第39話 ケンカ(びっくりだ!!)
「…マ、マズいな」
アルコさんも周りを警戒し始めた。
兄ちゃんは今も大男と睨み合っている。
「何を勝手なことを、こいつはそんなんじゃない!」
「おまえら、悪魔を連れてきたのか」
「違う! こいつは俺が世話になった人の息子だ!」
「かわいそうに、騙されてるんだよ。そいつに」
「何言ってんだよ!」
「冷静に考えてみろよ。一人だけ助かったなんて、どう考えてもおかしいだろ。気色悪いとは思わないのか」
「ふざけるな!」
大男は楽しんでいるようだった。
僕は俯き、もう前を見ぬことができなかった。
なんでこんな事を言われないといけないんだ。
僕が何をしたというんだ。
村のみんないなくなって、家もなくなって、行くところもなくなって……
つらい、もう嫌だ。こんな所。
これからどこに行っても、こんな目に合うんじゃないのか?
耐えられない。
僕はこれからどうしたらいいんだ。
分からない。
また、涙が溢れてくる。苦しい。
「グワッ!」
そして、ドンっと大きな音がした。
何か大きなものが地面に落ちた音。
「や、やめろ! ひぃー」
声の方を見る――
びっくりだ!! リプスさんが大男の上に馬乗りになって、顔面を連打していた!!
「やっちまえ!」
周りから声があがった。
殴り掛かってきた連中に、兄ちゃんが応戦する。
強い! いとも簡単に蹴散らしていく。パワーが段違いだ。
「どっからでも、掛かってこい。俺はイライラしてんだよ!」
「…や、やれやれだな。ミーはアンクを守ってやれ。トバクは――」
「了解だ」
トバクさんはアルコさんの声を遮るように言った。
「…み、みんな、ほどほどにな」
「それぐらい、分かってるよ」
兄ちゃんはそう言うと、楽しそうに暴れている。
アルコさんはリプスさんのフォローに入った。
リプスさんが大男を攻撃しているあいだ、無防備になるからだ。
ジョッキや皿を投げつけてくる人がいたが、アルコさんはそれを魔法の土の盾で防いでしまった。
「おい、魔法使いがいるぞ、気をつけろ」
周りはアルコさんにビビっているみたいだ。
「クーはこっちよ」
ミールさんに後ろから抱えられて、ミールさんの持っている大きな盾の中に入れられるような形になる。
盾は四角くて、横に弓なりに曲がっている。盾は木製で縁は金属で補強されていた。それから、横型の窓に、たくさん小さな穴が開けてある金属板が付いていて、覗けるようになっていた。
屈むと、体がすっぽりと、余裕で隠れられるくらいの大きさだ。
武器は持ってないみたいで、この大きな盾だけだ。
それから、少しずつ、僕とミールさんは、その場からジリジリと後ろに下がっていった。
トバクさんはミールさんの後ろをフォローしているみたいだ。
「あの女をやっちまえ」
何人かが同時に襲い掛かって来た。
ミールさんは目の前に水を作って、それを相手に飛ばした。
「あっつう!」
「アチ! アチ!」
水が掛かった人は、水の掛かった場所を払ったり擦ったりしている。
あれは、もしかして水でなくて熱湯か?
湯気が出ている。
「次はチンチンにするわよ」
「やべーよ、あの女!」
襲い掛かってきた人は逃げて行った。
僕とミールさんはジリジリと下がって、入口近くの壁に張り付いた。
トバクさんは移動して、アルコさんと入口の間で戦っている。
逃げ道を確保しているみたいだ。
強い! 速い! スピードが全然違う!
相手の攻撃を身軽にかわしながら、蹴りを食らわせている。
あんな技があるのか。
そして、いつの間にかフォークを持っていて何か食べている!
かなり余裕があるみたいだ。
リプスさんも体格差があるにも関わらず、大男を圧倒していた。
大男も抵抗して逃げようとしたけど、逃げられなかった。
今も、仰向けで顔を腕で防御しているだけの状態で、リプスさんはその腕の隙間を狙ってパンチを打っていた。
アルコさんが周りを見回して、リプスさんの肩を引いた。
「…そ、そろそろ行こうか」
その声を合図に、みんな入口の方に向かって来て、順に外に出た。
そして、走った。
外はだいぶ暗くなっていた。




