真実
「わかったよ姫様。説明するから。先輩もそれでいいよね?」
観念したように両手を上げたコウは、ちらりとセリーヌに視線を送った。セリーヌもまた、隠し通すのは不可能だと悟ったように、静かにうなずく。
「ここまで疑われていて話さないわけにはいきませんよ」
「そうだな。姫様が聞きたいのは協力者が誰かって話だよな」
「ええそうね。気になったところはその都度質問していくつもりだけど」
かぐやは腕を組み、二人を射抜くような強い眼差しを向けたまま、コクリとうなずいた。コウは頭を掻きながら、テーブルの上の温かい茶器を手で挟み込み、語り始める。
「わかった。じゃあまずは、今の皇帝について話をしないといけないかな。現皇帝オルグは、実はクーデターを起こして王になったんだ。実の兄だった前皇帝を殺してね」
さらりと言い放たれた衝撃の事実に、かぐやの息が止まった。
「それ……ほんとなの?」
絶句するかぐやの様子に、セリーヌが悲しげに眉をひそめ、言葉を継いだ。
「ええ、かぐや様。残念ながら本当です。当時の騎士団長であったあなたのおじい様が、任務で遠征していた不在の隙をついて前皇帝は暗殺されました。その後、前皇帝と懇意にしていた貴族たちを一斉に排除し、自分を支援した貴族のみを重鎮にすえたのです」
「その時の貴族たちはどうなったのかしら……?」
「殺された者、『白濁ノ塔』に幽閉された者、地球へと追放された者、様々だね。それで、亡くなった前皇帝は地球と共存し、貿易などによって両星の繁栄を目指す穏健的な思想だったんだけど、現皇帝のオルグは違う。地球にいるのは文明の劣った種だから、侵攻して支配しようっていう強権的な思想なんだよ」
「そんなの……許せないわ!」
あまりに身勝手な理由で平和が踏みにじられたことを知り、かぐやは拳を固く握りしめて立ち上がりかけた。セリーヌがそっとその肩に手を置き、宥めるように穏やかな声をかける。
「かぐや様、落ち着いてください。……ここからが本題です」
「姫様、城で皇帝の横に宰相がいただろ? 覚えてるか? 俺と先輩はあの人の指示のもと行動している。彼が今、城にいる唯一の穏健派だ」
「おかしいわ! さっき皇帝は自分に賛同する人だけを登用したって言ったじゃない!」
矛盾を突いて身を乗り出すかぐやに、コウは首を横に振った。
「宰相ザッカルト様だけは唯一、いち早くクーデターの動きに気づいていたんだ。そしてクーデターが成功した時の『保険』として、あえてオルグに協力する振りをし、過剰なまでに信用を得て宰相の地位に上り詰めた。もちろん、表向きは完璧な強権派として振る舞っている」
「ザッカルト様は、かぐや様を新たな正統なる王として擁立する計画を裏で進めておられました。そのために皇帝に助言し、かぐや様を地球から月に連れてこさせたのです」
「でも……皇帝も私に王座を譲る気だったわよ? それはどういう事なの?」
首をかしげるかぐやに、コウは暗い影を落とした目で問いかけた。
「姫様、城で言われた『一年間の実習期間を設ける』って話、覚えてる?」
「ええ、確かそんなことも言っていたわね。それがどうかしたの?」
「もしあの条件を飲んでいたら、その一年間で姫様は完全に洗脳されて傀儡にされていたよ。オルグ陣営には、相手の精神を書き換えて洗脳できる凶悪な『月脈解放』の使い手がいるからね。……まあそんなわけで、俺たちはザッカルト様の手足となって、穏健派の復権のために裏で色々動いてきたわけだ」
一気に事実を打ち明けたコウは、そこで言葉を区切ると、深く重い息を吐き出した。先ほどまでのひょうきんな表情は消え去り、申し訳なさそうにかぐやから視線を逸らす。
「……正直、姫様には本当に申し訳ないと思ってる。俺たちの都合に巻き込んで、勝手に試すような真似までしてさ。でも……それでも俺は、地球と戦争なんて絶対にしたくない。……だから、俺たちに協力してくれないか。お願いだ」
「かぐや様……私からも、どうかお願いします」
二人は示し合わせたかのように、かぐやの前で深く深く頭を下げた。重苦しい沈黙が広間に流れる。
かぐやは二人を見下ろし、呆れたように大きなため息をつくと、仁王立ちになって大きく息を吸い込んだ。
「ふたりのばかーーーーっ!!」
豪邸の天井を揺らすほどの叫び声に、コウとセリーヌが思わず顔を跳ね上げる。かぐやはぷんぷんと顔を真っ赤にし、腕を組んで二人を睨みつけた。
「協力しないわけないでしょ! 私だって地球に攻めて来られるなんて絶対に嫌よ! いいわ、私が王になってあげる! ……ただし! 二人は一生死ぬまで、私に付き合ってもらうからね!」
胸を張って宣言する小さな姫の姿に、セリーヌの目元が和らぎ、ぱっと花が咲いたような笑顔がこぼれた。
「ありがとうございます、かぐや様! 私も、かぐや様とずっと一緒にいたいです」
「ふんっ。……全く、姫様らしいや」
コウは照れくさそうに鼻の頭を掻きながら、横を向いてつぶやいた。そんなコウの横顔を見逃さず、セリーヌがくすりと微笑む。
「ふふっ、コウ。照れてないで、お礼はきちんと言わないと伝わりませんよ?」
「そうよ! コウからの感謝の気持ち、ちゃんと聞きたいなー?」
かぐやがニヤニヤしながら顔を覗き込破んでくると、コウは頭をガリガリと激しく掻きむしり、観念したように肩を落とした。
「あーもうっ、わかったよ! ……ありがとな、姫様」
「うんっ!」
コウの小さな呟きに、かぐやは満面の笑みで大きくうなずいたのだった
諸事情で次の更新遅れます!ごめんなさい!次の更新は19日に予定です!




