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竹取物語”裏”  作者: やすひこ
第2章 白兎強奪編
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強襲

 前日の「毎日12時間」という地獄の宣言から一夜明け、かぐやはセリーヌに特訓の続きを行いたいと頼み込んでいた。


「.........そうはいってもかぐや様、研究から逃げたいだけですよね?」


「.........違うわ。そう、だって訓練してるとこを見てたら勝手に研究になるでしょ!?だったら訓練したほうがいいわよ!コウはどうする?」


「あー俺はパス。ちょっと三日くらい帰ってこない予定だから。ちょっと情報収集が行き詰ってきたから、もうちょっとじっくりやりたくて」


「.........はあ、わかりましたよかぐや様。前よりももっと厳しくいきますからね」


「えっ、ちょっと待ってセリーヌ!? 『前よりも厳しく』ってどういうこと!? 私はアスターの拷問……じゃなくてデータ採取から逃げたかっただけなのに!?」


「逃げたいだけだと認めたな、姫様」


 呆れ顔のコウが、旅仕度の整った鞄を肩にかけながらクスッと笑った。


「じゃあ俺は行ってくるからな。セリーヌ先輩、姫様がサボらないようにビシバシやっちゃってください」


「任せておきなさい、コウ。かぐや様、まずは基礎の月脈循環からですよ。手を抜いたら容赦しません」


「コウの裏切り者ーーーッ! 私を見捨てる気なのー!?」


 叫ぶかぐやを置き去りにし、コウはひらひらと手を振りながら時計塔を後にした。


 ——そして、そこから地獄の数日間が始まった。


「ほらそこ! 出力がブレています、かぐや様! 姿勢を崩さない!」


「ひぃぃぃっ!? セリーヌのスパルタ度が上がってるーーーっ! アスター助けてぇ!」


「ちょっと、勝手に逃げてこないでよ観測対象! 訓練に付き合うのはいいけど、そのおかげで私のガジェット開発が遅れてるんだからね!? ほら、そのまま手元の波形を維持して!」


 セリーヌの容赦のない冷気と、アスターの容赦のないデータ計測。二人の挟み撃ちに遭いながら、かぐやは汗と涙を撒き散らして必死に月脈を操り続けた。


「ぬぬぬぬ……、撃ち抜け!私の月脈ーーーッ!!」


 死に物狂いで集中力を高めたその瞬間、かぐやの手首にはめられたアスター特製の試作リングが青く眩しく輝いた。暴れ狂っていた月脈の光がキュッと集束し、鋭利な光の矢となって練習用の標的を一瞬で貫いた。


 ドンッ……!


「……できた。できたわ! 見た!? 二人とも見た!? 私、矢の形にした上でちゃんと狙ったところに撃てたわよ!」


「え、ええ、凄いわ……! 『絶対固有波長』の出力を殺さずに、プロトタイプのリミッター回路で完璧に指向性を持たせられた……!それにこの威力……たいしてうまくもない操作でこれなら訓練を続ければもっと私の研究に……」


「素晴らしいです、かぐや様! 我慢して特訓に耐えた甲斐がありましたね!」


「ふふん、見たか〜! 私の本気を!」


 かぐやがドヤ顔で胸を張った、まさにその時だった。


 ガタッ、とタワーの外から微かな、だが不穏な重低音が響いた。


「……ん? 今の音、なあに?」


 かぐやが首をかしげた直後、パンッ!と空気を切る音と共に、三人目の影が窓から跳び込んできた。


「——全員、今すぐ伏せろッ!!」


「コウ!?」


 戻らないはずだったコウが、全身に冷や汗をかきながら疾風のごとく二人を押し倒す。と同時に、時計塔の分厚い外壁を打ち破り、禍々しい青い閃光が頭上を駆け抜けた!


 ドドドドドォォォンッ!!


「きゃあぁぁぁぁっ!?」


 爆風と瓦礫が舞い散る中、コウは懐から取り出した黒い羊皮紙——そこに浮かび上がる赤い暗号文を睨みつけた。


(——『皇帝直属・親衛隊が時計塔の異常を感知。攻略部隊および砲兵隊を展開中。推定到達時間、即時』——)


「くそっ……! 情報収集どころじゃねぇ! アステリオスを派手に爆破したせいで、帝国の監視網に引っかかりやがった! 砲兵隊まで投入してやがるぞ......」


「ね、ねえ。なにが起きてるの!それに砲兵隊って何よ!」


「かぐや様、いよいよ隠れられる時間が無くなったということです。ですが、まずは脱出しましょう。コウ、あなたはアスターを連れて脱出なさい。別れたあと、もとの家で一度落ち合い、そのあとしばらく住む場所を探しましょう」


「了解。先輩、姫様をちゃんと守ってあげてよ」


 コウは暗号文を握りつぶして投げ捨てると、跳ね起きながらアスターの首根っこを掴み上げた。


「アスター、ガジェットの試作品と最低限の道具だけまとめろ! ……脱出だ! すぐにここを出ないと、タワーごと全部炭になるぞ!!」


「絶対あとで新兵器で痛い目みせてやるわ……」


「コウ!アスター!後でね!」


「姫様もな! 無事でいろよッ!」


 コウは双剣を閃かせて背後の崩れ落ちそうな外壁をさらに切り開き、暴れるアスターを抱え直すと、躊躇なく煙の立ち込める夜の闇へと飛び降りた。


「きゃあああッ!? 物理的落下は聞いてないーーーッ!」


「うるせぇ静かにしろ! 舌噛むぞッ!」


 小さくなっていく二人の怒号が、激しい砲撃の音に掻き消されていく。


「かぐや様、私たちも行きます! 足元に気を付けて!」


「ちょっと待ってよセリーヌ! 砲兵隊って、あんなデカい光を撃ってくるやつが外にいっぱいいるの!?」


「ええ、強権派の幹部が団長を担っているのがこの砲兵隊です! 本気の彼らが相手では、この頑丈な時計塔も長くはもちません!」


 セリーヌがかぐやの腕を力強く引き、崩壊の始まる廊下を疾走する。直後、二人のすぐ後ろで天井が盛大に崩落し、爆発の熱風が背中を叩いた。


「嘘でしょぉぉぉッ!? やっと特訓の成果が出たばかりなのに、いきなり実践なんて聞いてないわよーーーッ!」


「泣き言は後です! ここを突破して、元の家まで走り抜けますよ!」


「言われなくても全力で逃げるわよーーーッ! 私、まだ矢を一本打てるようになっただけなんだからね!?」


 頭上からはドカンと二発目の砲撃が打ち込まれ、時計塔の天井がメリメリと音を立てて崩落し始める。二人は頭を抱え、崩れ落ちる非常階段を転がるように駆け下り、夜の闇へと飛び出していった。

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