第24話 デカいワニ(デスロゥールッ!)
「ギルドと教会は仲が悪いの?」
「どうだったかの…… ライバルでもあり、客でもあるといった感じではある」
「それなら、なんで爺ちゃんは教会のこと嫌いなの?」
「何度もひどい目に遭わされたからじゃ。
教会に裏切られて、大損しそうになったり、盗賊に襲われたり、ワニに食われそうになったりとか、本当にいろいろあったんじゃ」
相性が悪かったってことかな。
それはそうと――
「ワニって何?」
「ワニを知らんのか?」
名前は知っている。
トカゲに似ている事くらいしか知らないし、見たことはない。
「ワニというのは、河口や川や沼にいる肉食の生き物でな、体の形はトカゲのようで、全身分厚い鱗に覆われておって、とんでもなくデカいヤツがいるんじゃ。
そして、口は長くて、鋭い歯がたくさん生えておって、そりゃあ、恐ろしい顔をしておるんじゃ」
謎ジェスチャーの後、両手を前に伸ばして、思いっきり上下に広げている。
たぶん、ワニのマネだ。
「ワニはな、水面を気づかれないように静かに進んできて、突然、水の中から襲い掛かるんじゃ。
そして、一瞬にして噛みついて、水中に引きずり込んで獲物を溺れさすんじゃ。
獲物が大きい時はデスロールといって、噛みついたまま、自分の体をグルグル回転させて肉を引きちぎるんじゃ」
「爺ちゃんは、そのデスロール喰らったの?」
「喰らうかー! 死んじまうじゃろうが」
黄色い目ん玉をひん剥いて怒っている。
「そんなにヤバいの?」
「ヤバいわい! 全然分かっとらんじゃろ。ちょっと待っておれ」
エナ爺は畑の方を向いた。
両足をドンドンと踏み鳴らし、右に左にマッチョポーズを決めた後、正面をむいてマッチョポーズを決めるときに掛け声をかけた。
「はいっ! ズドーン!」
すると、地面がモコモコモコっと、勢いよく盛り上がって長細く大きな塊ができた。
そして、エナ爺はニカッと笑った。
マッチョポーズは「筋肉を愛でる会」の人たちに習ったのかもしれない。
「筋肉を愛でる会」はマッチョな農家さんがいっぱいいるサークルで、ムキムキのはち切れそうな胸の筋肉を「雄っぱい」と言っている人たちだ。
面白くていい人たちだけど、やっぱり変な人たちだ。
僕を見かけると、「雄っぱい欲しくなったら、いつでも来いよ」と言ってくる。
もちろん、「要らない」と言っている。
エナ爺の体はガリガリで動きはカクカクだ。まったく似合ってなくて笑える。
最近、魔法を使うときはマッチョポーズをよくしている。
「今のルーティンってやつだろ?」
「違うわい。わしが何年この魔法を使っていると思っとるんじゃ。
カッコいいから、やっとるんじゃ。
だから、いつもカッコいいポーズを研究しておるんじゃ
カッコ良かったじゃろ」
「う、うん」
そうだったのか……
そんな残念な理由なのか……
でも、カッコいいポーズで、気合が入って、気分よく魔法を使えば効果が上がるのかもしれない。
そうに、違いない。
「そんなことより、こっちを見ろ。これがワニじゃ」
歪な大きな土の塊にしか見えない。
相変わらず、芸術的な感覚は残念なことになっている。
それにしても、デカいな。
長さが大人の身長の四、五人分ある。
エナ爺の土で作る物の形は雑だけど、大きさだけは正確だ。
「口はこんな感じじゃ」
魔法で口っぽいのが上下に動いている。
口は、長さが大人の身長の半分くらいで、幅が大人の片腕の長さくらいかな。
エナ爺は土魔法が大得意だ。
本気になれば、もっと大きな土も動かすことができる。
「こんなにデカいの? サバ読んでない?」
「読むかー、そんなもん」
真っ赤になって怒っているような感じだ。
顏が黒いから、分かんないけど。
「じゃあ、デスロールは?」
「待っておれ」
真剣な顔だ。
そして、マッチョポーズを決めながら、大声を張り上げた。
「デスロゥールッ!」
土ワニが回転し始めた瞬間に、土の塊が勢いよくビュンビュンと飛び散りだした。
「できるかー、そんなもーん!」
エナ爺がキレた!
両手で謎ジェスチャーをしながら怒っている。
面白い!
「それなら、こうじゃー」
両腕をワニの口に見立てて、エナ爺自身がグルグルと、ものすごい勢いで回りだした。
「食らえ、デスロゥールッ!」
そして、突然ぱたりと倒れた。
「爺ちゃん!! 大丈夫?」
急いで駆け寄る。
「目が回った」
うん、だよね……
「おまえさんはやらんのかデスロール」
何でだよ!
「やらないよ」
「小さい時はもっとノリが良かったのに。まあ、今でも小さいけどな」
ちっくしょー、余計なお世話だ。
「十二歳はそんなことしないんだよ」
「わっはっはっー、風よ吹けー!は、やるのにか?」
なんで知っているんだ?
もう、絶対にやらない。
「それも、もうやらないんだよ」
「何でじゃ。儂はやるぞ。カッコいいじゃないか」
「恥ずかしいんだよ」
「シシュンキというやつか。儂にもあったのう、そんな時期が……」
ニヤニヤしている。
「爺ちゃんにも子供の時あったの? まあ、今でも子供だけどね」
「誰がじゃー」
また、怒っている。
「ところでシシュンキってなに?」
「子供と大人の間じゃな。体が成長して、心についても大きく影響を受けやすい時期じゃ。
エッチな事にも興味がでる年頃でもあるな」
体が大きくなるのは分かるけど…… ほかはどうだろう。
「そうなの。よく分からないけど」
「うっしっしー。別に難しいことはない。よく悩み、よく考えれば良いだけの事じゃ」
エナ爺は立ち上がり、いとも簡単に魔法で畑を元の状態に戻してしまった。
マッチョポーズなしで。まあ、できるよね。
今更だけど、何回も見ているし。




