第7話 寝間着姿のエイリアン 再び
寝間着姿のエイリアンと再び会う機会がありました。
エイリアンの性質のせいで周りからは人間が去っていくようで、エイリアンの配偶者と付き合いがある私たちになんと一泊二日の旅行のお誘いがありました。エイリアンと48時間も一緒にいるなんて苦行以外の何ものでもないですが、配偶者同士の関係もあるので無下に断れず、その旅行に同行することになりました。
それはエイリアンが希望した旅行でエイリアン主催だったので、配偶者も私たちも自然と付いていく形になりました。すべてエイリアン先導で進んでいきます。それでも、私たちはできるだけお手伝いをしようと試みました。人間として当然の行為です。しかし、エイリアンは「リラックスしてください」と言って私たちの手伝いを断りました。何度も何度も聞くのは失礼に当たるかと思い、適度に確認をしていましたが、その都度断られました。
ところが、半日経ったところでエイリアンの機嫌が急転しました。私たちの行動のなにかがエイリアンの気にくわないらしく、わざとらしい大きなため息をついて、わざとらしい大きな物音を立ててこちらを威圧してきます。気まずい空気が漂いますが、こうなると私たちにできることはありません。
せっかくなら楽しい旅行にしようと気分を新たに意気込んで出かけましたが、やはりエイリアンは簡単にそうさせてはくれません。たった数時間同じ空間で過ごしただけで、誘いを断らなかったことを猛烈に後悔し始めました。
人間であれば気にも留めない些細な物事さえエイリアンの気にそぐわないことがあれば、それは重大な事件になります。私たちは、エイリアンの機嫌を損ねないように息をひそめて生活するしかありませんでした。しかし、エイリアンの機嫌はめまぐるしく変化します。その変化の原因を私たちが推測する限りでは些末なことで、そんなことで怒りを露わにするエイリアンに感心を覚えるほどでした。
エイリアンは配偶者のことを奴隷だと思っているらしく、配偶者がどれだけエイリアンの言うことに従っていても文句が次々と出てきます。
それは、以前聞いていた話と合致する状況でした。普段、配偶者が仕事を終え疲れている体でどれだけ家事に励んでも、たった一つできていないだけで烈火の如く怒り出し、自分は一日中、寝間着姿のままで布団の上でごろごろしていることも配偶者の責任だと口汚く罵るそうです。エイリアンは食事の後の皿を二枚洗うだけだったり、掃除機をたった三分間かけることさえ大仕事のように振る舞い、わざとらしい溜息を配偶者に聞かせるように繰り返すそうです。
二日目、エイリアンが歪んだ笑顔で私たちに尋ねてきました。
「配偶者が明日の休みにゲームをするというのだけど、どう思うか」と。
私たちは「せっかくの休みなのだから構わないんじゃないか」と答えました。
すると、エイリアンは地団駄を踏んで声を荒げました。
「自分は明日は働きに出るのに、その間配偶者はゲームをするなんて不公平だ」と言うのです。
私たちは開いた口が塞がりませんでした。働きに出るといっても週に四時間だけのパートタイムです。一方、配偶者は週に六日間朝から晩まで働いていることに加え、家事も行っています。これのどこが不公平なのでしょうか。配偶者が働いている間、エイリアンは一日中ベッドの上でごろごろしていることは公平なのでしょうか。休みの日に家事を済ませたあとの自由時間を謳歌することさえできないというのなら、配偶者はソファの上でじっとしていれば満足なのでしょうか。
そして帰り際、私たちにとって衝撃的な出来事がありました。配偶者が四人で話し合いをしたいというのです。申し訳なさそうに、しかし断ることを許さない雰囲気に、私たちは同意するしかありませんでした。配偶者についていくと、椅子に座ったエイリアンが暗い顔をして俯いています。四人で机を囲むように座り、配偶者が口を開きました。
「今回の旅行、私の配偶者がとてもストレスを受けました」
詳細を聞くと、私たちは手伝いもしない、全部の行程が自分任せ、冷蔵庫を占領してる、と言うのです。冷蔵庫を占領してるものというのは、エイリアンが食べたいというので私たちがわざわざ購入したものです。しかし、思ってたものと違うと罵った挙句の文句です。手伝いも何度か聞くたびに断ったのはエイリアンだし、行程もエイリアンのしたいことに付いていくしか選択肢がなかった上での文句です。
人間には協調性、共感力など周りと協力できる感情があるので、私たちもなんとかエイリアンの気持ちに寄り添うことができないかと努力を重ねましたが、エイリアンの要求は私たちの許容量をはるかに超えていて、さらに予想もできないような要求に発展していくことに私たちもいい加減辟易したので、エイリアンとの共存は諦めざるを得ませんでした。エイリアンは私たちのそんな努力をあざ笑うかのように、エイリアンだけにしか理解できない考えを、まるで素晴らしい考えかのように声を大にして主張し続けました。
エイリアンはきっと私たちに説教を述べたことについて良いことをしたと満足感で一杯でしょうが、私たちの人生に一生懸命な人間にとっては心底どうでもいいことです。
ひとつ心残りがあるとすれば、エイリアンに飼われている犬のことです。3kgにも満たない小さな犬ですが、犬らしいことを一切させてもらえません。おもちゃはゼロ、散歩は2分、走ると怒られ、吠えると殴られます。
犬好きな私たちがせめて自分の手をおもちゃに見立てて遊ぼうとすると、小さな犬ながら闘争心が芽生えたようで活発になりました。それでも甘噛みで決して牙を向けない優しい犬でしたが、エイリアンは信じられないという目を向けて犬の頬や尻を叩いていました。犬が名前を呼ばれるだけで目をしばたたかせ怯えている姿を見るのは胸が締め付けられました。エイリアンにとって犬はかわいいかわいいと愛でる存在だけなのです。ぬいぐるみを飼えばいいのにと何度も喉から出そうになりました。
私たちがエイリアンのもとを去る日、私たちの足元にすり寄って悲しそうに吠えている犬を置いていくのは何よりも辛かったです。
あなたたちの周りにもエイリアンはいますか?




