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第39話 課題整理②

「これより第8回・国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は引き続き、私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」


 昼下がりのミーティングルーム。

 いつも通り、相模による清々しい開会宣言が響く。


 昼休みにひと悶着あったことなど、微塵も感じさせない切り替えの早さだ。


 見れば、机の上にはパンと缶コーヒーが置いてある。

 ひょっとして私の昼食として買ってきてくれたのだろうか?


 そういえば空腹だ。ここは相模の好意に甘えることにしよう。

 

 そう思い、パンに手を伸ばそうとした瞬間——。


「ステイ」


 相模から制止の声が掛かる。


「本日の議題は『先輩が和泉ちゃんを怖がらせた件』の追及です。まずは先輩から弁解をどうぞ」


「あれ? 議題は課題の整理じゃ……?」


「弁解をどうぞ。パンを食べていいのは、その後です」


 私の意見は即座に封殺され、小学校の「帰りの会」のような追及が始まった。


 さっき怒られたばかりなのだが。

 途中からギャラリーが集まってきたから、怒り足りなかったのだろうか。


 まあ相模が和泉ちゃんを可愛がっているのは知っている。


 あの子は小動物のように庇護欲をそそるタイプだ。

 同い年とはいえ相模からすれば妹のような存在なのだろう。


 ここは素直にもう一度謝っておくか、それとも何か弁解を捻り出すべきか。

 正解はどちらだ?


「……」


「あら、黙っていてはダメですよ。何も伝わりませんよ」


 沈黙して作戦を練っていたら、相模がさらに先生のような口調で追い詰めてきた。


「すみませんでした。悪ふざけが過ぎました。以後、気をつけます」


 妙案は浮かばず、仕方なく小学生並みの謝罪を口にする。

 すると、相模が聞いたこともない刑を言い渡してきた。


「よろしい。では罰として『ラスグッラ』の刑に処します」


「なにそれ、新手の呪文?痛いやつ?」


「グラブジャムン以上に甘いと言われるお菓子です。先輩に完食してもらいます」

 

 おい、グラブジャムンが世界一甘いんじゃなかったのか。


「どこの国の料理だよ」


 ドーナツのシロップ漬け以上に頭のおかしいお菓子を考える国がインドの他にあるというのか。


「インドです」


「……」


「ちなみに、この前先輩が紹介してくれたお店で食べられるみたいですよ」


「……」


「では今日はもう、おとなしくしてくださいね。刑の執行は明日とします。目の前のパンも食べていいですよ」


 今日の昼食(パン)が決まった。

 明日の昼食(ラスグッラ)が決まった。


「それからパンの代金は三〇〇〇円になります」


「どんな高級パンだよ! 高すぎじゃないか」


「和泉ちゃんへの慰謝料込みです。あとでスイーツを持って慰めに行きます」


「それでも高すぎないか? どんなスイーツだよ」


「二人分になります……」


 ちゃっかり自分の分まで請求してきやがった。


「……わかったよ。相模の誕生日プレゼント代から引いておくからな」


「お父さんの添い寝代は三〇〇〇円になります」


 相模のお父さん安っ……

 相模のお父さん?……うっ頭が……。


 謎理論がフラッシュバックする。

 これ以上の論戦は無理だ。


「参りました」


 私は敗北を認め、三〇〇〇円の慰謝料を支払うことにした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「改めまして、これより第9回・国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は引き続き、私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」


 再び、相模による開会宣言。なぜか回数がカウントアップされている。


 さっきの「お説教」で一回分カウントしたというのか。

 明日の昼食の行き先(処刑場)が決まっただけで進捗はゼロだというのに。


 私の戸惑いを無視して、相模が冷徹に議事を進める。


「本日の議題は『課題の整理』です。まずは先輩から発言をどうぞ」


「……今日は課題の整理を行う。ただ、週末に気づいた点をいくつかメモにまとめてあるが、それ以上のものはない」


「先輩本当に大丈夫ですか?まだ眠いんですか?もう一度叱ってあげましょうか?」


 相模が心配している……心配しているんだよね?


「大丈夫、もう目は覚めた。まずはメモの内容を説明する。端的に言うと成長要素・強化要素・やりこみ要素だ」


 缶コーヒーを飲みながら、週末の気付きを説明する。


「なるほど最もな意見です。取り入れましょう」


 ふむふむと相模が頷いているが……何故か上から目線を感じる。


「どうしたんだ相模、何かいいたいことでもあるのか」


「先輩もまだまだ甘いですね……課題の本質に気づいていません」


「?」


「天才相模さんが気づいたこと、聞きます? ビックリしますよ」


「……構わない。教えてくれ」


「午前中に企画資料を読み返してみたんですが、どこにもなぜ面白いか、何を面白く感じてもらうかが書いてありません」


 不意を突かれ、しばし硬直する。


「あれ、何かおかしいこと言いましたか」


 反応のなさに不安を覚えたのか、相模がおずおずと問いかけてくる。


「いや、相模は鋭いよ。それは本質的な問いだ」




 ロールプレイングゲームの面白さとは、一体どこにあるんだろう?




 私はディスプレイから視線を外し、彼女と正面から向き合った。

 今朝からシャキっとしていなかった脳もフル回転を始めた。


「ロールプレイングゲームは何が面白いのか、か……」


「そこまで考えさせるつもりは、なかったのですが」


「いや、この際だから、ちゃんと考えてみよう。課題の洗い出しにも使えると思う」


「じゃあ日向さんや肥後さんの指摘を振り返ってみますか、何かヒントがあるかもしれません」


 日向さんや肥後さんの意見か……。

 言われたことは大体覚えているけど、ちゃんとメモしていないんだよな。


 日向さんにはゲームを企画する作るコツを教えてもらい、肥後さんからは企画への評価の言葉をもらっている。


「日向さんや肥後さんの指摘か……」


 おうむ返しに口ずさんだ時、あることに気づく。


「そいうえば、今回の企画について日向さんや肥後さんからの評価は今のところ悪くないよな」


「ええ、そう思います」


 両課長からは厳しい指摘も受けるが、概ね「合格点」はもらっているはずだ。相模もそこは同意見らしい。


「ただ、今更だけど気づいた点がある」


「なんでしょうか」


「二人からもらう助言や評価は、あくまで『クリエイター』としての視点なんだよ。要するに『作る側』の意見だ」


「なるほど。先輩の言いたいことが分かりました。『遊ぶ側』の意見が欲しい、と」


「その通り。今は作る側の意識を一度捨てて、もっと遊ぶ側の気持ちになって課題を洗い出すのはどうだろうか」


 作る側の視点では、どうしても設定の整合性や矛盾ばかりに目が行きがちだ。もちろんそれも大事だが、今はもっと「ゲームとしての面白さ」という本質的な課題をあぶり出したい。


「相模はRPGをプレイしていて、楽しいか?」


「突然ですね。ええ、プレイしていて楽しいし、好きですよ」


 彼女は少しの間、斜め下に視線を泳がせるような仕草をした。

 記憶の中にあるお気に入りのタイトルをなぞっているのだろう。


「どこに面白さを感じる?」


「ええと……まずは成長が数値で見えるので、強くなっている実感が持てるところですね。レベルアップが待ち遠しくなります。あとは新しいマップにたどり着いた時や、ボスを倒した時の達成感とか……」


「とか?」


 私が先を促すと、彼女は少し照れくさそうに目を細めた。


「あとは物語そのものの魅力ですね。クリアした後に余韻に浸れるというか。面白い本を読み終えた時と同じような感覚です。……先輩はどうなんですか?」


「俺は戦闘そのものに面白さを感じるタイプだな。試行錯誤して最適解を見つけたりするのが好きだ」


「先輩らしいですね。好きですよね。効率とか、ロジックとか」


 相模は納得したように頷くと、「あっ、こうやって会話しながらRPGの面白さのポイントを洗い出そうとしてるんですか?」と続けた。


「うん、まずは一般論でいいんだ」


「じゃあ中毒性があるところとか?」


「それは結果かな。面白いから中毒性を感じる」


「なるほど。でも先輩、一般論を洗い出すなら得意な子がいますよ」


「誰?」


「AIです。……相模さんmkIIじゃないですよ?」



 プロンプトを打ち込み10秒後――。



##################


RPGの面白さチェックリスト)


・成長の可視化:レベルアップや数値の上昇、強力な装備の入手によって、自分の強さがはっきりと実感できる。


・戦略的な攻略:強敵に対してアクションの組み合わせや属性、戦術を工夫し、試行錯誤して打ち勝つ達成感がある。


・未知の探索:新しい街、広大なマップ、隠しダンジョンなど、知らない世界を広げていくワクワク感がある。


・物語への没入:魅力的なキャラクターや重厚なストーリーを通じて、自分自身が主人公として世界を救う、あるいは変える体験がある。


・努力の報酬:苦労して手に入れたアイテムや、長い旅の末に迎えるエンディングなど、積み重ねた時間が報われる快感がある。


##################



「一般論ですね」


「よくまとまってる。一般論だけど」


「チェックリスト形式になっていますが、この後どうすればいいんですか?」


「リストを元に総当たりだ。企画書と照らし合わせて、リストとの差異を抽出する。どうする?項目ごとに企画書を読み直してチェックしていくか?五項目あるから計五往復で済むぞ」


「それは勘弁してください……」


「冗談だよ。じゃあ、ひととおり目を通した後に、ひとつずつ確認していこう」



  黙々と企画書を眺めて三十分後――。



「さあ、答え合わせだ」


 文字の見過ぎで目が痛いが、ここが踏ん張りどころだ。


「成長の可視化は、先輩が指摘したことと同じですね」


「ああ。会議の冒頭で述べたように、プレイヤーキャラクターとピーターのレベル概念、それに強化要素の整理が改めて必要だと思う」


「戦略的な攻略は……ここは、まだまだ甘いですね」


「ああ。プレイヤーのできることを組み合わせて、パズルを解くような戦略的バトルにさせればいいのか?」


「未知の探索は、ピーターが冒険できる先をしっかり作り込めば大丈夫そうですね。ただ、現状だと若干こじんまりとした感じはしますが」


「そこは同意見だ。ただ、子供の視点にとってはすべてが未知の何かに見えるはず。その感覚を壊さずにスケール感を出したい」


「物語への没入は、操作キャラが物語の主人公でない点が特殊ですが、ストーリーと世界観に練り込んであります。大丈夫だと信じましょう」


「それなりに魅力的なプレイヤーキャラを用意したつもりだしな。物語への介入手段もしっかり機能するはずだ」


「努力の報酬は大丈夫でしょう。親友との再会シーンで、プレイヤーを感動させてあげたいです」


「そうさせたいな。追加要素としてマップ踏破の報酬や、クリア後の隠しキャラなんかがあれば尚良しだ」

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