試練①
豚汁の里芋っておいしいですよね。あとはこんにゃくも
「ねえねえ、二人はアスターって人どんな人だと思う?」
「そうですね。経歴から考えて、自分の芯が通ったまっすぐな人だと感じましたね」
「でも研究者ってちょっと変わった感じの人多いからな~」
「うんうん。いいねいいね。ぜひ仲間にしたくなったわ!さっさと捕まえに行きましょう!」
「姫様?人のこと無鹿なんかと思ってる?」
「いいじゃないですか、コウ。ほらかわいいですよ?」
「……セリーヌ先輩、その甘やかしが姫様のおてんばを加速させてるんだって」
コウが頭を抱えている間にも、かぐやは「ほら早くー!」と二人を引っ張り、帝都の東の端へと急ぐ。
辿り着いたのは、街の廃墟区画にぽつんと聳え立つ、古びた巨大な時計塔。
かつては時を告げていたであろうその場所は、今や無数の歯車や謎のパイプ、スパークする電流のコードが外壁にまで絡みつき、怪しげな城塞のようになっていた。
「ここがアスターの家……? なんだかお化け屋敷みたいね」
「気をつけてください、かぐや様。あちこちから嫌な予感が——」
セリーヌが注意を促したその瞬間、時計塔の頂上にある巨大なスピーカーから、ジジジ……と酷いノイズと共に爆音が響き渡った。
『ハァーーーッハハハハハ! 歓迎するぜ愚かな侵入者どもぉぉッ!!』
「な、なに!? だれ!?」
『ここは我が聖域! 天才機械技師アスター様の絶対不可侵領域だぁぁ! 帝国の犬か裏街のチンピラか知らんが、私の愛おしい実験体になってもらうぜヒャッハー!!』
スピーカー越しに聞こえる声は、まるで悪の魔王か世紀末のヒャッハー系悪党。
直後、ガシャンッ!と時計塔の重い鉄扉が自動で開き、内部へと誘うような薄暗い階段が現れた。
「……ねえコウ。さっきお婆ちゃん『変わり者』って言ってたけど、これただのヤバい奴じゃない?」
「うーん、思った以上にネジが飛んでるな……」
引き気味のかぐやとコウを余所に、セリーヌはすっと剣の柄に手をかけた。
「行きますよ、二人とも。どうやら、すんなり通してくれる気はないようです」
一歩踏み入れると、背後の鉄扉がバタン!と激しい音を立ててロックされた。
それと同時に、壁のあちこちから機械の駆動音が響き始める。
『さあ始まります! アスター様謹製・地獄のからくりトラップタワー! 第一の試練、無事に突破できるかなァ!? ぎゃはははは!!』
スピーカーからの高笑いと同時に、足元の石畳がカチリと沈み込んだ。
「あ、やば——」
コウが叫ぶのとほぼ同時。天井から無数の小型機械兵器が群れをなして落下してきた!
それだけではない。壁のあらゆる隙間から、月脈の光を帯びた怪しい粘着ネットと、麻痺効果のある針が雨あられと射出される。
「ひやあぁぁぁ!? 何これ、罠のバーゲンセールじゃないのよー!」
「かぐや様、私の後ろへ!」
セリーヌが一歩前に踏み出し、瞬く間に剣を閃かせる。キンキンッと甲高い音を立てて、飛来する麻痺針を完璧に弾き返していく。
「おっと、ネットは勘弁!」
コウは軽やかな身軽さで宙を舞い、迫りくる粘着ネットをすれすれでかわしながら双剣でドローンをすれ違いざまに両断した。
だが、ドローンの数は減るどころか、壁の奥から次々と追加で押し寄せてくる。さらに足元の床が回転し始め、三人の体勢を崩そうとしてきた。
「くっ、キリがないわね!……そうだ、セリーヌが言ってたわ。『集中を高めて体に流れる力を意識する』……!」
かぐやはぎゅっと目を閉じ、この二週間で必死に特訓した成果を思い出そうとする。
(出でよ、私の内に眠る月の力……! 今回は転ばない、絶対転ばないんだからー!)
「……ぬぬぬぬっ!!……はあああっ!!」
かぐやが目を見開き、勢いよく手のひらを前に突き出した瞬間——
ほんの少しだけ解放された月脈の波動が、奇跡的に足元の回転床の制御ギアへと一直線に激突した!
バチバチバチッ!
「えっ!?」
過剰なエネルギーを流し込まれた制御ギアが小さな爆発を起こし、トラップ全体の連動回路が「ボシュン……」と煙を上げて停止。壁からの針も、ドローンの追加配備もピタリと止まってしまった。
「……あれ? 私、何かすごいことしちゃった?」
「姫様……あそこに月脈叩き込んで回路ショートさせたのか? 単純作業の自爆誘導かよ、相変わらず無茶苦茶だな……!」
「素晴らしいです、かぐや様! 見事な応用力でした!」
「まあたまたまなんだけどね!でももっと褒めていいわよ!」
かぐやがドヤ顔で胸を張る中、スピーカーの奥から『……え? あ、あれ? 回路3が過負荷で落ちた……? な、なんで……?』と、一気に焦りを含んだ生の素の声が一瞬漏れ聞こえたのだった。




