第21話 エナム(怖い顔の愉快な爺ちゃん)
北の工業地域の中を歩いて行く。
薬屋のクリスの家に続く道の分岐を通り過ぎた。
クリスの家は、ここから、もう少し山の方というか、森の方だ。
今日はクリスの家には行かない。
行ってもクリスがいるか分からないし、寄っていたら帰るのが遅くなりそうだからだ。
先週はクリスの誕生日で、クリスにはボードゲームをあげた。
駒もボードも手作りだ。
木材店のウッドさんに教えてもらって作った。
こっそりと手伝ってもらった所もある。
それなりの出来だ。
駒はもっと立体的で凝った物にしたかったけど無理だった。
なかなか思い通りにはならない。
クリスからはお返しで手作りのシカ革のカバンを貰った。
今、僕が肩から掛けている物だ。
クリスが母親のリュカと狩りに行ってシカを仕留めて、その革からカバンを作ったのだ。
とてもシンプルで柔らかくて使いやすい。
すごく気に入っている。
ただ、プレゼントでも差を付けられた感じがする。
来年は頑張ろうと思っている。
** *
僕は北の工業地域から出て、平地と山の間の道を歩いて行く。
平地の方は米を作っている所が多いけど、小麦や野菜を作っている所もある。
山の方は階段状の畑になっていて、野菜や小麦を作っていた。
手頃なサイズの石が落ちている。
これを魔法で前に飛ばしていく。石蹴りみたいな感じだ。
学校帰りにも、よくやっている遊びだ。
大きな石を飛ばしたり、遠くの石を飛ばしたり、思いっ切り遠くに飛ばしたり、飛んでいる途中の石を違う方向に飛ばしたり、といろんな飛ばし方をしている。
歩きながらの、暇つぶしに持ってこいだ。
石を飛ばしながら歩いて行く。
エナ爺の家の近くまで来たので、石を道の脇に飛ばした。
エナ爺、家にいるかな?
畑や田んぼに、よく出かけるのだ。
しかも、行動範囲が広い。
そして、ほかの家の畑作や稲作の指導もしている。
うちも、その中の一つだ。
居た!
遠くの畑に、細くて黒い人が立っている。
「爺ちゃーん」
大声で呼んでみた。
気づいたみたいで、元気よく手を振ってくれた。
急いでエナ爺の所に走っていった。
「こんにちは」
エナ爺は短くて白い髪の毛が生えていて、顔は真っ黒で、黄色い眼をしていて迫力がある。
こんな怖い顔のお爺ちゃんはなかなかいないだろう。
見た目が怖くて、怒りっぽいから、苦手な人もいるみたいだ。
でも、僕は平気だ。慣れている。
それに、いろんなことを知っているので、話しているとすごく楽しいのだ。
「クーか、どうした?」
「お母さんからのお届け物だよ」
小袋と手紙を渡した。
エナ爺は右手で受け取って、両手で手紙を開いて見ている。
エナ爺の左手は義手だ。手首から先がない。
昔、盗賊と戦ったときに失くしてしまったらしい。
その盗賊は返り討ちにしたと言っている。
ウソか本当か分からない。
話をするたびに微妙に内容が変わるからだ。
そこにツッコミを入れると「アドリブじゃ、いつも同じ話ばかりしていると、ボケ老人だと思われるじゃろ」と言う。
アドリブを入れても入れなくても大きな違いはないと思うけどね。
まあ、とにかく、すごい戦いだったらしい。
それから、義手はゴルドが作った物で、魔法で動かすことができる。
ゴルドは歯車とかバネとか、いろんな部品を組み合わせて機械を作るのが得意だ。
義手のほかには、水車の機械部分とか、時計とかも作っている。
エナ爺は「こんなもん、なくても問題ないわい」と言いながら、義手を気に入っているみたいだ。
エナ爺なら土魔法で手を作ることができるからだ。
でも、魔法で手を作り続けるのはかなり疲れるから、義手を使っているんだと思う。
エナ爺は絶対に疲れたなんて言わないけどね。
「そうだ、誕生日おめでとう。クー」
「ありがとう。何で、知っているの?」
「昨日、ウリ坊に会ってな、教えてくれたんじゃ」
ウリ坊って、イノシシの子供のことだよな……
あー、ティルのことか。
「クーに何をプレゼントしたら喜ぶか聞かれてな。
肉と答えたら、嬉しそうに走っていったわ。うっしっしー」
愉快そうに笑っている。ジジイめ――
「何てことするんだよ。去年のこと、知っているだろ」
「そりゃあ、面白いからに決まっておるじゃろ。うっしっしー」
ちっくしょ――
これは…… 肉確定なのか?
毎年のお決まりになったら困るんだけど……
エナ爺も、いつもからかってくるのだ。




