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第31話 ゲームシステム④

「さて、一旦はこうまとめ直したわけだが」


 相模と対話を繰り返しゲームシステムの見直しを進める。


 なんだか背後霊の処遇に振り回されている気がしないでもないが、私は気を取り直して話を続けた。


 

①ピーターはプレイヤーキャラクターの後をついてくる。


②プレイヤーキャラクターはピーターが行動する際の障害を先回りして排除する。


③ピーターが窮地に陥った際は、背後霊が周囲の人間を操って間接的に彼を助ける。


 

「決まったのは背後霊ちゃんの物語における役割だけですね。肝心の、プレイヤーが実際にキャラを操作して何をするか、プレイ上の役割を詰めないといけません」


「物語の介入手段とプレイ上の役割は別ということか……確かにそうだな。相模は何か具体的なイメージはあるのか?」


 あらためて話を振る。


「はい。さっき肥後さん達にもお伝えした通り、操作する側の役割はお膳立てです。プレイヤーが苦労して整えた舞台の上で、ピーターがのびのびと活躍する。そんなイメージを形にするなら、例えば……」


 画面上のメモに相模のアイデアが書き込まれる。


 ①プレイヤーキャラクターは、進行ルート上の罠を無力化する。


 ②スキルやアクションを駆使し、ピーターに向けられた敵のヘイト(標的)を自分に引き寄せる。または弱体化させる。


 ③最後はプレイヤーがお膳立てした舞台で、ピーターが『とどめ』を刺す。



「ピーターにとどめを刺させるのか? 戦闘の主導権も彼に?」


「いえ、あくまでゲーム的な演出、フィニッシュを任せます。プレイヤーが弱らせた敵に対し、ピーターが勇気を振り絞って必殺技を放ち、追い払うといった感じでしょうか」


 なるほど。


 プレイヤーが下準備をこなし、スポットライトが当たる瞬間は主人公に譲る、というわけか。


「そうなると、プレイヤーの合図で決定的な一撃を放つ、『召喚獣』のような立ち位置になるのか」


「ええ、それに近いです。ですから、いっそピーター自身にHP(体力)やMP(精神力)は不要ではないか、とも考えています」


 メモに④を追加する。


 ④ピーターは『無敵』のサポートキャラクターとして機能する。


「書いておいてなんだが、無敵にしちゃうとゲーム的な緊張感がなくならないか?」


「なくなりますね……。ダメージを受けないとなると、リソース管理の概念が消えてしまいます」


 相模が困ったように眉を寄せた。

 無敵の子供が、それでも恐れるものは何か。答えは、案外すぐ近くにあった。


「――『親に怒られる』ようにしよう」


「親にですか?」


 相模が意外そうに目を丸くする。


「HPやMPの代わりに『服の汚れ』『帰宅時間』をパラメータにするのはどうだ?ダメージを受ける代わりに泥んこになってゲージが溜まりすぎるとゲームオーバー。いや、説教イベント発生でどうだ?」


「あ、なるほど。服を汚しすぎると、確かに親にめちゃくちゃ怒られますね。それで親からの信頼度も下がってしまうと」


 相模は遠い目をして、自身の幼少期でも思い出すかのように天を仰いだ。


 もしかしてお転婆な女の子だったのだろうか?

 食いしん坊であったことは確実だろうけど。


 結果的にだが、これでピーター側の役割について、だいぶ整理がついてきた。


「で、残るはプレイヤーキャラ側だな。役割は先程の通りだが、こちらのHPやMPをどうするかだ。かわいいキャラクターがバタバタやられる姿を見るのも、少し忍びない気がするんだが」


「ですよね……。そこが次の課題ですね」


 相模も現時点では明確な回答を持っていないようだ。

 時刻を確認すると、予定の終了時間が迫っていた。


「じゃあ、続きは明日にしようか」


「そうしましょう。ではAIさんに議事録作成をお願いしますね」


 議事録が出来上がるのを待つ間、互いの予定とミーティングルームの空き状況を突き合わせ、明日は十五時開催と決まった。



##################


第6回・国民的大人気RPG制作会議 議事録


日時: 202X年某日

出席者: 相模未来(司会・記録)、因幡


1. コンセプトの再定義

肥後課長より提示された「ストレス緩和ではなく、楽しませること」という課題に対し、従来の「護衛対象(主人公)の操作代行」という設計を破棄。不自由さを「面白さ」へ変換する逆転の発想により、以下の新軸に合意した。


・主客の転換: 主人公ピーターを「守られる弱者」から「プレイヤーがカッコよく活躍させる主役」へと再定義。


・プレイヤーの役割: 直接的な無双ではなく、主人公が輝くための「お膳立て(舞台作り)」に特化する。


2. 「背後霊」キャラクターの機能変更(NPC憑依システム)

主人公への直接憑依は「主人公の成長を阻害する」との相模氏の懸念を受け却下。代わって、物語介入の手段として以下の新仕様を策定した。


・NPC憑依: 主人公ではなく、周囲の大人やNPCに憑依し、間接的にピーターを助け、物語を誘導する。


・スキルセットの整理:

 取り憑く:特定のNPCを一時的に操り、状況を打破させる。(更新)


 暴く:主人公には見えない「真実」や「道」を視覚化して見せる。


 驚かす:周囲のオブジェクト(椅子、燭台、鎧など)をガタガタ動かして音を立て、敵またはNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)を翻弄する。


3. プレイヤーキャラクターと主人公のゲームデザイン

「お膳立て」の概念を具体的なゲームサイクルに落とし込む。


・ヘイト管理と罠解除: プレイヤーはピーターへのヘイトを自身に引き付け、進行上の罠を先回りして無力化する。


・フィニッシュ演出: プレイヤーが泥臭く準備した舞台で、最終的な「とどめ(追い払い)」をピーターに刺させることで、カタルシスを演出する。


・リソース管理の独自性:ピーターは「無敵」のサポートキャラクターとし、HP/MPの概念を撤廃。


・代わって「服の汚れ」「帰宅時間」をパラメータ化。閾値を超えると「親に怒られる(説教イベント)」という独自のペナルティを課すことで、冒険の緊張感を維持する。


4. その他(特記事項)


・相模氏の幼少期: 「服を汚して親に怒られる」仕様に対し、強い実感を伴う反応を示した。過去に相応の経験則がある可能性が高い。


##################



「毎回思うんだが、この特記事項には何かしら余計なコメントが入るな」


「本当ですね……このAI、妙に『言葉の裏』を読んでくるところがありますよね」


 自動生成された議事録の末尾を眺め、二人で苦笑いする。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「相模、夕飯どうする? 何か食べていくか」


「いいですね。じゃあ、今日はお供します」


 相模は手慣れた様子でスマホを操作し始めた。

 いつものように家族に連絡を入れているのだろう。


「さて、今日も妹さんから即レスはあるかな?」


「あ、もう来ました」


「早いな」


「『お土産はスイーツでよろしく』……だそうです。まったく」


 相模が楽しそうに店選びを開始する。


「すみません、お店はこの前寄ったカフェでもいいですか? あの店はケーキも美味しいんですよ」


 先週寄ったパンケーキの店だ。

 

「ああ、いいよ。それから今日は奢るよ。昨日できなかった、キックオフの前祝いにしよう」


「ありがとうございます!  あ、でもお土産代は自分で払いますからね」


 先日訪れた喫茶店に入り、メニューを眺め始めたところで、会社用のスマホに着信があった。


「悪い、ちょっと会社からだ。俺の分の注文も任せていいか? 『パンケーキ三枚セット』以外で頼む。飲み物はアイスコーヒーで」


 スイーツに関して、これまで相模に任せて外したことはない。


 前回食べたパンケーキも美味しかったが、ただ、三枚は少し重いと感じていた。

 それに昼食もパンだったしな。


「わかりました、安心して任せてください」


 ……安心してください?

 

 ん? ちょっと待てよ?


 相模に注文を任せるということは、封印していたはずの「おまかせ」注文と本質的には同じではないだろうか。


 嫌な予感を振り払い、店外に出て電話に応答する。


 以前担当していたソーシャルゲームでトラブルがあり、至急助けてほしいとのことだった。現担当が捕まらず、私にお鉢が回ってきたらしい。


 十分ほどかけて対処法を説明し、対応を見届けてから席に戻ると、テーブルの上には、すでにアイスコーヒーが二杯運ばれていた。


「お疲れ様です。電話、大変そうでしたね」


「ああ、以前担当していたアプリのログ収集処理に不具合が出てな。データの補正とリトライを指示してきた」


「明日じゃダメだったんですか」


「収集結果の数字を使って、これから明日の会議資料を作るんだってさ」


「働き者ですねぇ……じゃあ、仕方ないですか」


 そんな会話をしている最中、予感は的中した。

 

 ――いま、私の目の前に『パンケーキ五枚』が鎮座している。


「何これ?」


「前祝いです。いつもより豪華にしてみました」


「……」


「今日は自分の分も頼みましたから、先輩に分けていただかなくても大丈夫ですよ」


 相模がニヤニヤしながら「お裾分け」を先回りして辞退する。


 メニューに「三枚セット」が上限であるのを確認した上で、任せた結果がこれだ。


 店内を見渡すと、ポップに『パンケーキ一枚追加:三〇〇円』と小さく書かれているのを見逃していた。完全な油断だった。


 運ばれてきたのは、相模の二枚セットと、私の「三枚セット+追加二枚」。

 五枚の積み重ねではなく、追加分は別皿で供されていた。


「はたから見たら、俺、どんだけパンケーキ好きなんだよって話だよな」


 五枚はギリギリ食べきれる範囲か……?

 

「そうかもしれませんね。でも、ここのパンケーキは絶品ですから。このふわふわでとろける食感は、お店じゃないと食べられない味ですよ」


「自分ではこんなに上手に焼けませんから」と、相模は幸せそうな笑みを浮かべてパンケーキを頬張る。食べ物を前にした時の彼女はいつも上機嫌だが、甘いものが加わるとその幸福度は限界突破するらしい。


「そういえば昼間もパンだったんだが……」


「それは、美味しいお米を食べるためです。先輩、明日もお米は禁止ですよ」


「えっ?」


「明後日、私の家に来たらお腹いっぱい食べさせてあげます。それまで我慢です」


 ようやく三枚を食べ終え残り二枚を眺めて途方に暮れていると、相模が店員を呼び「お持ち帰り用にしていただけますか」と告げた。


 持ち帰れるのか、これ。助かった。


 その後、相模は家族への手土産として『秋の新作ケーキセット』を大事そうに抱えて店を出た。


 明後日の相模家訪問、手土産にケーキという選択は消去したほうが良さそうだ。



 ——そして、私の明日の朝食がパンケーキになることも確定した。

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