いざ、脱獄
今日もうどん
消灯時間を過ぎ、静まり返った暗闇の中で、セリーヌは声を潜めて語り掛けた。
「さてかぐや様、まずはこの『白濁ノ塔』の構造について説明しますね。
まずこの塔は六階層に分かれていて、二階層ずつ上層、中層、下層と呼ばれています。上に行けば行くほど、収監されている犯罪者はより凶悪になっていきます」
「ふーん。それで今私たちは何階層にいるの?」
「四階層なので中層ですね。作戦は、まず二階ずつ吹き抜けになっているので、一気に三階まで降ります。そして、三階の看守室を無力化した後、下層へ行き、
コウと合流。脱出といった流れです」
「ふふっ、なんだか悪だくみみたいで楽しいわね」
「かぐや様は心がお強いですね。一番の関門は、おそらくコウは侵入できると思いますが、外に出るためには、出入り口にいる看守長ヨルゲンがいます」
「どれくらい強いの?」
「私ひとりじゃあ確実に負けます。コウが一対一で戦ってもよくて40%といったところですかね。戦う前にコウと合流できていれば、勝機はあると思います」
「ところでセリーヌ、この作戦コウが来なかったら終わりじゃないかしら?」
「大丈夫ですかぐや様。確実に来ます」
なぜかコウが来ることを確信しているセリーヌを少し不思議に思った。
(そもそも普通なら姫と騎士を同じ牢に入れることがおかしいわ。そしてコウが来ると確信している口ぶりから、だれか私の知らない協力者がいるわね。まあ無事脱出してから聞けばいいかな)
かぐやはそう結論づけて、セリーヌを見る。
「…?どうかされましたか?」
「ん、何でもないわ。明日は早いしさっさと寝ましょう」
「では、早朝に起こしますね。おやすみなさいかぐや様」
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「...かぐや様、かぐや様!起きてください!行きますよ!」
「うーんあと5分...」
「全くかぐや様は手のかかる子供のような人です。もうとりあえず壁を壊してしまいましょう」
そういってかぐやが持ってきた短剣を滑らかな動作で構え、深呼吸をする。
集中を高めると同時に、彼女の体から溢れ出た銀光が剣先へと集まり、集束していった。
「はあああああ!」
凛とした掛け声とともに短剣が一閃される。一瞬の静寂の後、雷鳴のような破砕音が響き渡り、分厚い石壁が一気に瓦礫となって崩れ落ちた。
「はっ!何の音!?...あ、うん。じゃあ行きましょうか!」
「かぐや様誤魔化しましたね」
「そ、それよりどうやったらあの短剣で分厚い壁が切れるのよ!?」
「それは『月脈』の力を剣に纏わせているからですね。さらに上級の『月脈解放』という技術もありまして、これは一人一人の資質によって全く異なる固有の能力が発現します」
「ふーんそういう使い方もあるのね。セリーヌはどんな能力なの?その『月脈解放』ってやつ!」
「まあいずれ分かりますよ。とりあえず三階まで飛び降りるので私の背中につかまってください」
「わかったわよ。これくらいならもう驚かないわ!」
「じゃあ降りますね。くれぐれも声を出さないようにお願いします」
「んんんんん~!!」
かぐやは必死で両手で口を押さえて声を抑えようとしたが、吹き抜けの構造も手伝い、その漏れ出た声は静まり返った塔内にしっかりと響き渡ってしまった。
「脱獄者が出たぞ!集まれーっ!」
看守の叫び声を皮切りに、重厚な甲冑を鳴らす足音が回廊の奥から怒涛のように迫ってくる。逃げ場のない廊下に、十数人の看守が剣を構えて雪崩れ込んできた。
「…姫様、私の後ろへ。これくらいなら一瞬で終わらせますので」
「かかれええっ!」
鋭い怒号とともに突撃してくる看守たち。だが、勝負は最初から決していた。
「――『月脈解放』、氷界!」
そうセリーヌが静かに呟き、輝く短剣を石造りの床へと深く突き刺す。
瞬間、圧倒的な冷気が激流となって全方位へ吹き荒れた。床から壁、天井へと一瞬で蒼白い氷の結晶が走り、一帯の空気そのものが凍りつく。迫り来ていた看守たちは、刀を振り上げた体勢のまま、皮膚を刺す冷気の中で一人残らず氷漬けの像へと変わり果てていた。
「...すごい。これがセリーヌの力!?すごいわ!」
「ありがとうございます。ですがまだまだ始まったばかりです。油断せず、行きましょう」
「ええそうね!じゃあ下層へレッツゴーー!!」
「かぐや様、だから声が大きいと...。もう、しょうがない人ですね」
呆れるセリーヌを置き去りにして、かぐやは一気に階段を駆け下りていく。
しかしかぐやはまだ、監獄の絶対的支配者・ヨルゲンの存在とその脅威を深く考えていなかった...…。




