↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/67

第33話 ゲームシステム⑥

「ところで先輩。プレイヤーキャラクターが全滅したら、ピーターはどうなるんでしょう?」


「ん?どうなるというと?」


 相模から追加の質問が、飛んできた。

 まだまだ会議は続くらしい。


「ピーターのパラメータは『服の汚れ』や『帰宅時間』を想定していますが、道中で罠にかかった時や迷子になった時はそれでいいでしょう。ただ、ピーターは戦闘では無敵です。プレイヤーたちが全滅した時のペナルティも考える必要がありませんか」


 なるほど。

 身近な例に置き換えて考えてみる。


「例えば、相模の家の猫をこっそり散歩に連れ出して、よその野良猫との喧嘩に負けさせたら相模はどうなる?」


「うちの『きなこ』は散歩に連れて行きませんが……。まあ、例えとしては合っています。そうですね、私が子供だったら悲しくて泣いちゃうかもしれません」


 そういえば、そんな名前の猫だったな。『きなこ』ちゃんか。


「泣いて家に帰って、親に慰められるわけか」


「そのあと、猫を勝手に連れ出していたことがバレて、めちゃくちゃ怒られますね」


「だろうな。それで話を戻すけど、ゲーム的には『慰めてもらう』のと『怒られる』のと、どっちがいい?」


「ペナルティではなくなりますが、慰められるほうがいいですね。泣きながら帰ってくるピーターを両親が優しく慰める。初めて見た時はプレイヤーの心に残るシーンになると思います」


「全滅すると、プレイヤーのメンタルにダイレクトにダメージが残る仕様か。安易な全滅の抑止になるな」


 そこまで話して、ゲーム内の登場人物たちの関係性がうっすらと見えてきた。


「そうすると、ピーターがみんなを勝手に連れ回している状況は不自然だな。まあ、

一度ぐらいなら怒られるだけで済むだろうが、何度もやったら連れ出し禁止や外出も制限するのが親の心理だ。だからプレイヤーキャラは『親公認の付き添い』として、ピーターと行動している設定にする方が収まりがいいな」


「保護者代わりですか。でも、そうなると主人公であるピーターが『守られる存在』に戻ってしまいませんか?」


「確かに。じゃあこうしようか。プレイヤーキャラクターとピーターは対等の存在。いわば『遊び仲間』だ。仲がいいことは親も承知している、という具合に」


「その方が自然ですね」


「ただ、背後霊に使い魔、おまけに幻獣のペットまでが身近にいる環境って、一体どういう状況なんだろうな。ゲームだからと割り切るのも手だが……」


 私は、どうしても理屈っぽく細かいことが気になってしまう性分なのだ。


「一旦、背後霊ちゃんの存在は脇に置いておきまして……彼らがそばにいても不自然ではない環境を思いつきました。――『サーカス』です」


 サーカス――。

 その単語に思い当たるものがあった。


(すごいな、サーカスのイベントは見たのか)

(はい、『よく3Dモデルでここまで動かすなー』って感心しました)


「そうか! ハイフライヤーのアセットにサーカス関連の素材があったな!」


「はい。使い魔や幻獣はサーカスの看板スターで、プレイヤーキャラは彼らの子供。ピーターは日々彼らの世話をしている少年……という設定はどうでしょう?」


「いいな。毎日一緒に過ごしているからこそ、小さな彼らもピーターに懐いていて、ピーターのために頑張ろうと動くわけか」


「戦う理由も大好きなピーターのためならプレイヤーも感情移入しやすいはずです」


 戦う理由もピーターのため。

 バラバラだったピースが、次々と噛み合っていく。


 ……背後霊以外は。


「サーカスであれば、ピーターと親友との突然の別れもすんなり説明できますよね?サーカス団に移動はつきものですから」


 ストーリーの動線までもが、滑らかにつながっていく。


 ……背後霊以外は。


「相模、やったな! 一気に固まってきたぞ。この勢いで背後霊もなんとか片付けてくれ!」


 乗るしかない、このビッグウェーブに!


「……勝手に憑いてきたでいいんじゃないですか、ピーターの匂いにつられて」


「えっ」


「背後霊のことを真面目に考えてもしかたないじゃないですか。もう、そういう生き物にしましょう」


 生き物って、いや死んでるんだが。

 それに「背後霊」って呼び捨てになってる。

 

 さすがの相模も見捨てたくなったのだろうか?


 その時、ふと気づく。


「そんなに憑かれまくって、ピーター少年は大丈夫なんだろうか」


「何がですか?」


「背後霊は『白・赤・青・黄・緑』の五パターン計五体もいるんだぞ。それも全部、匂いフェチ」


「……それはもう、呪われてるって言ったほうが早いですよ」


 相模は「ふぅ」と一息つく。

 完全に考えるのを止めた様子だ。今日もそろそろ潮時かな?


「気にしたら負けだ。今日はここまでにしようか」


「そうしましょう」


 いつものように議事録作成をAIに任せる。


##################


第7回・国民的大人気RPG制作会議 議事録


日時: 202X年某日

出席者: 相模(司会・記録)、先輩(因幡)


1. プレイヤーキャラクターのパラメータ整理

ゲームとしての緊張感とリソース管理を両立させるため、各キャラクターにHP・MP等のパラメータを実装することで合意した。


・背後霊: 実体はないが、被っている「布」にHPがあるものと定義。HPがゼロ(布の損壊)になっても、予備の布があれば復活する「ゾンビ戦法」仕様とする。


・使い魔ちゃん: HP/MPによるリソース管理。攻撃力/防御力に基づくダメージ計算を採用。


・ペット: HP/SP(スキルポイント)によるリソース管理。攻撃力/防御力を実装。


2. キャラクターアクションの調整と世界観の構築

ピーター(主人公)が魔法を使えない前提に基づき、各キャラクターのアクションおよび設定を以下の通り整理した。


・背後霊: MPの主な用途をアクション「驚かす」に設定。ピーターの「匂い」に惹かれて憑いている設定(匂いフェチ)を追加。


・使い魔ちゃん: 単独での魔法発動を可能に変更。


世界観を以下の通り整理した。


・ 舞台:「サーカス」に設定。使い魔や幻獣は「看板スター」、ピーターは「世話係の少年」。プレイヤーキャラクターは「看板スターの子供たち」で、ピーターの「遊び仲間」とする。これにより、異形が身近にいる不自然さを解消し、団の移動に伴うストーリー展開の動線を確保した。


3. 敗北ペナルティと「親」の存在

プレイヤーキャラクターが全滅した際の挙動を明確化し、ピーターの独自パラメータと連動させる。


・敗北時演出: プレイヤーが全滅するとピーターは悲しみ、泣きながら帰宅する。

・ペナルティ: なし。ただし泣きながら帰宅したピーターを優しく両親が慰めるシーンを挿入することで、プレイヤーの心を揺さぶる。これは安易な全滅の抑止に繋がる。

 

4. その他(特記事項)

ピーターの健康状態と設定の整合性


・「背後霊は五色・計五体存在し、すべて匂いフェチである」という仕様に対し、相模氏より「それはもはや、ただの呪い」との指摘が入った。


・今後の課題: 五体の霊に憑依されながら旅を続けるピーター少年の強靭な精神、あるいは「背後霊の正体に一切気づいていない」という天然設定の可否について、引き続き検討を要する。


##################



「特記事項の最後気になりますね。AIさん、よく気づきました」


「ピーターが背後霊の正体に気づいているか、気づいていない場合の理由、これを考えないといけないんだろうな……」


「恥ずかしがり屋な使い魔が布の中に隠れている――と思っている、くらいでいいんじゃないですか? もう」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ミーティングルームを出ると、まだ定時前だった。

 手元のPCで本日の議事録を見返す。


 ピーターが背後霊の正体に気づく云々はさておき、残った課題として、RPGとしての骨組みを完成させるには、少なくとも以下の点は早急に詰める必要があるだろう。



①成長要素(レベル概念の整理)

・経験値の獲得源:戦闘勝利による獲得を基本としつつ、独自の加点要素が必要か。(例:「お膳立て」の成功度に応じたボーナス経験値など)


・レベルアップの対象:プレイヤーキャラクターのみが強化されるのか。あるいは、見守られる側のピーターも(意図せず)たくましく成長してしまうのか。


②強化要素(育成システムの拡張)

・成長以外の強化手段:装備や、消費アイテムの概念。

・強化対象の選定:キャラクターだけでなく、ピーターも装備変更が可能か。それにより「服が汚れにくくなる」等の耐性が付与されるべきか。


③やりこみ要素(コレクション報酬)

・地図(マップ踏破率):マップごとの踏破報酬。

・追加キャラクター:物語進行や特定条件で加入する、新たな「プレイヤーキャラクター」の追加。



 月曜日の会議設定を終え、思いついたことをメモに書き足していくうちに、定時のチャイムが鳴った。PCをスリープモードに切り替え、隣の席で片付けを始めた相模に声をかける。


「相模はまだ仕事残っている?」


「いえ、もう終わりました」


 相模はテキパキとデスクを整え、慣れた手つきで鞄を肩にかけた。

 

 オフィスビルを出て、夕景に染まり始めた最寄り駅へと向かう。

 道すがら、相模がふと思い出したようにこちらを覗き込んできた。


「先輩、今晩は何を食べるんですか?」


「ん? 夕飯、付き合ってくれるのか?」


「すみません、今日はおうちで食べます。ただ、お米禁止の先輩が何を食べるのかと気になりまして」


「まだ悩んでいるところだ。スーパーの弁当も、米が禁止だと一気に選択肢がなくなるんだよな。パスタか焼きそばくらいか?」


「お米って、本当にありがたい存在ですねぇ」


「禁止した張本人が他人事みたいに言うなよ」


 相模はくすりと笑い、改札の手前で足を止めてこちらを振り返った。


「明日のご飯、楽しみにしていてくださいね」


「ああ。相模が作るご飯、期待してるよ!」



 手を振って別れた背中を見送りながら、ふと溜息が出る。


 明日の朝食まで含めると、あと三食。

 この空腹感を抱えたまま「米抜き」で何を食べるべきか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。