第6話 構ってほしいエイリアン
エイリアンに出会いました。
それは人間の形をして人間の言葉を話していたけど、人間の関心を得ることに異常に執着する性質を持っていました。
そのエイリアンは一見すると人あたりがよく、意志疎通も問題なくできているので、始めはエイリアンだと気付かないものでした。
しかし、そのエイリアンと少しでも深く付き合うと、誰もがその性質に違和感を持ち始めます。普段はニコニコとしているエイリアンですが、なにかが気に入らないと途端に不機嫌になるのです。
もちろん、人間も完璧ではありませんから誰だって不機嫌になるときはあります。ただ、大抵の人間は自分で気持ちを調整することができます。自分の機嫌は自分でとる、という言葉があるように、嫌なことは忘れるように努めたり他のもので気を紛らわせたりすることができます。ましてや、他の人間にわざわざ自分の不機嫌を押し付けるなんてことは滅多にありません。
しかし、このエイリアンは違います。自分が不機嫌になるとその事を周囲に知らしめ、周りの人間に自分の不機嫌の修正を押し付けます。怒ったり周りにあたり散らかしたりすれば、人間もすぐに気付き離れることができますが、このエイリアンの厄介なところは巧みに人間に罪悪感を植え付けるのです。
まず、エイリアンは不機嫌になると肩を落とし、あからさまに暗い表情を見せつけます。その急な態度の変化に周りの人間は混乱し、円滑な関係を保とうと努力する人間はエイリアンの態度の理由を探り機嫌を治してもらおうと試みます。
不機嫌の理由がわかるときにはどうにか手の打ちようがありますが、問題は理由がわからないときです。
突然不機嫌になっていて、周囲に聞こえるように大きなため息を幾度となく繰り返します。人間がそれに気付き「どうしたの?」と声をかけても簡単に答えるようなエイリアンではありません。「なんでもない」と言いつつ、ため息はますます大きくなります。一人だけそのような状態ですから、人間は自分たちに非があるように思い込み、宥めたり気持ちが良くなるような声をかけたり試みます。その一度や二度の試みで簡単に屈するようなエイリアンではありません。エイリアンが納得できるだけの回数や言葉を与えられて満足するまでは決して機嫌を取り戻したりはしません。さらにその場にいる全員からの気を引けなければエイリアンの不機嫌は永遠に続くのです。
エイリアンは気持ちと裏腹なことを言って、人間を試したりもします。グループで一緒に遊びに行こうと誘っても、一度目は「行かない」と断ります。当然、周りの人間は「みんなで一緒に行こうよ」と誘いを繰り返します。それに対し、エイリアンは目を伏せて「行かない」としか言いません。その訳ありげな表情に、人間は何かの事情を察し、遊びの場所の変更や日程の変更、果てはエイリアンの都合のいいような条件を申し出ますが、それに対しエイリアンは首を振り続けます。これだけ言っても断り続けるのなら余程の事情だろうと察した人間は、それならばと、誘いを諦めます。すると、エイリアンは一層暗い雰囲気を体に纏い始めます。それに気付いた優しい人間は、もう一度誘いかけます。すると、ようやくエイリアンは首を縦に振るのです。このような一連の行動に、人間は混乱するばかりです。
これが赤の他人だと、だんだんとエイリアンと距離を置いて離れることもできますが、エイリアンの家族はそうもいきません。
エイリアンは家の中で不機嫌になると部屋の中へ閉じ籠ってしまいます。部屋の電気も付けず、ベッドへ横たわりもせず、暗闇の中でじっと座り込む様子はどこからどう見ても異常です。こうなると、家族はまず会議を開きます。誰が直接の原因を作ったかを話し合い、思い当たることがある人物がまずは謝罪に向かいます。暗闇の中で横に座り、淡々と自分の犯したであろう過ちについて謝り続けます。もちろん、エイリアンの機嫌はそう簡単に戻りません。次に配偶者が部屋へ向かい、入れ替わり立ち替わり子どもたちが部屋に向かい、それを2、3周したところで、ようやくエイリアンは部屋から出てきます。
家族は、そんなもの放っておけばいい、という助言も何度も受けましたが、放っておけば放っておくほど謝罪の数を増やさなければならず、比例して時間がかかることを身に染みてわかっているので、家族にとっては早期解決こそ平和への近道なのです。それを平和というかは家族のみぞ知り得ることですが、少なくとも子どもたちにとっては物心付いた頃から植え付けられている環境なので、これがおかしなことだと知る由もありません。
さらに、天岩戸に引きこもられると面倒なので、普段からエイリアンの機嫌を損ねないようにする努力も怠りません。
特に子どもたちはエイリアンの機嫌が悪くなる原因が本能的にわかっているので、先回りしてエイリアンの気持ちがよくなることを優先して動きます。それが自分たちの人生を犠牲にしてるとも気付かないので気の毒なことです。
子どもたちが家から巣立って良い配偶者に巡り合えることを祈るのみです。
あなたたちの周りにもエイリアンはいますか?




