第05話 十二歳(子供っぽかったかも)
家の中に入ると良い香りがした。
「クー、手を洗ってね」
「分かってる」
水魔法で手を洗って、お母さんの方を見ると、ニッコリと笑いながら僕を見ている。
そして、背中に何かを隠している。
「アンク、十二歳のお誕生日おめでとう」
僕の本当の名前はアンクだ。
でも、周りの人はみんな、僕のことをクーと呼んでいた。
そして、背中に隠していた物を前に出した。
「ありがとう、お母さん」
待っていました。
僕は一冊の革張りの立派な本を受け取った。タビト・リムードさんの書いた冒険物語だ。
正義感が強くて子供っぽい棒使いの男戦士ベン、まっすぐで荒っぽい大斧使いの女戦士ルン、冷静で理屈っぽい長い柄の斧使いの男魔法戦士ネン、優しくて大人っぽい槍使いの女魔法戦士アンの冒険者四人が大活躍する話で、すっごく面白いのだ。
仕事を受けたり、人助けをしたり、事件に巻き込まれたりしながらいろんな場所を旅していく。
トラブルメーカーのベンとルンに、ネンとアンが振り回せられながら、なんだかんだと困難を乗り切ってしまうといった話である。
十歳と十一歳の誕生日プレゼントもタビド・リムードさんの本で、今年で三冊目だ。
前の二冊は僕の宝物だ。
何度も読み直していて内容は全部覚えていた。
さっそく読もうとする。
「朝ごはんを食べてからにしなさい」
「えー」
「本は逃げないから」
と少し呆れたように言った。
そして、クスクスと笑っている。
「どうしたの?」
「大人っぽくなってきたと思っていたのだけど、まだまだ子供ね」
しまった! 確かに今のは子供っぽかったかもしれない。
「そんなことないよ。いっぱいお手伝いしているよ」
「そうね」
お母さんはますます笑っている。
今のも子供っぽかったのかもしれない。
「これからはもっと厳しくしていいからね」
お母さんからは、ケガや病気の事とか、魔法の事とか、習わないといけない事がまだまだたくさんあるからだ。
「分かったわ。これからはビシバシ鍛えていくわね。覚悟しておいてね」
厳しいお母さんを想像することができない。
お母さんのそんなところを見たことがないからだ。
いつもニコニコしていて、たぶんこれからも今まで通りだ。
いろいろと興味があって、頑張りたいという気持ちがある。
だから、本当に厳しくしてくれてもいいんだけどね。
でも、今はとりあえず朝ごはんだ。
僕はゆっくりと、大人っぽく席についた。
お母さんは、また笑っている。
えーと、どうすれば良かったのかな。
大人っぽいって難しいな……
「料理、いつもより豪華じゃない?」
「特別な日だから、がんばっちゃた。たくさん食べてね」
「うん」
まっ、いっか。
できるだけ急いで食べよう。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
今日の朝ごはんは、エッグベネなんとか、ソーセージ三種盛り、キャベツのすっぱい塩漬け、ジャガイモゴロゴロの味噌汁、白くて柔らかいパン、みかんのようなオレンジ色の物体、ハチミツたっぷりのヨーグルトだ。
僕たちの村は、大昔に冒険者が作ったといわれていて、いろいろな所の人がいたので、食べ物の種類が多いと云われているのだ。
前から、お母さんはお料理教室に通っていて、そこで気に入ったものがあると、上手くできるようになるまで、毎日のようにその料理を作るのだ。
今はエッグベネなんとかという、舌をかみそうな料理だ。
平たい丸いパンの上にハムかベーコンを乗せ、さらにポーチドエッグを乗せて、何とかというソースを掛けたものだ。
ポーチドエッグは熱いお湯の中に割った生卵を入れて固めたものだ。




