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竹取物語”裏”  作者: やすひこ
第2章 白兎強奪編
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情報屋

「コウ、どうやって仲間を集めるの?」


 変装用のフード付きポンチョの裾をキュッと握りしめ、かぐやが尋ねた。


「うーん、そうだなぁ。まあとりあえず情報屋に行ってみて、いいヤツがいないか聞いてみるよ。白濁ノ塔に潜入するときにも世話になった、顔馴染みの婆さんが裏町にいてさ」


「情報屋……! なんだか裏社会の怪しい映画みたいでワクワクするわね!」


「浮かれてる場合じゃないですよ、かぐや様。帝都ルナリアの裏街は、現皇帝オルグの法すら届かない危険地帯です。くれぐれも私から離れないでくださいね」


 セリーヌが周囲を警戒しながら念を押す。コウはニヤリと笑うと、帝都の華やかな大通りを外れ、あの入り組んだ暗い路地へと二人を導いていった。


「うーわ。ここなに?すっごい暗いし汚いじゃない」


 かぐやとセリーヌは思わず顔をしかめる。


「しょうがないだろここは裏町なんだし。俺たちも公にはされてないけど追われてる身なんだからな」


 そう文句をいなしながら、カビと鉄の匂いが漂う雑踏を抜け、辿り着いたのは怪しげな骨董品店。錆びついた真鍮のベルが寂しげな音を立てて扉が開く。


「いらっしゃい。何が欲しいんだい」


 奥の薄暗いカウンターから出てきたのは、頬がゲソりとやつれたあの初老のお婆さんだった。鋭い眼光でこちらを射抜くように見つめてくる。


「月を少々」


「月の影に、太陽は昇るか?」


「貴族の金貨が尽きるまでは、永遠に夜のままだ」


 完璧に暗号を交わしたコウがニッ…と笑った瞬間、後ろにいたかぐやが不満そうに口を挟んだ。


「ちょっとコウ! なによそのかっこつけた合言葉! 太陽だの金貨だの気取っちゃって! 私はもっと『パタパタウサギ』みたいなウサギにちなんだ可愛い合言葉かと思ってワクワクしてたのに!」


「かぐや様、しーっ! お声が大きいです……!」


 セリーヌが慌ててかぐやの口を両手で塞ぎ、汗をかきながら耳元でそっと解説する。


「かぐや様、お気持ちは分かりますがあれは裏社会の正式なコードです……! 一見意味深で、正体を知られないための厳密な暗号なのですよ。しかも貴族も裏町を利用することを暗示していて、皮肉が効いているでしょう?」


 セリーヌは口元を押さえたまま、どこか妙に感心した様子でコソコソと耳打ちした。


「……フン。相変わらず賑やかでおめでたいお姫様連れだねぇ」


 煙管(キセル)の吸い口をくわえたお婆さんは、目を細めて煙をくわぁっと吐き出すと、呆れたようにカウンターへ肘をついた。


「え! 何わたしのこと知ってるの!? もしかして私ったら有名人!?」


 かぐやはポンチョのフードを思わず脱ぎかけ、パッと目を輝かせて自分を指さした。


「ああ。あんたは有名人さ。あのこわーい皇帝さんに反逆した上に、歴史上誰も出られなかった『白濁ノ塔』から初の脱獄までやって見せたイカれた女だってな」


 お婆さんはしわくちゃの顔に意地の悪い笑みを浮かべ、淡々と事実を突きつける。


「はああああ!? 何よそれ! 私は至極真っ当に生きてるんですけど!?」


 心外だと言わんばかりに、かぐやはおでこに青筋を立てて跳び上がった。


「まあまあ姫様、事実だから反論できないでしょ。白濁ノ塔を内側からぶち破ったんだから、今や裏社会じゃ『伝説の脱獄お姫様』扱いだよ。裏町の酒場に行けば、どこもその話題で持ちきりらしいからね」


 隣でコウが肩をすくめ、他人事のようにからからと笑いながら肩をすくめてみせる。


「コウ、あんた余計な解説挟まないでよ! 私は伝説になりたくて脱獄したんじゃないわよ!」


 ジト目でコウを睨みつけるかぐやを余所に、お婆さんはコンコンと煙管の灰を灰皿に叩き落とした。


「フフ、まあ安心しな。表の街じゃあ『白濁ノ塔から囚人が脱獄した』なんて事実は徹底的に隠蔽されてるよ。不落の要塞が破られたなんて公になれば、現皇帝の威厳は丸潰れだからねぇ。だから兵士どもも『指名手配』じゃなく『不審者の捜索』名義でコソコソ動いてるのさ。……だが、情報が命のこの裏町じゃ、そんな都合のいい秘密は筒抜けなのさ」


 怪しく目を光らせるお婆さんの言葉に、店内の不気味な骨董品たちが怪しい陰影を落とす。


「なるほどね……表向きはメンツを守るために隠して、裏では必死で私たちを探してるってわけね。つくづく嫌な奴ねあの皇帝は!市民に情報隠してコソコソ動くなんて皇帝として最悪よ!ほんっとにムカつくわ!次会う時にはどうしてやろうかしら……!」


「お、姫様次期皇帝の自覚出てきたね!」


「コウ、うるさい! 黙りなさい! だいたいいっつもあんたは私をからかってばかりで……! 先刻だってウサギの耳がどうとか余計なこと言うし、少しは反省しなさいよ!」


「はいはい、反省してまーす」


「絶対反省してないでしょそれ!!」


 ギャーギャーと騒ぐかぐやとコウを、お婆さんは呆れ顔で煙管(キセル)をふかしながら見つめる。


「はいはい。分かったから静かにしな。それでコウ、何が聞きたいんだい?」


「腕が立って、俺たちの『無茶な計画』に貸してくれそうな面白ぇ仲間を探しててさ。婆さん、誰かいい出物はないか?」


「腕が立つ奴、ねぇ……。なら、ちょうどいいのが一人いるよ。都の東の端、捨てられた古い時計塔に引きこもっているアスターって女だ」


「アスター?」


 かぐやが首をかしげると、お婆さんは深々と煙を吐き出した。


「元々は中央研究所にいた天才技師なんだがね……まあ、極度のマイペースでさ。現皇帝オルグ様が欲しがっている強権派向けの兵器開発を完全に後回しにして、自分が作りたい月脈器の研究ばかり没頭してたんだ。あげく『美しくない』とか言って命令を突っぱねて、実質追放された変わり者さ」


「兵器開発を後回しにして自分の好き勝手……それ、大丈夫なの? かなりの変わり者みたいだけど」


 かぐやが心配そうに尋ねると、セリーヌが少し考え込むように顎に手をあてた。


「ですが、かぐや様。帝都の中央研究所といえば、一流の月脈技師しか入れない超狭き門です。そこで自分の意思を突き通して追い出されたということは、それだけの腕と独自の技術を持っている証拠でもありますよ」


「へえ、皇帝の命令をシカトして追い出された研究者か。度胸あるじゃん」


 コウが面白そうに口角を上げる。


「戦闘員じゃないが、自分が作ったイカれた武器を持ち歩いてるから、そこらのチンピラ程度じゃ返り討ちにあうよ。……まあ、話を聞いてみる価値はあるんじゃないかい?」


「よし決まり! ありがとうおばあちゃん!」


 かぐやはポンと手を叩くと、情報屋の店を飛び出した。


「あ、ちょっとかぐや様! 一人で行っては危険です!」


「待てって姫様! 全く、相変わらず行動が早すぎるんだから……!」


「……やれやれ、お気をつけてね」


 呆れ顔で見送るお婆さんを背に、コウとセリーヌは慌ててかぐやを追いかけ、天才技師を仲間にするべく時計塔へと向かって行った。



新キャラ、次回登場予定です

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