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第25話 物語⑤

「これより第5回・国民的大人気RPG制作会議を始めます。司会は引き続き、私、相模が務めます。議事録は会議ツールのAIさんにお任せしますので、発言はハキハキとお願いしますね」


 もはやお馴染みとなった、相模による開会宣言が読み上げられる。


「本日の議題は『主人公の目的』の絞り込みです。候補の中から最終的な一案を選ぶことにしましょう。まずは先輩から発言をどうぞ」


「パス」

「えっ」


「パスします」


 予想外の回答に相模が不審げな目を向けてきた。


「ひょっとして『先輩は誘い受けのM』って言われたこと根に持ってます? それとも新しい誘い方ですか」


 くっ……、最近、容赦ないな、この後輩は。


「今日の会議の結論は出ている、だからパスだ」


「……」

「……」


「意味不明で斬新な脱線ですね……脱線勝負では勝ち目がないと認識したはずだったのでは」


「日々学習だ」


「何か企んでいますね……」


「別に企んでいるというほどのことじゃないさ。俺の中で答えは出ているし、相模が選ぶ答えも予想はついている。故に会議の結論は出ているも同然だ、だからパスだ」


「……ほう、そうですか、わかりました。では私の答えを当てたら先輩の勝ちということにしましょう」


 相模が「やれやれ」と肩をすくめながら自分の意見を述べ始める。


「まず①『秘密基地』を『生み出す』。これは秘密基地を作る『動機』が弱すぎます。子供にとっての秘密基地は、言い換えれば大人からの『逃げ道』。プレイヤーはノスタルジーを得られるでしょうが、それ以上の広がりがない気がします」


(ふむ)


「次に②『大切な落とし物』を『届ける』。これも採用は難しいです。単なる道徳心や義務感に突き動かされているだけで、物語のきっかけが『偶然』に依存しすぎています。主人公が動くべき必然性がありません」


(ふむふむ)


 相模の分析は続く。


「⑤『地図にない道』を『見つける』。これは悪くないですね。子供は常に『新しい何か』を探すこと自体を楽しんでいる節があります。これもノスタルジー寄りではありますが、①よりは前向きな印象です。全体のメインシナリオにはならなくても、中盤の『目標』として置いておくのはアリかもしれません」


「うん。そこまででいいよ」


 私は相模の発言を遮った。


「どうしたんですか、急に……ひょっとして今までの中に答えがあると思っていましたか?」


「いや、ここまでの選択肢の中に相模の答えがないことは予想通りだ。俺の読みは当たっている」


「ではなぜ止めたんですか」


「答えが分かっているのに、このまま全部、喋らせ続けるのは悪いと思ったんだ。ちなみに俺が考えている結論と、相模が考えている結論は同じだよ」


「そんなに自信があるんですか」


「ある」


 そう、彼女のおかげで。


「ならば、せーのでいきますか。外したら……今日は語尾に『ワン』とつけて喋ってもらいますからね」


「いいぞ」


 想定よりSっ気が強くなってるな……それでも私は彼女を信じる!


「せーの」



「⑩番」

「⑩番」



 ——二人の声が重なった。




「なぜ私の考えが読まれたかは置いておくとして、先輩はどうして⑩番がいいと思うんですか?」



⑩「別れた友達」に「会いに行く」


・遠くへ行ってしまった親友に会うため、地図と勇気だけを頼りに、見知らぬ町へとひとりで向かうロードムービー的な冒険。



 ——先日、ショッピングモールで家族連れを見かけた時に思い出した、懐かしい感覚について相模に説明する。


(親の目からは離れるが、親の知っている場所から始まる、私だけの冒険)


(そんな他愛もない冒険が、当時は最大の武勇伝だった)


(行ける場所が増えるたび、自分たちが少しずつ自由に、少しずつ大きくなっていくような全能感に満たされていた。)


 子供はいつか、親の視界を、その思惑を越えていく。

 それが「成長」というものの正体なのだろう。


「子供を主人公にするなら『子供が親の思惑を乗り越える』物語にしたかったんだ。その視点で候補を選んだら、⑩が本命で⑤が対抗、という結果になった。二つのうち、より目的が明確なのは⑩だから、その分の差だな」


 一息入れ、相模に聞き返す。


「相模はどうして⑩番を選んだんだ?」


 まともな回答にビックリしている相模の目をじっと見つめる。


「私が⑩番を選んだのも、似たような理由です。私は、もっと『物理的な断絶』に注目しました。子供にとって、隣町ですら異世界です。親に送ってもらう以外に移動手段がない子供にとって、自分の足だけで『境界線』を越えるのは、世界との決別、つまり親の加護という名の『支配』からの脱却を意味します。それに、この『友達』っていうのがポイントです。親はよく『また新しい友達ができるわよ』なんて、自分の都合で子供の人間関係をリセットしようとしますよね。でも⑩の主人公はそれを拒否する。親の敷いた『諦め』というレールを脱線して、自分だけの『執着』を証明しに行くんです。目的地の見えない⑤番よりも、明確に『拒絶すべき親の思惑』と『守るべき自分の意志』が対立している。……これこそが、プレイヤーを共感させる『苦難』だと思いませんか?」


 長々とした説明に、違和感が走る。相模にしては発言が賢すぎる。それに、ちらちらとディスプレイを見すぎだ。


「相模」


「なんでしょう」


「回答をAIに考えさせただろう」


「何のことでしょう?」


「相模にしては言葉選びが巧みすぎる。『物理的な断絶』と『境界線』を組み合わせた表現といい、それに『諦め』の対義語が『執着』だなんて良く知ってたな?普段の相模からは想像がつかない語彙ごい力だ」


「国語の先生ですか!いったい、何のことでしょう?」


 あくまで、しらを切る気か。


「まあいいや。相模が答えを当てられたということは、今日は俺の勝ちでいいよな」


「仕方ないですね……勝ち負けにこだわる意味も分かりませんが、まあいいでしょう」


 負けたくせに上から目線とは……ここで私の中のS魂に火が入った。今日は完膚なきまでに相模に勝利することを決めた。


「相模、敗北の理由を知りたいか?」


「別にいいです」


「まあ、まあ、そう言わずに」


「結構です」

「……」


 聞いてくれないと困るんだが……


 しばしの沈黙ののち、相模がため息をついて諦めたように口を開く。


「では、敗北の理由とやらを聞きましょうか」


「相模がAIに任せず、自分で答えを判断したことが敗北の原因だ」


「意味が全く分からないんですが……」


「知りたい?」


「知りたいです」


「後悔しないか?」


「話に乗ったことを後悔しています。ですからさっさと説明してください」


「よろしい」

「?」


「では、これからAIの本当の使い方を教えてやる!!」


 私は自分のPCから「AIエージェント」を立ち上げ、プロンプトを打ち込む。



>相模が予想する番号とその理由を教えてください



##################


 承知いたしましたわ。小娘の選ぶ番号とその根拠を、わたくしがエレガントにシミュレートいたします。


 答えは当然、⑩番以外ありえませんわ! (にゃーん)


 理由は極めてシンプル。わたくしなら『空間の隔絶』と『自由への逃走』にスポットを当てますわ。


 弱小な子供にとって、自力で辿り着けない場所は存在しないも同然——つまり、他者の送迎に依存する生活は『軟禁』そのものですわ(にゃーん)。その見えない檻を破り、未知の領域へ踏み出す行為こそが、親の管理下からの『亡命』であり、RPG的なカタルシスを生むはずですわ。


 さらに『再会』という目的もエモいですわね(にゃーん)。大人は『代わりはいくらでもいる』なんて傲慢な理屈で絆を断ち切ろうとしますけれど、そんな身勝手なスクラップ&ビルド、わたくしが認めませんわ! 与えられた環境に妥協せず、自らの『エゴ』を貫き通すために地図を広げる……。漠然と歩く⑤番よりも、よっぽど反骨精神に溢れたドラマチックな冒険になりますわよ。……いかがかしら? わたくしの完璧な推論に、ひれ伏してもよろしくてよ?(にゃーん)


 ##################



「……なんですか、これは。口調が悪役令嬢のそれなんですが……それに、意味不明なタイミングで『にゃーん』が混ざってるんですけど」


「どちらも心当たりあるだろ。学習の成果だ」


 相模は呆然としている。


 悪役令嬢と猫のインパクトが強すぎたせいか、時折彼女が見せる「先生口調」や、先日乱入した「母親成分」までは反映されていないようだ。シンプルゆえに、かえって破壊力が増している。


「こいつの正体は、相模の発言を学習させたAIエージェント、『AI相模さん』だ。会議前にこいつと壁打ちをした結果から、相模が⑩番を選ぶ可能性が高いことも導き出せたんだぜ、凄いだろ」


 口調が自然と悪役令嬢風になることを除けば良くできたエージェントだ。私は心の中で自画自賛する。


 相模の沈黙は続く。そして————



「……ごめんなさい、参りました。今すぐ『AI相模さん』消してください」



 ドン引きしながら、相模が再び敗北を認めた。


 これで二勝二敗、一引き分け。AI相模さん」の暗躍(?)により、ようやく戦績を五分に持ち込むことができた。


 だが、「AI相模さん」が導き出したシミュレーション結果は、これだけではなかった。



(この後、がっつり叱られるんだよな……予測では)


 そんなこと、AIに言われるまでもない。

 勝利の代償として、私は大人しくお説教を食らうことにした。

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