっくり戦略を練る楽しさを提供できる。より派手な演出を挟みやすく、行動と効果の連鎖も計算しやすい。
だが、相模は即座に首を振った。
「いえ、まずはアクション形式を前提にしましょう。このゲームは家族で楽しんでもらいたいんです。コマンド形式だと、隣で見ている側は少し退屈しがちですから」
「なるほど。対戦アクションゲームの『大乱入』なんかは見ているだけでも面白いからな」
相模が『戦闘システムはアクション形式』とメモに追記する。
「よし、その前提でリストの上から片付けていくか。まずは成長の可視化からだが、相模が言うように、これは後から決めてもいい要素だな」
「基本は一般的なRPGと同じように戦闘で経験値を貯めてレベルアップと成長でいいですよね?」
「それでいい。ここを無理に触るとRPGじゃなくなる」
「以前日向さんが言っていた『フォーマット』ですね。フォーマットが出来上がっているから、導入がスムーズになると」
「今更レベルアップとは何か、経験値とは何かって深く語っても面白くないだろ」
「そうですね。面白さに繋がる視点で他に考えはありますか?」
「思いつくのはパラメータぐらいかな」
「例えば?」
「ピーターの匂いとか」
「匂いが強くなると……背後霊も強くなるんでしょうか」
「いや、匂いに興奮して混乱する」
「他に考えはないようですね。では成長要素については、この後合流するメンバーに詳細な仕様を任せましょう」
あっさりスルーされた。
まあいい、根幹の面白さに繋がるものでもないし。
「次は戦略的な攻略か。RPGの楽しさの根幹部分だが、まずは相模のメモにある『連携アクション導入』から考えてみるか。例えば、使い魔ちゃん三体の連携で、ピーターが興奮して必殺技の威力が気持ち上がるとか」
「えっ」
「冗談だよ、全年齢版だから子供を下ネタで興奮させる表現は不味いよな」
「いえ、そうではなくて。使い魔三体という組み合わせが可能なんですか?」
これはまた盲点を突かれた。
「相模は、各カテゴリーから一体ずつ選ぶ形式だと思っていたのか」
「はい、そうです」
これまで相模とは打ち合わせを重ねてきたつもりだったが、こうして話してみると、やはり認識のズレがあるものだ。
「どっちがいいと思う?」
相模は少し考えた後、「先輩の案でいいです」と答え、こう続けた。
「ただ、使い魔やペットはともかくとして、パーティ全員を背後霊にしたりすると、詰んだりしませんか? 現時点ですが、彼女たちに直接ダメージを与えられるようなアクションを想定していませんよ」
「それは上級者向けの縛りプレイ用だな。マップに罠や仕掛けを用意して、それを利用して敵を倒すとか。一応、背後霊には『周囲のオブジェクトをガタガタ動かせる』アクションを持たせる予定だから、頭上から岩を落としてダメージを与える、なんてこともできる」
「マップに罠や落石が仕込んであるとなると、急に世界観がハードになりますね」
「うーん、『子供のいたずら』レベルの落とし穴とかに留めるか。落石は……まあ、不運な事故ということで。難易度的には『背後霊・使い魔・ペット』をバランスよく組み合わせるのが最適になるよう調整しよう。ただし編成自体は制限しない方針で」
「プレイヤーに自由度を持たせるということですね」
「となると三体にこだわる必要もなくなるな。ピーターに追従するのは四体でも五体でも問題ないんじゃないか?」
操作可能なキャラクターは多い方が、パーティの編成面でも行動面においても戦略性は増す。
「そこは三体までにしましょう。三体なら操作中のキャラ切り替えもスムーズにできます」
切り替え操作をコントローラに割り当てるとしても、三体ならL・Rボタンのワンボタンで済むというのが相模の主張だ。
「戦略性より、手軽な操作性を優先ということだな」
「そうですね。戦闘はテンポを良くしたいです。ただ操作性以外で、具体的にどうすればテンポが良くなるのかですが……こちらもバトルデザインの経験があるメンバーに任せた方がいいですかね」
「その方針でいいと思うけど、実はテンポにについては以前考えたことがあるんだ。クソゲーをやってる時に思いついた。ちょっと待って」
キーボードを叩き、相模へチャットを送る。
狩り一サイクルあたりの時間
=(戦闘回数 × 戦闘時間)+ 準備にかかる時間 + 狩場までの移動時間
「狩り――つまり経験値やドロップ狙いのプレイに限った話だけど、テンポを出すには、この計算式を念頭に置く必要があるんだ」
「戦闘時間が長くて回数も多ければ、時間がかかるのは当然ですね。そこに準備や移動の時間が加われば、さらに狩りの時間は延びると。……ちなみに準備時間というのは、装備の見直しや消耗品の補充にかかる時間、という解釈で合っていますか?」
「合ってるよ。ちなみに移動時間には行き帰り、両方の時間が含まれる」
「なるほど。テンポの良さを出すには、単に戦闘の場面だけではなく、準備も含めた全体のバランスを考えた方がいいということでしょうか」
「その通り。戦闘時間を短くするなら、戦闘回数は多くした方がいい。ただし強敵は少なくしたほうが、テンポの良さが感じられると思う。戦闘時間を長くするならば、その逆だ」
「先輩の理論ですと、単純に戦闘時間が短ければテンポが良い、というわけではないんですね」
「そうだな。準備にかかる時間と狩場までの移動時間はどちらも短い方がいいと思うけどな」
「クソゲーで気づくところが先輩らしいですが、でも言われてみると納得です」
「職業病かもしれないな」
RPG形式のエロゲーでイライラさせられた経験が、ここで役立つ。
絵柄は好みだったんだけど、ゲーム性がいまいちだったな。
「他にも注意したいところはありますか」
「アイテムのドロップ率もテンポと一緒に考えた方がいいな。戦闘回数が多いなら、渋め。少ないなら緩めにした方がいい」
「では大方針として『テンポ良く』。最大三体編成を前提とした戦闘システムを目指しましょう。ただ、これ以上の具体的な仕様ですが、他のメンバーに任せませんか?私がアイデアとして挙げた連携アクションの導入もその中の一部として検討すればいいと思います」
「実際にプレイしてみないとわからないことも多いからな。賛成だ」
「では、次ですね。今度は未知の探索について――」
途中まで言いかけて、相模が止まる。
「どうしたんだ?」
「戦闘の話からはちょっと逸れますが、気になることがありました。先輩の『アイテムのドロップ率』という言葉で気づきましたが、アイテムについて考えないといけないことがあります」
「アイテム?」
「はい、プレイヤーキャラクターが装備可能なアイテムです。例えば、ペットが剣や鎧を装備して戦うのはおかしいですよね?」
「確かに人型以外だと違和感が凄いな。人型というと、使い魔ちゃんとペットの中でケット・シーぐらいしかいないか?」
「ケット・シーも『裸一貫を貫く紳士』って説明文に書いてあります」
改めてテキストを読むと変態だな。鎧どころか服も装備できないじゃないか。
「デザインを考えると、人型以外のキャラクターは装備可能なアイテムが首輪やリボンのようなアクセサリー類に限られてしまいます」
敵を倒してドロップするアイテムのバリエーションが乏しいと、プレイするモチベーションが上がらない。さて、どうするか……
「アクセサリー以外だと、背後霊の服というか、あの布にバリエーションでもつけてみるか?」
「例えば?」
「ただの布じゃなくてパンツにするとか」
「変態じゃないですか」
「じゃあ落書きできるとか」
「それ、ただの落書きじゃなくて、呪いの文言とかじゃないですよね?」
冗談で言ってみたが、意外とありか?文言によって性能が変わるとか。
「デザインのバリエーションが少ない分、他の工夫が必要ということだよ。それならば同じデザインでも効果で差別化する手があるな。移動速度が上がったり、特殊なアクションが解放されたり」
「あ、それはいいですね」
「いずれにせよ、デザインは各カテゴリー共通で装備できるアイテムにしてもらった方がいいな。せっかくアイテムを拾ったのに装備できない、というのは一番テンションが下がる」
グラフィックデザイナー泣かせだな。
ここは和泉ちゃんに頑張ってもらうとするか。




