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第14話 主人公の在り方⑦

「長毛種にすれば……」


 相模はまだ諦めきれない。そうだよな、こんなくだらない理由で諦められないよな。

 

「いや、猫や柴犬にこだわるな。アイディアはいいんだ。主人公につかず離れずの存在を考えよう。傍観者的な視点を持った存在だ」


 手がかりがないので、とりあえず相模の話に乗っかる。


「例えば」


「うーん、背後霊?」


「いきなりぶっこんできますね……背後霊って傍観者というより憑りついてる存在じゃないですか、呪いですよ、呪い。ホラーゲームになっちゃいますよ」


「ダメか」


「まあ、かわいければ話は別ですけど、かわいいは正義ですから」


 相模の言葉に、私の想像が跳ねる。

 

 ――ファンタジー世界で運命を背負う主人公の背後に、彼にしか見えない、あるいは彼にすら見えない「かわいい少女の霊」がぷかぷかと浮いている。悪くない光景だ。彼女はフィールドを自由に駆け回り……駆け回ってどうするんだ?


「かわいい背後霊か……一応、空中に浮かんでいる姿は思い描けるけど、背後霊を操作できるとして何をさせていいか分からないな」


 パンツ見るぐらいしかできないな。


「ですね。ちなみに先輩の頭の中のデザインでは、やはり女の子ですよね?ミニスカート履いてそうです」


「よくわかるな」


「かんたんに高く飛ばせてパンツが見えやすそうとか思ってそうです。でも全年齢版だからダメです、スカートの中はブラックホールに決定です」

 

 相模の私への理解度わかりみが深い。


「スカートの中も見られないんだったら、夢もないし、ダメだな」


「そんな理由でダメ出しされるのは可哀そうですが……でも、今考えてるのは背後霊という『名詞』についてですね、日向さんは『動詞』が大事だって言ってました。せめてもの供養として、背後霊に何ができるか考えてから却下しましょう」


「供養された挙句に却下されるのかよ」


 仕方なく、背後霊にできることを二人で考え出す。我が人生において、こんなに長い時間、背後霊について考えたことはなかったが……


 

・取り憑く(とりつく):一時的にプレイヤーが物語の主人公へ取り憑き操作できるようになる。


・暴く(あばく):生きている人間には見えない「真実」や「道」を視覚化し主人公に見せる。


・驚かす:周囲のオブジェクト(椅子、燭台、鎧など)をガタガタ動かして音を立て、敵またはNPCノン・プレイヤー・キャラクターを翻弄する。

 


「供養するのもったいないぞ、これ」


「最後は背後霊じゃなくてポルター・ガイストみたいですが、色々できそうな組み合わせですね。ゲームと相性がよさそうです」


「支援型キャラクターとして有能そうだよな」


「決まりですかね?いや、せっかくだから別の存在も検討してみましょうか」


「賛成だ」


 ひとつの方向性が生まれた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「今までのところ、有力な候補はこんなところか」


 結局、背後霊ちゃんも候補に残った。最初に思いついたせいか、いつの間にか俺の中では「推し」の筆頭になっている。



背後霊ができること)

・取り憑く(とりつく):一時的にプレイヤーが物語の主人公へ取り憑き操作できるようになる。


・暴く(あばく):主人公には見えない「真実」や「道」を視覚化して見せる。


・驚かす:周囲のオブジェクト(椅子、燭台、鎧など)をガタガタ動かして音を立て、敵またはNPCを翻弄する。


使い魔ができること)

・唱える:主人公の魔法にシンクロし、その効果を高める。


・気をそらす:身代わり(おとり)となる。


・伝える:メッセンジャーとして離れたNPCに主人公の意志を届ける。


ペットができること)

・話す:他の動物たちとコミュニケーションをとり、情報を聞き出す。


・癒す(いやす):愛くるしい仕草で、主人公のパラメータを回復させる。


・もらう:NPCに「おねだり」して、エサや貴重なアイテムを巻き上げる。



 禁則事項となっていたペットの*(お尻の穴)は、架空の生物を採用することで解決とした。可愛いペットに排泄の概念などない。したがって、そこにあるべき穴も存在しないのだ。


「基本的に主人公を支援させる存在でいいのかな」


「支援役としても、このままだとペットが戦力的に少し弱いですね」


 ペット推しの相模が、不満げにこぼす。


「ペットは支援だけじゃなくて直接戦闘に参加させるか? 『引っ掻く』とか『咬みつく』とか、固有のアクションを持たせて」


「あ、それいいですね! ペットの種類を増やせばキャラクタークリエイト要素や収集要素にもなりますし」


「実体がある分、物理攻撃にも参加できるし、キャラクターバリエーションも豊富でこの中では一番ゲームシステムに組み込みやすいな」


 背後霊ちゃんが落選の危機に瀕する。使い魔もリストラされそうだ、まだ働いてないけど。


 だが、相模は意外な提案を口にした。


「……別に、ひとつに絞らなくてもいいんじゃないですか?」


「ん?」


「RPGならパーティを組むのは基本ですよね?いいんじゃないですか、物語の主人公に『背後霊』『使い魔』『ペット』のパーティがついていく形で」



 ——ぼっち主人公にも優しい賑やかなパーティが爆誕した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「一応、主人公を『プレイヤーの分身』に据えるタイプのRPGになりそうですね」


「分身した先に生身の人間が一人もいないけどな」


「いいじゃないですか。王道物語を歩む主人公を、背後霊・使い魔・ペットが支援したり、時には邪魔したりして楽しむゲーム……といったところでしょうか」


「邪魔するのかよ」


「そういう遊び方も今のユーザーにはウケると思いますよ、さて、次はどうしましょうか」


 主人公の在り方を掘り下げたことで、方向性が出てきた。

 ここで企画書の項目と照らし合わせて一度状況を整理してみることにする。



■タイトル

・仮題でもOK。内容が一目で想像できるもの

→ 後回し。中身が固まれば自ずと決まるはずだ。


■コンセプト

・「一言で言うとどんなゲームか」

→  王道の物語を歩む「主人公」を、三体の人外ユニットが支援(または妨害)しながら導く、多角的視点・操作のRPG。


■ターゲット

・ 誰に遊んでほしいか

→ 全年齢。欲張りだが、子供から大人まで幅広く。


■プラットフォーム

・スマホ、PC、コンシューマー

→ 本格的RPGである『ハイフライヤー』とはターゲットが合わない。もっとライト層がターゲットになる。


→ ライト層向けかつ全年齢版の作品を志向することを踏まえてPCと高性能コンシューマー機は見送り、携帯でも遊べるNinkyodo Swapスワップにする。


■ゲームサイクル

・プレイヤーが繰り返す基本行動のループ

→ 未定。

→「取り憑く」「唱える」「話す」は基本行動ではない点に留意する。

 

■セールスポイント

・「他のゲームと何が違うのか」

→ 『物語の主人公』と『システム上の操作主体』を分離した点。ドラマチックな固定シナリオを鑑賞しつつ、プレイヤーとしての『自由な選択肢』と『介入の余地』を両立させている。


■世界観

・ゲーム世界のルールや雰囲気

→ 未定。


■ストーリー

・ゲームのストーリー展開、主要人物の人間関係など

→ 未定。


 私がPCに入力し始めたメモを見ながら相模が感想を告げる。


「多少企画書っぽくなってますね」


「まだまだだけどな。コンセプトとゲームサイクルが決まらないとハリボテだからな。それから『物語の主人公』側の基本行動も考える必要がある。RPGの主人公なら『探索→戦闘→成長』が基本だが、一捻り欲しい」


 プレイヤーの分身としての主人公と物語の主人公が同じサイクルで行動して、一緒に探索→戦闘→成長を繰り返すのも悪くないが、それだけではもったいない気がする。せっかく両者を分けるのだから、もっと違う遊び方もさせてみたい。


「世界観とストーリーもどう詰めていけばよいか……難問ですね。ちなみに先輩は作ってみたい物語を持っていますか」


「具体的なものはないな……少なくとも人に話せるレベルのものは無い。今回の話を聞いた時でも、主人公をプレイヤーの分身にするつもりのRPGを作ればいいと考えていたから、世界観が決まればストーリーは後から入ってくるメンバーに任せてもいいんじゃないかと思ってた。そういう相模は?」


「私も特にないですね……」


「お互い夢がないな……ただ『物語の主人公』が抱える背景や目的、序盤の進行ぐらいはこちらで考える必要があるよな」


 あとはよろしく、では投げっ放しすぎる。


「世界観の方はどうですか」


「ここは俺たちで決めたいな。少なくとも『その世界で何ができるか』『何ができないか』を決めたい」


「具体的にはどうすすめましょうか」


「日向さんの言葉がヒントになったかな」


 相模に明日以降の活動プランを説明した。

 

 ミーティングルームを出ると、時計は十九時半を回っていた。十六時過ぎから会議を始めて、三時間以上が経過している。よくもこれほど話し込んだものだ。その甲斐あって、今日は話がだいぶ進んだ。

 ふと日向さんの席を見ると、どうやら不在のようだ。今日は早く帰ったらしい。連休明けの初日だし、そこまで頑張ることはない、ということなのだろう。


「しまった」、残業申請を出すのを忘れていた。明日の朝、今日の報告と一緒に謝っておこう。この内容なら残業扱いしてくれるだろう、多分。

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