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第40話 逃げるが勝ち(デカい顔をしているからだ)

 

 宿屋からはだいぶ離れたかな。

 辺りは畑しかなかった。


 もう、走るのをやめて、みんな歩き始めていた。

 僕だけ息が切れている。みんな凄いな!

 急いで、息を整える――


 それから、さっきのことを思い出していた……

 僕はごめんなさいの気持ちでいっぱいだった。

 僕のせいで、ケンカさせてしまって、ご飯食べられなくなって、宿屋に泊まれなくなって、たくさん嫌な思いをさせてしまった。


「ごめんなさい…… 僕のせいであんな事になってしまって……」

「謝る必要はないわよ。

 あなたは、何も悪くないわ。

 私たちの配慮が足りなかっただけよ。

 ああいった事態は、十分に考えられたのに、あなたを傷つけてしまったわ。ごめんなさい。

 これからも、つらい事があるかもしれない。

 でも、堂々としていればいいのよ。

 何も悲観することはないわ。

 だから、顔を上げて前を向いていればいいのよ」


 リプスさんだった。


「…そ、そうだな。たしかに不注意だった。すまない、俺からも謝らせてもらうよ、アンク」


 アルコさんだ。

 そして、ミールさんが話し出した。


「それにしても、クーのことを悪魔だなんてひどいヤツらだったね。ベスケの言い訳もひどかったけどね。さっき仲間になったんだよって、そりゃ怪しまれるわよね」

「なら、どう言えばよかったんだよ」

「そーね、こいつは俺の生き別れの恋人だー、とか」

「おい、おかしいだろ、それ」


 うん、おかしい。僕も嫌だ。


「それなら、こいつは俺の生き別れの天使ちゃんだー、でいいんじゃない」

「そんな事、言えるかよ」

「ベスケが、言うから面白いんじゃない」

「アホか」

「そーよね、クーはミーの可愛(かわい)い天使ちゃんだからダメよね。」


 ツッコミどころ満載だ。絶対にふざけているよね。

 だけど、兄ちゃんもミールさんも楽しそうだ。


「それはそうと、姉さんのパンチ良かったわよね。あのでっかいブタみたいな人、一発で倒れちゃったもんね。スッキリしたわ」


 ミールさんが嬉しそうに言った。


「確かに、リプスのあのパンチは良かったよな。馬乗りになった後の連打も最高だった。 スカッとしたぜ」


 兄ちゃんが相づちを打った。


「顔が大きいから当てやすかったのよ。それに、えらく態度は大きかったけど、素人みたいな反応だったわよ。あの礼儀知らず」


 リプスさんが少し笑いながら答えた。


「あのクソッタレの顔面、何度も叩きつけられて、今頃もっとデカい顔なっているな。

 デカい顔をしているから、あんな目に遭うんだ。ざまあみろだ」


 トバクさんがそう言って、ニヤニヤしている。

 みんなも笑っている。


「ところでトバク、その手に持っている肉はなんだ?」


 兄ちゃんはトバクさんが持っている大きな鶏のモモ肉のから揚げを見ている。


「これか、食うか?」

「おー、気が利くじゃねえか。さすがはトバク」

「あのクソどものテーブルから取ってきたんだ」

「トバクは戦っている間も食べてたよね」


 ミールさんが言った。


「見てたのか。腹が減ってたからな」

「なんだと、人がまじめに戦っている間にか?」

「なにがまじめだよ。楽しそうにブタ小屋の連中どついてただろ」

「まあな、おかげでスッキリしたぜ」

「クソぶっぱなして、スッキリしたってか」

「ハハハ、そうだな」


 兄ちゃんが豪快に笑った。


「やる」


 トバクさんは兄ちゃんに鶏肉を手渡した。

 それにしても凄いな。あんな混乱の中で料理を持ってきちゃうなんて。


「クーも食え」


 兄ちゃんは何口か食べて、僕に押し付けてきた。


「僕はいらないよ。食欲がない」

「いいから食え。おまえがへたばると、俺がまたお姫様抱っこしなくちゃいけなくなるからな」

「それはダメ、ミーが抱っこする」


 これは、食べられなくても食べるしかないな。

 でも、人の物を食べるのは抵抗があるな。

 兄ちゃんは何事もなかったように食べていた。

 仕方なく、僕は鶏肉をかじった。

 でも、美味しかった。


 そして、兄ちゃんがアルコさんに聞いた。


「これからどうするんだ?」

「…そ、そうだな、このまま町を出た方がいいだろうな」

「そうね、出た方が良さそうね。教会が気になるわ」

「リプスの言う通り教会は厄介だな。それに、あいつらが追っかけてくるかもしれないからな。ただ、今から夜になるんだよな。目立つから火は使えないしな」


 兄ちゃんが落ちかけの夕日の方を見ている。


「大丈夫じゃないの。昨日は満月だったし、今日も出るんじゃない。晴れてるし」


 ミールさんは空を指差している。


「いつ、出るんだよ」

「知らないわよ」

「知らないって、おまえ」

「そのうち、出るわよ」


 また、兄ちゃんとミールさんがやりあっている。

 これは、いつものことなのかもしれない。


 しばらくして、日が落ちて暗くなって、星が見え始めた。

 ちょうどその頃に、僕たちは門を出て、バローデの町を後にした。


「まん丸のお月様だー」


 ミールさんが月を指差している。

 バローデの町を出て、月の光が無くて暗かったけど、今は丸い月が完全な姿を見せていた。

 やはり、月が出ているのと出てないのでは全然違う。

 歩きやすい。



 月が出てから、ずいぶんと歩いたと思う。

 眠たくなってきた。

 兄ちゃんが気づいて支えてくれた。


「しかたねえな。でも、ここまで、よく頑張ったな。アルコ、俺の荷物を頼む」


 アルコさんに荷物を渡している。

 そして、僕をおんぶしてくれた。

 お姫様抱っこではなくおんぶだ。


「クー、寝てていいぜ」

「いーなー、ミーがお姫様抱っこしたかったのに」

「危ないだろ。転んだらどうするんだ。俺が担いだ方が安全だろ」

「ちぇっ」


 兄ちゃんはあまり揺らさないように運んでくれた。

 僕はいつの間にか眠ってしまった。



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