第06話 朝ごはん(エッグベネなんとか)
「エッグベネなんとか、今日のは、いい感じじゃない」
「エッグベネディクトね。今日は失敗するわけにはいかなかったので、がんばりました」
そう、昨日までは、ベチャベチャだったり、黄身が破れていたり、固くなりすぎていたりとか、いろいろあったのだ。
食べるときは、箸は使わないで、フォークとナイフを使う。
いろいろと切らないといけない物があるからだ。
卵の真ん中にナイフを入れると、中からドバっと鮮やかな色の黄身があふれ出す。
ベーコンとパンもフォークとナイフで切って、食べやすいサイズにして、ソースを絡めて食べる。
初めの内は食べにくいと思ったけど、さすがに、毎日食べていれば慣れてくる。
「すっごく美味しい」
「でしょー」
少し得意げな顔だ。
「でも、ズルしてない?」
「何のこと?」
「魔法、使ったでしょ」
悪戯っぽく笑っている。
「なんで分かっちゃった?」
「なんとなくね」
「では、問題です。どんな、魔法を使ったのでしょうか?」
いきなりだな。
「えーと…… 黄身だけ固まらない温度に調節した」
「残念、ハズレです」
「……分かんない」
エッグベネなんとかの作り方は、なんとなくしか分かってないから、どういった部分に気をつければいいのかが分からない。
料理の下準備や後片付けは手伝うけど、料理そのものはお母さんがほとんどやっている。
「正解は、まずは小さな丸鍋で熱湯の中に生卵を入れるのだけど、熱すぎると泡のせいで白身がバラバラに、ぬるいとなかなか固まらないので、ちょうど良い温度をキープする魔法を使います。
続けて、魔法で熱湯をゆっくり回して真ん中に渦を作って、入れた卵が広がらないようにします。
そして同時に、熱感知魔法で鍋全体を見ます。
魔法で黄身の固さを確認して、ちょうど良さそうなところで引き上げて、よけいな水分を取ってポーチドエッグの完成です」
すごい。僕にはできない魔法だ。
お母さんは水魔法が大得意だ。
水を思いのまま操ることができて、キレイなガラス細工のような形を作ってしまう。
そして、水の中に在る物を動かすこともできる。
しかも、その物の固さや重さも分かるんだそうだ。
黄身の固さの確認は、この魔法を使ったんだろう。
そして、熱感知魔法は眼で温度を見ることができる魔法だ。
昔、一回だけ見えたような気がしたけどもそれっきりだ。どうにも感覚が掴めない。
お母さんからは一回見えたのなら、そのうちにできるようになるわよ、と言われた。早くできるようになりたい。
複数の魔法を同時に使うのもかなり難しい。さすがお母さんだ。
お母さんは僕の使える魔法を全部使うことができる。
僕の一番の魔法の先生だ。
「最後が肝心で、『おいしくなーれ』と想いながら、愛情たっぷりに盛り付けするのよ」
「それ、魔法じゃないよ」
「そんなことないわよ。とっても大切な魔法よ」
と、楽しそうに笑った。こっちが恥ずかしくなってくる。
でも、イヤじゃない。嬉しくなってくる。
でもやっぱり、恥ずかしいのでやめて欲しい。
「明日は魔法なしで作るからね」
「えっ、まだ作るの? エッグベネなんとか」
「もちろんよ、魔法なしで上手にできるまで挑戦するわよ。ちなみに、エッグベネディクトね」
知っているよ。エッグベネディクトという名前はもう憶えてしまっているけど、これはちょっとした抵抗だ。もういくつ食べたのか分からない。
普通に、目玉焼きとベーコンとパンの方が楽でいいと思うんだけどな。
お母さん忙しいのに、時間の掛かる料理は大変じゃないのかな。
でも、今日のは、本当に美味しかった。




