ヨルゲン戦②
ビビンバ食べました。
「――先輩、例の『苦肉の策』ってやつ、やろっか」
「本気なのね?わかったわやりましょう。もとよりそれ以外に勝つ方法も浮かばないのだけれど。」
「ハハハハハ、まだ何か策があるのか?それを打ち砕き、お前らの顔を絶望にゆがませるのが楽しみで仕方ないな。」
「......先輩、行くよ――『瞬閃』!」
限界を超えたコウの身体から銀の閃光が弾けた。 目にも留まらぬ高速の斬撃が、暴風となってヨルゲンの巨躯を刻み散らしていく。
肉を断つ不気味な感触と、それを猛スピードで追う超再生。だが、コウの刃は再生の速度すらをも置き去りにしていた。
「ぬおおおおおっ!?」
幾重にも重なる音速の刃が、ついにヨルゲンの分厚い腹部を深く裂き開き、その内臓を露わにする。
「先輩!今!」
「――『氷華葬』――」
コウが拓いた一筋の傷口へ、セリーヌが跳び込んだ。
ヨルゲンが激痛に叫びながら振るう巨斧がセリーヌの頬を掠め、銀髪が舞う。だがセリーヌは一歩も引かず、極寒の冷気を纏わせた刀を、その露出した体内深くへ刺し抜いた。
瞬間、ヨルゲンの巨体がガチリと内側から凍りつく。
「くっ、何をした!貴様ぁ!......だが時間さえかければ体内の損傷も私には治せるのだよ!」
「ええ、そうね。でもあなたはもう負けよ。この技はね、あなたの血液を氷の華として咲かせ、私のタイミングで『内側から炸裂させる』技なの。……その華はすでに、あなたの心臓の根元に咲いているわ。運が良ければ生き残れるでしょうけれど、私たちの脱獄を止めるのはもう無理ね」
「舐めるなぁ!それでも止まるわけにはいかん!」
内臓を凍らされ、口から血と氷片を吐き出しながらも、ヨルゲンは鬼神の如き執念で動いた。
狙うは無防備なかぐや。太ももを薙ぎ払おうと、巨大な斧が凄まじい風圧とともに吸い込まれていく。
「かぐや様さえ……逃がさなければ、私の勝ちだあああ!」
「……爆ぜろ『氷華葬』」
セリーヌの氷のように冷ややかな呟きが、広間に響いた。
次の瞬間——どく、とヨルゲンの胸が大きく跳ね上がり、その肉体の内側から爆発的な銀光と氷の結晶が吹き荒れた。
「ガっ……ハ…………ッ!?」
血飛沫が上がる間もなく、ヨルゲンの胸部から巨大な氷の華が咲き誇り、その太い体が内側から粉々に爆散する。
強烈な冷気の衝撃波がかぐやたちの服を激しく羽ばたかせた。
残されたのは、氷漬けとなって床に転がる肉片と、両膝から突っ伏すように倒れ込んだ看守長の巨躯だった。
刀を鞘に収めたセリーヌが、その場に崩れ落ちそうになるのを必死で耐える。
コウもまた、「あー……まじで死ぬかと思った……」と壁にもたれかかり、完全に体力を使い果たした様子で地面にへたり込んだ。
静まり返った『白濁ノ塔』の最下層。
目の前で起きたあまりの光景に、かぐやは口を開ぐぐっと開けたまま、ただ呆然と立ち尽くしていたのだった。
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「ふ~何とか脱出できたね姫様。大丈夫?柄にもなく静かだけど。」
「わたし......わたしは何もできなかったわ。二人に守られているだけ。
わたしのせいであなた達にそんな怪我まで負わせてしまって......自分が情けないわ。」
「かぐや様、私たちは全部自分の意志で行動していますよ。そんなに自分を卑下なさらないでください。」
「そーそー。それにまだ地球に戻るにはやることいっぱいあるしね。」
かぐやはぎゅっと大きな袖を握りしめ、目に涙を溜めて叫んだ。
「戦っているとき......あなたたちがいなくなったらって思うと、ずっと怖かったの!
だから、私の許可なく危ないことをするのは絶対許さないんだから!さっきの技だって......少し間違えたら自分もろとも凍ってしまうんでしょう!?」
「.........気づいておられたのですね。ごめんなさい。ですがあの時はあれ以外に方法がなく......」
「ふんっ!わかったうえでそう言ってるの!だから無茶するならちゃんと言ってちょうだい!許すかはわからないけどね!」
「ふふっ、はい、わかりました。コウもそれでいいよね?」
「まあ―先輩がいいならいいよ」
心底だるそうに肩をすくめるコウに、かぐやは涙目のままビシッと指を突きつけた。
「コウだけなんか軽い---!もっと命大事にしてよ--っ!」
「また泣く…めんどくさいなあ、もう。わかったわかった。大事にするからさ。」
コウが降参するように両手を上げると、かぐやはぐっと涙を引っ込め、ぷいっと横を向いた。そのまま俯き加減に、消え入るような声でつぶやく。
「.........うん。それで、いいです。」
「今更照れてんのかよ!」
「う、うるさいわね!ゴ、ゴホンッ!」
真っ赤になった顔を誤魔化すように大げさに咳払いをすると、かぐやは一転して真面目な顔(を装ったドヤ顔)で二人を交互に見つめた。
「で! これからどうしよっか? どこかの安全な場所に隠れて、作戦会議でもする?」
「…………」
「…………」
かぐやの問いかけに、コウとセリーヌは一瞬ピタリと動きを止め、無言で見つめ合った。
沈黙。あまりにも不自然で、重苦しい沈黙が広間に流れる。
「……ねえ、何その間は? なんで黙るの?」
「あー……うん。とりあえず塔からは出られたんだけどさ」
「だけど……?」
「次どこ行くか、ぜんっぜん考えてなかったわ」
コウがさわやかな笑顔で頭をかくと、セリーヌも気まずそうに視線を逸らした。
「まさかのノープラン!?!? どうするのよーーー!!!?」
せっかく感動的に深まったはずの絆は、月面の暗闇に響き渡るかぐやの絶叫によって、一瞬で吹き飛んだのだった。
第1部これにて終了です!ここまでありがとうございます!次は閑話です。




