第8話 自立させないエイリアン
エイリアンに出会いました。
それは人間の形をして人間の言葉を話していたけど、自分の子供をいつまでも手元に置いて、子供を自分の体の一部のように取り扱っていました。
そのエイリアンは根っからのさみしがり屋のようで、結婚する前は親と兄弟姉妹にいつでも引っ付いていたようです。結婚した後は配偶者と四六時中行動を共にすることを望み、休みの日に配偶者が自分の趣味を楽しむために別行動をすると、一日中枕を涙で濡らしたようです。
しかし、子供が産まれるとエイリアンの寂しさは吹っ飛びました。なにせ、24時間365日一緒にいることができて、しかも相手からは常に自分を必要だと求められます。幼い子供は当然親を求めますが、それ以上にエイリアンは子供を片時も側から離そうとせず、どれだけ体が辛くても精神的に参るときでも子供を第一に優先し、自分が犠牲になることにむしろ喜びを感じるほどでした。
子供もエイリアンと共に過ごすことを望んでいました。やりたいことはすべて叶えてくれて、欲しいものはなんでも与えられ、何をしても怒られることもない、さらに食べたいものを何でも与えてくれて、美味しいものだけ食べなさい、食べたいときに食べなさい、美味しくないものを食べる必要はない、食べたくないものは食べなくてよいと言われて育てられました。子供はこの世に不可能なんて言葉があるとは思いもしなかったはずです。
しかし、成長するにつれて子供は外の世界を知ると家にいる時間が減り、エイリアンと過ごす時間も減っていきました。おそらくそこで目を覚ますきっかけがあったかもしれませんが、エイリアンは子供をそう簡単に手放すようなことはしません。エイリアンは子供の友達を全て把握し、子供たちの集まりにも同行するようになります。それは子供が大きくなってからも続き、友人が子供を誘うともれなくエイリアンも一緒に付いてくるということが日常茶飯事になりました。すると、そのことに嫌気が差した友人たちは子供を誘う機会が減り、友人がいなくなった子供はまたエイリアンとべったり過ごす時間が増え、まさにエイリアンの思惑通りになりました。友達ですらそのような状況なので、恋人なんてあり得ない話です。
幼い頃からエイリアンの言うことを聞いて育った子供は自分の状況に違和感を感じる暇もなく、二人だけの世界で自己完結していました。何をしても否定されたことはなく、子供がしたことはどんなことでも肯定し続け、どんな無茶な要望にも応え続けた結果、子供は我慢という言葉があることさえ知らずに育ちましたが、周囲の人間はそんな子供を受け入れられるはずがありません。子供は世間一般に溶け込めず、周りの人間が一人また一人と去っていきますが、子供にとって一番居心地が良いのはエイリアンの側であり、相思相愛の関係を一欠片の疑いもなく持ち続けられる相手がいることで自己肯定感は上がり続ける一方なので、子供は自分が置かれている状況に特に不満はありませんでした。
子供は自分がやりたいこと以外での決定を迫られているとき、必ずエイリアンの指示を仰ぎました。エイリアンの言う通りにしておけば失敗しないということを学び、いつしか自分で考えて決定するという意思も削がれていったのです。それでもなんらかの過ちをおかしたときにはエイリアンが周りに押し付けるか子供の責任逃れをして、子供が謝罪しないよう先回りしていました。酷いときには、立場が弱い人に子供への謝罪を要求するほどでした。
エイリアンの干渉は学生時代の友人関係だけに留まりません。社会人になってからは子供の給料を全て管理し、以前と同じように欲しいままお小遣いを与えていました。子供は給料明細を開くことなくエイリアンに渡していたので、自分が毎月いくら稼いでいるか、ましてや貯金がどれだけあるかなんて知る由もありません。当然、税金などの控除なんてものも知り得ません。子供が欲しいといったものはなんでも買い与えていたので、子供にとっては欲しいものが自分の給料の範囲内なのかどうかなんて問題ではありません。
人間として最低限の知識や品性を奪い、友人関係で築き上げる人間性の向上の機会を奪い、お金の勉強をする機会を奪い、社会の仕組みを知る機会を奪い、自立の術を全て奪われた子供はエイリアンの側でしか生きられない世界の中心にいるエイリアンへと成長を遂げました。
エイリアンと子供は自分たちこそ幸せの象徴だと信じて疑いませんが、いずれエイリアンは年を取り、身動きが取れない日がやってくるはずです。そのとき、社会をなにも知らず、自分で決定もできない子供と共にどうやって過ごしていくのでしょうか。
人間は先のことを考え、なにより子供自身の人生のことを思って愛情を持って時に厳しく時に突き放したりしながら子供の成長を促し、我慢を教え、社会生活の酸いも甘いも教えますが、当人たちの幸せが最優先のエイリアンにとっては信じがたいことでしょう。
あなたの周りにもエイリアンはいますか?




