授業
翌朝。昨夜の死闘と大掃除の疲労も冷めぬまま、かぐやたち三人はアスターに集められていた。
「よし、じゃあかぐやさん、今からあなたの体を研究するね?これから毎日12時間は付き合ってもらうから」
「.........は!?嫌に決まってるでしょそんなの!多少付き合うのはともかく毎日12時間!?」
かぐやの猛烈な反対に、アスターはやれやれとでも言いたげな顔をして肩をすくめてみせる。
「昨日もちょっと言ったけどあんたの月脈は普通と違うの!その研究しなきゃ、わたしの技術が発展しないでしょ!」
「かぐや様、この無礼な人斬りたくなってきました。いいですか?」
「ストップストーップ!セリーヌも落ち着いて。ムカつくけどこいつ有能そうなのよ。というか気になってたのだけど、わたしって特別なの?なんで?」
かぐやがそれを尋ねると、アスターは黒板代わりに引っ張り出された巨大な羊皮紙に、バツン!と図を描きつける。そこには「太陽」「地球」「月」の三つの球体が描かれていた。
「それを説明するためにはまず月脈が何かって話をするところから始めないといけないわね。いい?月脈っていうのは、月から出てるビームみたいな簡単な代物じゃないの。『太陽・地球・月』という天体同士が引き合う重力や光の干渉が生み出す空間の潮汐波動……いわば『天体の呼吸』なのよ!」
「て、天体のこきゅう……?」
「そう! だから月脈はただそこにあるだけじゃなくて、天体の配置によって常に周波数と出力が変化してるの! 満月の『ハイ・フェーズ』と新月の『インバース・フェーズ』じゃ、波動のベクトルの正負が正反対になるくらいね!」
「……ねえコウ。私、一言目からもう何言ってるか分からないんだけど」
「耐えろ姫様。俺も三単語目から脳みそのシャッター下りてる」
「いいから黙って聞きなさい!」
二人のコソコソ話を一喝すると、アスターは羊皮紙に描いた「月」のイラストを、指線でぐるぐると激しく囲んだ。
「通常、私たちみたいな一般人が使う月脈は、大気中に漂うその天体波動を、体内の回路を通じて『借りて』増幅させてるだけに過ぎないの。でもね、かぐやさん……あなたの体から放たれている波形は、根本から異次元なのよ!」
「異次元……? 私の月脈が?」
「そう! あなたの波長は、周りの空間にある月脈を力ずくで引き寄せて、強制的に自分の波形と同調・増幅させちゃう……いわば『絶対固有波長』なの! 普通なら満月の夜にしか出せないような高出力の波形を、自分の体内を起点にして周囲に作り出してるのよ。例えるなら、あなた自身が歩く満月……ううん、『月脈の発振源』そのものなの!」
「歩く満月……? なによそれ、私ってば超天才だったってこと!?」
「姫様自身はすっげえポンコツなのにな……」
コウの冷ややかなツッコミを無視して、アスターは興奮冷めやらぬ様子でかぐやへ顔を近づけた。
「だからこそ、あなたの能力は普通のガジェットじゃ制御しきれずに暴走するか、逆に機械側が耐えきれずにショートしちゃうのよ! 1階の回路を落としたのも、昨日のアステリオスを暴走させたのも、全部あなたが無意識に周りの月脈を巻き込んで過負荷を起こしたせい!」
「う……じゃあ、私が大暴れできたのって、単に自分の力をコントロールできてなかっただけ……?」
「物事は言いようね。でも、だからこそ私の出番なのよ!」
アスターは胸を張り、メガネ(ゴーグル)をクイッと押し上げた。
「あなたのその規格外の『絶対固有波長』を位相シフト……つまり、自由自在に周波数を変調できる専用のインターフェースを作れば、月脈を攻撃にも防御にも、形すら変える万能の力として出力できるようになる! それが私の理論の完成形……『動的形態変容装置』よ!」
「へぇ……! なんだかよく分からないけど、私がそのすごーい装置を使えば、もっと格好よく無敵になれるってこと!?」
「そういうこと! そしてさらに、その技術さえできれば従者の二人の武器だってもっと強化できるわ!」
「それはいいわね!そうすれば地球に行くのもさらに早くなるし!」
「そう!私も早くウサギについても調べたいし、地球にはどうやら地球固有の『地脈』とやらもあるみたい。いち早く研究したくてたまらないの!だから……おとなしく毎日12時間、私のデータ採取に付き合いなさーいッ!」
「結局そこに戻るのねーーーーッ!?」
かぐやの絶叫が、朝日が差し込む時計塔の研究室に再び響き渡るのだった
月脈って何?回でした。ちょっとリアルが忙しくなってきたので頻度落ちるかもです。すみません




