↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/42

第35話 何もない場所(走って、走って、走って)

 

 速い!!


 リュックサックを担いで、片手に槍、それでもどんどんと引き離されていく。


 でも、見失うことはない。

 何もないからだ。


 僕はもう限界で、走ったり歩いたりしながら追っかけた。


 どれくらい走ったのか分からないけども、兄ちゃんは走るのを止めて、下を見たり遠くを見たりして何かを調べているようだった。


「にーちゃーん」


 声が届きそうな所まで近づいて呼んでみた。

 すると、兄ちゃんは手を挙げて応えてくれた。


 急いで駆け寄った。

 でも、息が切れて喋れない。


「おいおい、この程度でへたばるなよ。どうせ、本ばっかり読んでて、ろくに運動してなかったんだろ」


 言い返せない。

 本ばっかりではないけど、あまり運動してこなかったのは確かなわけで……

 というか、息が切れていて、まだ喋(しゃべ)れない。

 兄ちゃんは西デンジェル山地の方を見ている。


「この辺なんだよな、俺ん家。何もないな。

 帰って来たという実感が全く湧かねーな。

 かあちゃんたちは元気だったのか?」

「ハァ、ハァ、うん、元気だったよ」


 兄ちゃんの家は、僕の家から結構近い。

 おじさんも、おばさんも、よく野菜を持ってきてくれた。

 たくさん取れたからと言って。

 農家なので、たくさん取れるのは当たり前だと思うけれど。

 兄ちゃんのお兄さん夫婦も一緒に農業をやっていた。


「元気だけが取り柄みたいな人たちだからな。俺を含めてな…… 時間、まだ大丈夫だろ。走るぞ、クー」


 また、走って行ってしまった。えー……

 仕方がない、後を追うことにした。


 今度はマイペースで追っかけた。無理だし。

 兄ちゃんはどんどん小さくなっていく。凄い体力だ。


 進んでも、進んでも、土と水しかない。

 草くらいあってもいいんじゃないのか。

 変な感じだし嫌になってくる。


 兄ちゃんは遠くで槍を振り回している。

 待ってくれているみたいだ。


 あそこまでならと、少しペースを上げた。

 近づくと、兄ちゃんが大声で呼んだ。


「クー、遅いぞ。サボってんじゃねーぞ。ダッシュだ」


 仕方ないので、ダッシュした。


「ハァ、ハァ、ハァ、兄ちゃんが速すぎるんだよ」

「そんなことないさ。ちゃんと加減して走っているよ」


 ウソでしょ。


「それより、ここはどの辺だ」


 どの辺だ、と言われてもどう答えたらいいんだろう……

 辺りを見回し、西デンジェル山地のある方を見てみた。


「大きくて古い水車があるあたりじゃないかな」

「おー、やっぱりな。あのデカくてカッコ良い水車だろ。

 昔、よく上まで登って、怒られたっけ。

 そーいや、ベドの家がこの近くにあったな。

 同級生で仲が良かったんだ。二人でよくやんちゃしてたんだよな。

 あいつは元気にしてたか?」


 ベド兄ちゃんとベスケ兄ちゃんは名の知れた悪ガキで「泣く子も笑(・)う(・)悪ガキコンビ、ベドとベス」と言われ、略して「悪ベベ」と言われていた。

 二人はいたずらばかりしていたんだけど、必ず笑い話になるという特技を持っていた。

 小さな子供たちとも遊んでくれる人たちで、僕も小さいときによく遊んでもらった。

 たくさん泣かされたけど、たくさん可愛がってもらった記憶がある。


「元気だよ。昨日あったし。フィーさんと仲良さそうに手をつないでお散歩していたよ」

「なんだよあいつ、フィーと付き合ってるのかよ」


 嬉しそうだ。


「結婚したんだよ。二人とも左の手首に赤い布を結んでいたよ」

「マジかよ! あいつ、ずっとフィーのこといいな、って言ってたからな。よっ――」


 急に兄ちゃんは言うのを止めてしまった。

 そして、暗い顔になってしまった。


「よっ、よし、戻るか」


 兄ちゃんは、走りだそうとする。


「待ってよ! この先にはシルバの家があるのに。

 それに、ティルがまだ森にいるかもしれない。

 あっ、でも、もう家に戻っているかもしれないし……」


 兄ちゃんが悲しそうな顔をしている。


「クー、よく見ろ、何もない。みんな死んだんだよ」


 あれっ、何だろう?

 シルバは、ティルは、クリスは、エナ爺は、ジョダ先生は、みんなは、お母さんはどこにいるんだ?

 おかしいだろう?


「でも、きっと生きているよ、僕が生きているんだから」

「そうだな、そうあって欲しいが、諦(あきら)めろ」

「僕は一人でも、みんなを探すよ」


 そんなはずない、みんな生きているのに、なんで兄ちゃんは簡単に諦めてしまうんだ。

 涙が溢(あふ)れてきた。

 なんで、涙が出てくるんだ。

 これじゃ、みんながいなくなった事を認めてしまっているみたいじゃないか。

 兄ちゃんが僕の頭に手を置いた。


「泣くな、とは言えない。クーはラッキーなんだよ。俺もな。生きている。それなら、精一杯生きるしかないんだよ」

「精一杯生きるって、どうすれば良いの」

「それはだな、一度しかない人生を悔いのないように、楽しく生きることだよ」

「それは、どうすれば良いの」

「それはだな…… そんなもん分かるか。俺は二十二歳だぞ、クソ爺みたいに説教臭いこと言えるか」


 僕の頭をグリグリと撫(な)でて離した。

 兄ちゃんは上を向いている。涙を堪えているようだった。

 そして、涙が流れた瞬間に走り出した。


「戻るぞ、クー! こうゆうときは、思いっ切り走って頭ん中を真っ白にするんだ」


 言い終わると、速度を上げた。

 とんでもなく速い!!

 ウォーと叫びながら走っている。


 僕も走って後を追いかけた。

 確かに、しんどいときは余計なことは考えられないけど、限界がある。

 息が切れてもう走れない。


 兄ちゃんはもう豆粒くらい小さくなっている。

 走って、歩いての繰り返しになった。


 止まって、あたりを見回してみた。何もない……


 でも、一瞬、黒いモノが見えたような気がした。

 見直してみる。

 何もない。気のせいかな。


 そういえば、精霊災害は続けて起きる事があると言っていたな……

 戻って、誰もいなかったらどうしようかとも思ったけど、もうどうでもよかった。

 なにも考えたくなかった。

 でも、考えてしまうので、その時は走った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。