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第24話 物語④

「それでは結果発表です」


 相模がAIにより作成された議事録を共有する。選定理由もAIがまとめてくれていたので、非常に助かる。

 なお、前半部分(相模母の登場、猫の乱入)は、カットした。



##################


第4回・国民的大人気RPG制作会議 議事録


日時: 202X年某日

出席者: 相模未来(司会・記録)、因幡


1. 物語上の目的候補の選出


『主人公を子供にした場合の物語上の目的』についてリストアップを行った。


①「秘密基地」を「生み出す」

・大人には価値のないガラクタや場所を、自分たちだけの聖域(世界)として作り上げていく物語。


②「大切な落とし物」を「届ける」

・偶然拾った落し物は、やがて世界の運命を左右する、大きなうねりへと繋がっていくものだった。


③「あの日」を「直す」

・過去の後悔や、壊してしまった大切な関係。不思議な力を使って、やり直せないはずの時間を修復しに行く。


④ 「誰かの夢」を「灯す」

・希望を失い、色が褪せてしまった大人たちの心に、子供ならではの純粋さで再び光を灯していく。


⑤「地図にない道」を「見つける」

・教科書や大人の常識には決して載っていない、自分たちだけの未知なる世界を切り拓く。


⑥「春の訪れ」を「連れてくる」

・止まってしまった季節や、凍りついたままの時間。子供の活力と瑞々しい感性で、世界を再び動かすファンタジー。


⑦ 「迷子の神様」を「案内する」

・頼りない神様と出会い、子供がその手を引いて目的地へと導いていく――立場が逆転した冒険。


⑧「嘘」を「かなえる」

・ついてしまった小さな嘘を現実にするため、子供たちが必死に奔走し、奇跡を起こす物語。


⑨「消えゆく物語」を「書き足す」

・忘れ去られようとしている伝説や童話の世界に入り込み、ハッピーエンドのその先を自分たちで綴る。


⑩「別れた友達」に「会いに行く」

・遠くへ行ってしまった親友に会うため、地図と勇気だけを頼りに、見知らぬ町へとひとりで向かうロードムービー的な冒険。


##################


 もともと用意していた言葉と、その場でひらめいた言葉が混ざり合い、ようやく、ひとつのリストが完成した。

 ――ここまで、思った以上に長かった。


「予定よりピックアップに時間がかかっちゃいましたね」


「そりゃそうだよ。適当な名詞を軸にして、脳内の動詞を総当たりに近い状態でぶつけてたんだから」


 名詞にぴったりの動詞を「意識的に探す」というのは、意外なほど脳のリソースを消費する。このままこの作業を続けていたら、いつか詩人にでもなれるんじゃないか。そんな錯覚を覚えるほど、語彙ごいの選択能力が鍛えられていく感覚があった。


「……で、ここからさらに絞り込みをかける必要があるわけだが」


「今日はここまでですね。お腹も空いちゃいました」


 PC内の時計を見れば、すでに二十時を回っている。集中していたせいか、時間の感覚が麻痺していた。


「じゃあ、今日はここまでにしよう。残業申請、出し忘れるなよ」


「承知しましたー。あ、でもその前に」


「その前に?」


 この期に及んで、まだ何か企んでいるのか。


「妹たちに挨拶させましょうか? さっきからドアの前で聞き耳を立てている気配がするんです」


「これ以上、残業させないでくれ……」


 今の自分は脳内の糖分が枯渇しかけて、疲れた顔が表情に出ているだろう。できれば妹達には「シュッ」とした顔で会いたい。


 明日に備えて、十六時からミーティングルームを確保し、第4回・国民的RPG制作会議は幕引きとなった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 栄養補給のため、近くのスーパーへと出向き、狙いはいつものように半額弁当……だったが、完全に出遅れた。目ぼしい弁当は既に売り切れている。

 幸い、総菜類はまだ残っていた。私はそれらを手に取り、組み合わせを考える。


 ・メンチカツ×コロッケ×鶏の唐揚げ:茶色は正義。カロリーを気にしなければ、満足感は高い。

 ・厚焼き玉子×マカロニサラダ×ひじきの煮物:家庭の味だが、朝食向けの組み合わせ。

 ・白身魚のフライ×ちくわの天ぷら×きんぴらごぼう:のり弁当で鉄板と言える組み合わせだが、我が家に肝心な「のり」がない。


 悩んだ末、三番目のセットを選択した。

 これは実験だ。のり弁当の本体は「のり」なのか「おかず」なのか、白黒はっきりさせる日が来たのだ。


 冷凍していたご飯を温め直し、皿に盛る。その上へ、申し訳程度に醤油を垂らし、白身魚のフライ、ちくわの天ぷら、きんぴらごぼうを盛り付けた。

 「のり」のない、のり弁当風の何かが出来上がった。


「さて……」


 いざ、実食。しばし箸を進める。

 空腹が満たされるとともに、脳に栄養が流れていく気がする。


「……まあ、予想していた通りの味だ」


 のり弁当に箸を入れた際、「のり」が上手く切れず、すべて先に剥がれてしまった……あの「のり亡き後に残された味」そのものだった。


(のりがないにもかかわらず、のり弁当の幻影を強く感じる。この勝負、むしろ『のり』の圧倒的な存在感を証明する結果になったのではないだろうか……?)


 ひとしきり哲学的な自問自答を繰り返したが、結局、明確な結論は出なかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「先輩、おはようございます」


 翌朝、いつものように出勤した私を見つけるなり、相模が挨拶を投げかけてきた。


「おはよう。昨日は大変だったな……というか、大変にしてくれたよな」


「はい、大変でしたね」


 相模は他人事のようにとぼけているが、その目は明らかに楽しげに笑っている。

 私のボイスチェンジャーによる先制攻撃から、相模の母親登場という予期せぬカウンター。妹ちゃん達乱入という脅迫行為、そしてトドメの一撃は猫の「*(お尻の穴)」ドアップ。昨日のオンラインミーティングは、完膚なきまでの完敗だった。


 ここで改めて、これまでの「国民的大人気RPG制作会議」という名の、戦いの歴史を振り返る。



 第1回:私の勝ち

 かなりの言葉責めを受け、性癖までさらす羽目になったが、スピーカーフォンが自分のPCにしか刺さっていない事実に相模が気づかなかった。結果、議事録にはすべて相模の暴言として出力されるという自爆により、漁夫の利で勝利。


 第2回:相模の勝ち

 前半は語尾に『ニャ』をつけて喋らされるという辱めを受け、後半は悪役令嬢になりきった相模の猛攻を前に、巻き返せず敗北。


 第3回:引き分け

 ノールール宣言から始まる、いきなり先輩を呼び捨てにしてくるという相模の奇襲に対し、それ以上の追撃を許さずドロー。


 第4回:相模の勝ち

 前述の通り。オンラインミーティング条約違反とも言える「母親の登場」および「猫の*(お尻の穴)ドアップ」という大量破壊兵器を前に、なすすべなく沈没。

 相模サイドは「双子の妹の投入」という切り札も残したままだった。



 現在の戦績は一勝二敗、一引き分け。

 数字上は接戦に見えるが、第1回も勝因は相模の自爆だ、内容的には惨敗である。このあたりで巻き返しをしないと先輩としての威厳が保てなくなるのだが……そろそろ勝利のために「アレ」を持ち出してもいいものだろうか。


「うーん……」


 傍目にはどうでもいいことを考えながら、私は腕を組み、椅子に深く背を預けて、唸った。


「急に唸ったりして、どうしました?」


 隣の席の相模が、ひょいと首を傾けてくる。


「いやね、最近の会議で相模に押されっぱなしだなと思って」


「そうでしょうか、会議の内容自体は先輩がリードしていませんか」


 相模が不思議そうな顔をする。


「いや話の本線はその通りなんだけど、脱線すると必ず負けている気がするんだ」


「会議に勝ち負けはないと思うのですが……」


「昨日なんか明らかに完敗だ。お母さんに猫まで加わって、為す術もなかった」


「そういわれると私の勝ちですね。からかい勝ち?というところですかね」


「だろ?つい最近まで俺は相模のことをからかわれて喜ぶ『Mマゾ』だと思ってたんだ。だけどホントは『Sサド』なんじゃないかと思うようになった」


「また変なこと言い出しますね。しかも、爽やかな朝っぱらから」


 私のくだらない言葉に、相模はキーボードを叩く手を止め、呆れたような目をこちらに向けた。


「俺自身もどちらかといえば『S』のつもりなんだよ。ただ、『S』と『S』のぶつかり合いで負けてる。それがちょっと悔しいんだ」


「……それを世間では『誘い受けのM』って言うんですよ。先輩は私にからかわれたくて負ける勝負を挑んでるんです」


 誘い受けのM。世の中には色んな言葉があると感心してしまうが、なぜそんな言葉を相模は知っているのだろうか。


「自覚がないのは問題ですね。昨日のボイスチェンジャーだってそうです。私を攻撃するための『餌』として自分の尊厳を差し出したわけですよね? それ、変態業界ではかなりの上級者ですよ」


 変態業界。また聞きなれない言葉が出たきたぞ。いつの間にか相模は私の見知らぬ世界に足を踏み入れているのだろうか。


「いいですか、先輩。本当に『S』の人間は、自分を安全圏に置いたまま相手を支配するんです。先輩のように、わざわざ反撃の隙をガバガバに晒して『さあ、打ってこい!』と構えるのは、単なるマゾヒスティックな挑発です」


 彼女はいたずらっぽく人差し指を立てて、私の鼻先をぴしりと指差す。


「しかも、負けて悔しがりながら、どこか満足げな顔をしていますよ、自覚がありませんか?」


「……俺、満足げな顔しているの?」


「ええ。ちょいちょい嬉しそうな顔してますよ。特に、やり込められている時とか」


 そう言って彼女は満足そうに鼻歌を漏らし、再びディスプレイへと向き直り話を打ち切った。

 


 あ、これ、放置プレイってやつだ。

 やっぱり相模は生粋の「S」なのかもしれない。




 ――私は「相模はS」とプロンプトを打ち込んだ。あとSM好き。

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