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第29話 ゲームシステム②

「日向さん、資料の準備ができました」

「お、できたか。見せてくれ」


 チャットで日向さんに資料を転送する。



##################


国民的大人気RPG企画(案)


■タイトル

・未定(企画内容の深度に合わせて、後日正式決定)


■コンセプト

・物語の主人公を、プレイヤーが操作するキャラクターが「支援・誘導」する、多角的視点介入型RPG。


■テーマ

・子供の「成長」と「親からの自立」を描く。

・主人公の目的は、離れ離れになった親友と再会するために旅へ出ること。その許可を得るため、親からの「信頼」を勝ち取っていくプロセスを主軸に据える。


■世界観

・「優しいけれど、甘くはない世界」。

・暖かみのあるファンタジーな雰囲気は維持しつつ、子供が独力で歩むには相応の困難(魔物の存在や社会的な責任)が伴う現実感を持たせる。


■物語・ストーリー構成

・親友と「新しい何か」を探す日々を楽しんでいた子供が、突然の別れをきっかけに、自らの足で世界へ踏み出す姿を描く。


 オープニング:親友との幸福な日常、そして突然の別れ。

 序盤:一人残された日々と再起。外出動機(おつかい等)の発生。

 中盤:旅の準備(費用・移動手段の確保)。現実的な障壁の解決。

 終盤:親友のもとへ向かう旅路。未知の世界との遭遇。

 エンディング:再会とフィナーレ。二人の未来を予感させる結末。


■ターゲット

・全年齢層

・親子の絆や成長を描くことで、子供から大人まで幅広い共感の獲得を目指す。


■プラットフォーム

・ハード:Ninkyodo Swapスワップ

・選定理由:携帯モードの利便性と、ターゲット層(ファミリー・ライト層)の普及率を最優先。


■ゲームサイクル

・子供の日常に生じる「壁」に対し、プレイヤーキャラクターが「介入・支援」することで「親の信頼(旅の許可)」を獲得し、物語を進行させるループ。


・魔物が潜む危険な場所へ「お使い」に行き、無事に帰還することで親の信頼を勝ち取る。

 

■セールスポイント

・「物語の主役」と「操作主体」の分離:ドラマチックな固定シナリオを鑑賞しつつ、プレイヤーとしての「自由な介入」を両立。


・精神的障壁の導入:力による解決ではなく、親を納得させ、信頼を得るという「社会的・精神的なハードル」を冒険の主軸に据えた点。


・マイルドな表現: 優しい世界観を維持するため、流血等の暴力的演出を排除。エフェクトによる「追い払う」表現にとどめ、低年齢層への配慮を徹底する。


■登場人物

・物語の主人公:ピーター(仮名)。性別は男の子・女の子から選択可能。プレイヤーの選択肢を広げ、没入感を高める。


・別れた親友:検討中。今後合流するメンバーと協議の上、詳細を決定。


・主人公の両親:単なる反対者ではなく、子供を「覚悟を持って送り出す」存在。厳格さと愛情を両立させ、陰ながら子の無事を祈る存在として描く。


プレイヤー操作キャラクター)

・現段階では三種を想定。詳細は合流メンバーと相談の上、決定。

(※詳細は別紙参照)


■国民的要素について


1. 「誰もが通った道」を冒険にする普遍性

・従来のRPGが「魔王を倒す」「世界を救う」という非日常を主軸にするのに対し、本作は「親を説得して旅に出る」という、誰もが人生で一度は経験する精神的自立をテーマに据えている。


・親子それぞれの視点からアプローチすることで、一過性のブームに終わらない「世代を超えて語り合える」国民的タイトルの条件を満たす。

 

子供視点:「早く大人になりたい」「外の世界を見たい」という純粋な憧れと冒険心を刺激。


大人視点:かつての自分を投影しつつ、親としての葛藤や「見守る愛」に共感し、落涙する。

 → この「普遍的な体験の共有」こそが、全世代に受け入れられるコア・バリューとなると捉えている。


2. 「鑑賞」と「介入」を両立した、新しいスタンダード

・プレイヤーが「神の視点(支援者)」として介入することで、「自分だけの物語」を紡ぐ主体性と「最高に良質なアニメ映画」を観ているような没入感を両立させる。

→  動画配信やSNSでのシェアが主流の現代において、主人公ピーターの成長を第三者として「見守る」スタイルは、視聴者との親和性が極めて高いと判断している。


3. キャラクター性の取り込みやすさ

・プレイヤーの操作するキャラクターは物語の「主役」ではないため、その造形や設定における自由度が非常に高い。

→  将来的に、社外リソースである「国民的大人気キャラクター」を操作用キャラクターとしてコラボレーション展開できる、受容性の高い土壌を有している。


##################


●国民的大人気RPG企画(別紙:プレイヤー操作キャラクター案)


・ハイフライヤーのアセット活用を前提としている。

・キャラクターバリエーションの拡充により、プレイヤーの収集欲求を喚起する。


■背後霊タイプ

・主人公を随伴支援する霊的個体。

・ゴーストタイプからモデル・モーションを流用する。

・キャラクターバリエーションの展開は色分けで行う(白、赤、青、黄、緑など)


コマンド/アクション例)

・取り憑く:一時的にプレイヤーが物語の主人公へ取り憑き操作できるようになる。

・暴く:主人公には見えない「真実」や「道」を視覚化して見せる。

・驚かす:周囲のオブジェクト(椅子、燭台、鎧など)をガタガタ動かして音を立て、敵またはNPCノン・プレイヤー・キャラクターを翻弄する。


■使い魔タイプ

・主人公を支援する魔導個体

・使い魔(数種類)、妖精(数種類)からモデル・モーションを流用する。


コマンド/アクション例)

・唱える:主人公の魔法にシンクロし、その効果を高める。

・気をそらす:身代わり(おとり)となる。

・伝える:メッセンジャーとして離れたNPCに主人公の意志を届ける。

・誘惑する:敵を誘惑し一時的に味方につける。


■ペットタイプ

・主人公を随伴支援する動物個体。デザインは幻獣タイプとする。

・フェンリル、カーバンクル、ケット・シー、マンドラゴラからモデル・モーションを流用する。


コマンド/アクション例)

・固有攻撃:各キャラクター固有の攻撃モーション(引っ掻く、咬みつく、など)。

・話す:他の動物たちとコミュニケーションをとり、情報を聞き出す。

・癒す(いやす):愛くるしい仕草で、主人公のパラメータを回復させる。

・もらう:NPCに「おねだり」して、エサや貴重なアイテムを巻き上げる。


##################


「どうでしょうか」


 日向さんに資料を差し出し、コメントを求める。


「説明用としては十分だ……それにしても、お前、AIの使い方が上手だな」


「やっぱり、AIが作ったってわかりますか?」


「言葉選びにそつがなさすぎてな、かえって違和感がある。一昔前なら『それっぽい言葉』を探すだけでも一苦労だったんだが……いい時代になったというか、何というか」


「もっと若者っぽく……例えば『相模っぽく書いて』なんて指示も出せますよ?」


「やめてください」


 相模が、隣で私を鋭く睨む。


「今度は何をやらかしたんだ?」


 日向さんがニヤニヤしながら茶化すと、「日向さんも、やめてください!」と、と相模の矛先が上司にも向いた。


 見事な巻き添えを食らった日向さんは、「お前ら、本当にいいコンビだな」と苦笑いしながら話を締めた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 運営三課は、自社開発したソーシャルゲームタイトルの運営をメインに活動している部署だ。


 課長の肥後さんは、先日、新キャラのボイスをテスト用の仮音声のままリリースしてしまった事件――通称「ミミック事件」を引き起こしたチームの責任者でもある。日向さんにとっては年上の先輩にあたる人物だ。


「お疲れさん。今回のプロジェクトだけど、うちの課からは石見を出すことにした。よろしく頼むよ。確か因幡君の同期だったよね?」


 石見は、先日の事件の際にも顔を合わせた同期だ。


「はい、そのとおりです。肥後さん、ディレクターを引き受けてくださりありがとうございます。これからよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 相模と一緒に頭を下げる。


「はは、安心してくれ。仕事は全部、日向君に丸投げするつもりだから。今回の件、元を正せば日向君が言い出しっぺだろ? きっちり責任を取ってもらわないとね」


「肥後さんも少しは働いてくださいよ」


「最初から自分でやるのと、僕の尻ぬぐいをするのと、どっちがいい?」


 二人のやり取りの節々に、気安い関係性が透けて見える。これなら現場がギスギスすることもなく、円滑に進められそうだ――私は密かに胸をなでおろした。


「では早速、今回の企画案を練っている因幡と相模の二人から概要を説明させます。まずは聞いてください」


 日向さんが肥後さんの問いをさらりと流し、進行を振る。いよいよボールが私たちの手元に回ってきた。


 手元のPCを操作し、整然と文字が並んだ企画書をミーティングルームの大型ディスプレイに投影した。

 



「——以上が、今回の企画概要となります」




 一通りの説明を終えると、肥後さんが深く腕を組んだ。


「うん、よくできている。正直、驚いたよ」


 最初に出たのは、素直な称賛だった。


「特に『背後霊』というキャラはいいね。遊び方に幅が出せる」


 次に続いたのは、私の推しから外れた背後霊への評価だった。……見切るのが早すぎたか?


「でしょう?」


 日向さんが得意げに同意を求める。だが、肥後さんの表情は緩まなかった。


「ただ、ひとつだけ気になることがあるかな」


「やはり『優しいけれど、甘くはない』という、バランスの部分でしょうか。過度な暴力を抑えつつ、戦闘を『自立の証明』として描く手法については引き続き検討予定ですが……」


 肥後さんの指摘を先回りするよう、相模がコメントを挟む。自分たちが必死に導き出した答えを、守ろうとするかのように。


「いや、そこはバトルデザイン担当に任せればいいさ。もっと根本的なところだよ。プレイフィールに問題かな」


 肥後さんは一度日向さんに視線を送り、回答を促した。話を振られた日向さんは、わずかに目を細めて答える。


「『護衛ゲー』は総じてプレイヤーの受けが良くない、ということですか」


 護衛ゲーム。敵から味方を守りながら、目的地まで送り届ける。あるいは、特定の対象を一定時間防衛するタイプのゲームを指す。

 私たちが提示した「主人公を支援し、導く」というコンセプトは、まさにその性質が強い。


「当たり。護衛ゲーは、護衛対象の挙動が賢くないとプレイヤーが猛烈なストレスを感じるんだよ」


 称賛から一転。ベテランの口から、ゲームシステムとしての構造的な欠陥が突きつけられた。

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