特訓開始!?
爺ちゃん婆ちゃん達が背を向けて、私に見えないようにあみだくじでどのスキルを担当するか決めてる・・・。
何かヒントでもあるかと、ここ魔法ギルドに来たけどまさかこんな展開になるとは。
本当はソロ期間はアインとラメドと一緒にバフデバフを使った戦闘訓練でもしようかと思ってたんだけど。
それでもレアなスキルが2つも手に入るなら良しとしよう。
・・・使えるスキルかまだ分からないけど。
そんな事を考えながら待ってると、年甲斐もなくお爺さんがガッツポーズをしながら喜んでる。
うん。完全に暇つぶしの娯楽だなこれ。
「さて、最初はワシの番じゃ。この時間でスキル習得させるからの」
ヨボヨボのお爺ちゃんが腕捲りしながらこっちにやってきた。
「あの・・・私はお爺ちゃんから何のスキルを習うんですか?」
「それは言えんのぅ」
「えっ?」
「何のスキルの練習が教えたら、欲しいスキルとそうでないスキルとで練習への意欲が変わるかもしれんからのぅ。公平を期す為に何のスキルの練習かは教えないルールになってるんじゃ」
「・・・そうですか」
いや、何のルールよ?
完全に勝負が目的で私に教えるのは手段になってるじゃない。
「それでは、この棒は魔力を込めると光るが上手く魔力を込めると両端は光らず真ん中だけを光らす事が出来る」
そう言って棒の両端を持つと真ん中だけを光らせるお爺ちゃん。
「更に成れると好きに光らせる部分を移動させられるんじゃ」
そう言って光らせる部分を動かしてみせる。
「それじゃやってみな」
そう言って私に棒を手渡してきた。
「えっとやり方とか詳しい説明は?」
「まずは自分で試行錯誤してみるのじゃ。そうしないと応用力が身に付かないからの」
いや、応用力の前に基本を教えてくれないかな?
とりあえず棒の両端を握って【魔力操作】を使って両手から棒に魔力を流してみる。
すると棒全体が明るく光った。
「それじゃ駄目じゃの。魔力の流し方にコツがあるんじゃ」
いや、だからそのコツを教えてよお爺ちゃん・・・。
とりあえず自分なりに魔力の流し方を変えてみる。
両手からじゃなく片手側だけ魔力を流したり、魔力の流す量を減らしたり、左右の手で流す量を変えてみたり。
しかしどれも上手くいかない。
担当じゃない爺ちゃん婆ちゃん達3人が少し離れた場所で悪戦苦闘する私を見ながら、何か小声で話して盛り上がってる。
「うむ。試行錯誤してるのは分かるが正解じゃないのぅ・・・同じ練習ばかりでは飽きるからの。次はこれじゃ」
1時間ぐらい棒の中心を光らせるのに試行錯誤してると、爺ちゃんがそう言って次はアルコールランプのような物を持ってきた。
「このランプの底を持って魔力を流すと魔力を流してる間は火が消えるからのぅ。出来るだけ長く消し続ける練習をするのじゃ。火が灯ってしまったら最初から計り直しするからのぅ」
そう言ってランプを手渡される。
試しに魔力を流すとランプの火は消えた。
「その状態を維持するんじゃ。目標はとりあえず30分ぐらいかの」
そう言われて始めたけど、3分ぐらいで集中力が厳しくなってきた。
更に5分ぐらいで集中力が一瞬切れて、ランプに火が灯ってしまった。
「うむ・・・集中しないで消し続けられるようになるのが目標じゃの。さぁ続けるのじゃ」
そう言われ1時間ぐらい続けると、また別の練習をさせられた。
その練習も1時間ぐらいやってお爺ちゃんの持ち時間が終了する。
「う~ん、1回でスキル習得出来なかったのぅ。無念じゃ・・・」
そう言って次の人と交代する。
次に指導者に成ったのはチーノ婆ちゃんだった。
「まったく。コロコロとやる練習を変えてたんではコツを掴み難いじゃろうに。どれエリザちゃん練習始めようかね」
この魔法ギルドは、魔力操作を習った時もそうだったけど幾ら魔力を使っても魔力切れに成らない。
つまり休憩無しにずっと魔法の練習が出来てしまうインチキ空間。
しかもゲームだからトイレ休憩の必要も無い訳で・・・。
何の休憩も無しにチーノ婆ちゃんの魔法練習が始まった。
チーノ婆ちゃんの提示した練習法は、魔力を通すと魔力の量によって光る色が変わる水晶玉を使って、出来るだけ速く連続で同じ色に光らせる練習。
ゆっくりならさほど難しくないんだけどこれを速く、しかも連続で光らせるのはかなり難しい。
「ほれ、欲張って3回や4回連続で光らせる必要はないぞ。2回光らせるのを出来るだけ速く出来るようにするんじゃ。注いでる魔力を上手く一気に切るんじゃ」
チーノ婆ちゃんは要所要所でアドバイスをくれるが基本的スパルタで、休憩無しに3時間延々とその練習をさせられた。
それから食事を御馳走になり、食事休憩を挟んだら残りの爺ちゃんと婆ちゃんのそれぞれの練習を行った。
リアル時間では3時間程度だけど、ゲーム内時間で練習時間12時間、拘束時間は13時間とちょっと・・・正直、キツかった。
これをあと何回やればスキルを習得できるのか。
まぁ、しかしこれも私が正統派の魔法使いに返り咲く為、レアなスキルの為。やり込み要素だと思い込み頑張ろう。
夕飯まで御馳走になり、お爺ちゃんとお婆ちゃんに御礼を言って魔法ギルドを後にすると外は真っ暗になっていた。
宿屋まで戻ってログアウトするシステム、少し億劫に感じる・・・。
翌日、早めにログインし魔法ギルドに向かっているとローブを羽織った魔法使い風の男女のプレーヤーに声を掛けられた。
「なぁそこの人、ここら辺で魔法ギルドがあるって話を聞いたんだけど知らない?」
やけに馴れ馴れしく話し掛けられた。
子供かな?
でも見た目は2人とも20代風。キャラメイクで盛ってるのか?
それとも私が若く見れるから年下に話すように話してるのかな?
まぁ、いいか。
「魔法ギルド?」
とりあえず知らないフリして聞き返してみる。
「知らない?北の街ノブヌーイで魔法ギルドってのが見付かってね。見付けた人の話だと4つの街と王都にそれぞれ魔法ギルドがあるらしいんだけどね、4つの街の魔法ギルドは情報が出てるのに、王都の魔法ギルドだけ掲示板に情報が無いのよ」
女の人の方が少し早口で教えてくれた。
「魔法ギルドって何する所なんですか?」
「ん?あぁ、有料で魔法スキルを習えるって話でさ、中にはスキルリストからでは習得出来ないスキルを習った人もいるって。まだ情報の出て無い王都の魔法ギルドなら他の魔法ギルドとは違うレアなスキルを取れるかと思って探してるんだよね」
ん・・・どうしよう?これ。
関わったら面倒なタイプの気がする。
ちょっとした事でネットの匿名掲示板で誹謗中傷しそうな軽さが。
まぁ、私の根拠の無い第一印象だけど。
「聞いた事ないですね。私はお使いクエストでこの先の八百屋に用事があるだけで・・・」
「あっそう。じゃなんか見付けたらその時は教えてね。それじゃ」
あっさり解放されたのでチーノ婆ちゃんの息子さんがやってる八百屋に入り、その奥から魔法ギルドに向かう。
「おはようございます」
決められたリズムでドアをノックして鍵が開けられると、魔法ギルドの中に入って挨拶をする。
私も予定時間より少し早く来たのに、爺ちゃん婆ちゃん達は既に全員揃ってた。
「あの・・・今、ここに来る時に魔法ギルドを探してる人達に会ったんですけど・・・」
「あぁ、そう言うのは知らん振りして良いんだよ。魔法ギルドはねぇ、どこも幹部会員の推薦が無いと入会出来ないんだよ。ここもそういう輩が来てもドアを開けないからね」
えっ?入会には推薦が必要だったのか。
私たちはチーノ婆ちゃんの紹介で魔法ギルドの会員になったって事か。
「んっ?えっとここの会員に私たち以外のプレーヤー、じゃなかった異界人って居ないんですか?」
「いや、何人かは居るんだけどねぇ、この爺様婆様たちが厳しくて途中から来なくなった子達が多くてねぇ」
「な、この中じゃチーノさんが1番スパルタじゃないか。ワシらはそれなりに試行錯誤して本人のやる気を促しとるのに・・・」
「何言ってるんだい?エリザちゃんは私が教えてここまで育ってきてるんだよ?」
「・・・まぁ、いいわい。とりあえず今日の授業を始めるぞい。朝早く起きて練習法を色々と考えてきたからのう」
「年取ると朝が早くなるからねぇ」
そんなお爺ちゃんお婆ちゃんの軽口とともに今日も地獄の12時間練習が始まった。