第27話 笑いの話なのに面白くない話(オモイ)
「それでは、気持ちを切り替えまして、アンク君の記念すべき十二回目の誕生日を、心を込めてランランバースディの歌と踊りをプレゼントしましょう」
「ちょっと待って、ジョダ先生」
「狂喜乱舞の超ハッピーバースディの歌と踊りの方が良かったですか?」
何それ? ちょっと気になるけども。
「そうじゃなくて、プレゼントなら歌と踊りよりも、お話の方がいいです」
ジョダ先生のお話はいつも面白い。
「なるほど、なるほど、それでは何のお話が良いですか? 心を込めて、何でもお話ししましょう」
どうしよう、何も考えてなかった。
「ちょっと待って下さい……
それじゃあ、ジョダ先生はいつもみんなを笑わせようとしているけど、何かきっかけがあったんですか?」
先生は踊りを止めて、何か考えている。
「それは困った質問ですね。面白くないお話になりますが良いのですか?」
珍しいな、こんなジョダ先生。
「はい、いいです」
「本当に、本当に、面白くないお話ですよ。今なら、別のお話に変えることができますがどうしますか」
笑いのお話なのに、面白くないってどうゆうことだろう。気になってきた。
「はい、そのお話でお願いします」
「致し方ないですね。今日はアンク君の特別な日なので、特別にお話ししましょう」
先生は優しく笑って、そしてゆっくりと話し始めた。
「アンク君はナーガイル戦争の事を知っていますか?」
「二十四年前にシャロモン王国で起こった内戦をきっかけにして、辺りの国々も巻き込んでいった戦争で、ナーガイル川の近くの国が多かったから、ナーガイル戦争と呼ばれています」
「では、ナーガイル川はどこにありますか?」
「アシビオン大陸の中央から東に流れて、途中から南に流れている大きな川です」
このくらいは、学校で習っている。
「素晴らしい。そうですね。
そして、そのナーガイル戦争は残念なことに、今でも続いています。
私はその戦争が始まった頃は、ドムル川の向こう側の教会で働いていました。
私の親族に教会で地位の高い人がいまして、その人の下で交渉人をしていました。
教会と教会、教会と貴族、教会とギルド、そのほかにも、いろいろな組織や人の間に入って、いろいろな話をまとめる仕事です。
人と人の間に入って話をまとめることは、とても難しいことでした。
それでも、私なりに与えられた役目をしっかりと果たしているつもりでいました。
しかし、戦争は収まるどころか、どんどんと広がっていきました。
私はなんとしても戦争を終わらせたかったのです。
地獄のような世界をなんとかしたかったのです。
しかし、どうすることもできませんでした」
大変そうだけど、よく分からない……
「地獄のような世界って、どんなのですか?」
「――軍隊や盗賊によって、町や村、家や田畑が襲われ焼かれてしまって、そこに住んでいた人々が生活できなくなってしまうのです。
家もなく、食べる物もなく、飢える人や病気になる人もたくさんいました。
多くの罪のない人々が亡くなり、遺体がたくさん放置されていました」
それは、確かに地獄だ。想像できないけど……
「戦争を終わらせる方法はないのですか?」
「――それはものすごく難しいことです。
私は戦争を止めるために、あちこち駆け回り、いろいろな人と話し合いをして戦いを収めるためのルールを決めていきました。
しかし、そのルールはいつもいとも簡単に破られました。
それは、あまりにも多くの人が傷つき、そして亡くなったからです。
互いに憎しみあっている。誰もが納得がいかないのです。
そして、それからの生活の保障もないからです。
皆、不安なのです。
私は無力でした。
アンク君は、この村で戦いが起きて、家族や友達が亡くなり、その後に危害を加えた人に仕返ししてはいけない、というルールを作られたら納得できますか?」
「――たぶん、できないと思う」
お母さんやみんなが、やられたら絶対に許さない。
「そうですね。私もそう思います。
結局のところ、私はその人達を助けることができなかったのです。
病気の人を見かけても、私は治療ができない。
飢えている人を見かけても、私が分けてあげられる食料は少ししかない。
また、その食料をあげると、それを巡って争いが起きてしまいました。
本当に悲しくて悔しかったです。
私は自分のしていることに疑問を感じるようになっていきました。
私のしていることは人々の役に立っているのだろうかと。
そんなときに、先ほど言っていた親族の地位の高い人が亡くなったのです。
死因は分かりません。
私は教会を辞めることにしました」
ジョダ先生、ものすごく悲しそうな顔をしている。
「そこで、考えたのです。
戦争のない世界を作るにはどうすれば良いか。
人々が幸せに暮らすためにはどうしたら良いのかを。
何日も、何日も考えました。
――そして思ったのです。
人々がお互いに思いやり、信頼し、心の底からその人を笑わせたいと思うような関係を作ることができるのであれば、戦争は起こらないのではないかと……
そして、幸せに暮らしていけるのではないかと。
私は自分自身生きていくために、『笑い』を学んでいくことにしました。
そして、私のことを知らない場所で、一から始めたかったのです。
それで、この村に来ました。
もう、十五年以上も前のことですね。
――今、私は幸せです。
ものすごく遣り甲斐を感じています。
しかしながら、ときどき思うのです。
ドムル川の向こう側の事を……
本当にこれで良かったのかと、私だけが幸せで良いのかと。
とはいえ、私には、あの世界は大き過ぎました。
ただ、今、私がやっていることが正しいと証明することができたなら、いつかそれがドムル川の向こう側に伝わり、役に立てば良いな、とは思っていますがね」
思いの外、重いお話だった。
確かに、面白くないお話ではあったけど……
ジョダ先生の思いが伝わってくるお話だった。




