第二話:駐車場の大騒動
国都『誓いの森』での緊急会議は、重苦しい沈黙の末にようやく幕を閉じた。
しかし、ひとたび会議室を一歩外に出れば、
十人の継承者たちが大人しくそのまま帰るはずもなかった。
「ちょっと待ちなさいよ、迅!!」
森の木々に囲まれた広い駐車場に、風の継承者・風見凪の怒声が響き渡る。
凪は、前を歩いていた雷の継承者・雷堂迅の首根っこを掴まんばかりの勢いで
詰め寄っていた。
「あぁ? なんだよ凪、うるせえな。俺は早く里に帰って寝たいんだよ」
「寝たいじゃないわよ! お前、さっきの会議中、
私が真面目に防衛網の提案をしてる時に、堂々と舟漕いで寝てたでしょうが!
これだから脳筋の雷一族は……っ!」
「ちっ、人聞きが悪いな。寝てねえよ、
瞑想して脳内で雷のシミュレーションをしてたんだよ」
「嘘おっしゃい! 思いっきりヨダレ垂らしてたじゃない!!」
ギャーギャーと騒ぐ二人の横で、
地の継承者・磐木大地が「まあまあ二人とも、せっかく会議が終わったんだから落ち着いて……」
と苦笑いしながらオロオロと割って入ろうとしていたが、
風と雷のトップ2の気迫に押されて完全に空気と化していた。
そんな騒がしい面々を少し離れた場所から見つめながら、
柊夜は自らの車のドアに背を預けていた。
「相変わらず賑やかだな、あいつらは」
「本当ですね。でも、凪様がああやって迅様を怒ってくださるから、
全体のバランスが取れているのかもしれません」
隣に並ぶ花の継承者・花菱絢芽が、ふわりと薄桜色の髪を揺らして微笑む。
その絢芽の肩には、先ほど車内で柊夜が貸した紺色の羽織がそのまま掛けられていた。
少し大きめの羽織に包まれている絢芽の姿は、
傍から見ると完全に『付き合いたてのカップル』そのものである。
そこに、光の継承者・天宮日奈が静かに歩み寄ってきた。
その目は、完全に不審者を見るそれ──ジト目である。
「ちょっと、柊夜。先ほどから絢芽があなたの羽織を嬉しそうに羽織って、
しかもあなたの着物の袖をずーっとギュッと掴んでいるのですが。
これは一体どういう風の吹き回しですか?
ただの『居候』にしては、さすがに距離が近すぎやしませんか?」
「ん? いや、国都は北海洲ほどじゃないが、やっぱり冬だからな。
絢芽が寒そうにくしゃみをしてたから貸しただけだ。
袖を掴まれているのは……まあ、絢芽が歩きやすいように支えているだけだが」
「あ、あの……日奈ちゃん、違うの……っ!」
絢芽が一瞬で顔を真っ赤にして、両手をぶんぶんと振った。
「これは私が勝手に、その……柊夜様の温もりが恋しくて、
離したくなくて……うぅ……っ!」
「絢芽、もう何も言わないでください。
あなたのその真っ赤な顔と正直すぎる告白が、すべてを物語っています。
……はぁ、本当にこの氷男は、天然でこういうことをするからタチが悪い……」
日奈が盛大にため息をつき、頭を抱える。
その横では、主たちの手綱を握るべき守護官同士のやり取りも始まっていた。
「さて……守護官の皆様も、主たちのメンタルケアは大変ですね」
花の守護官・鏡花が上品に微笑みながらお茶のボトルを差し出すと、
氷の守護官・氷雨もそれを受け取り、肩をすくめた。
「全くだ。我が主のあの天然たらしを止めるのは、
灰燼の暗殺部隊を一人で壊滅させるより難しい」
「ふふ、でも、そんなお二人の信頼関係が、私は少し羨ましくもありますよ?
……ねえ、氷雨様?」
鏡花が微かに上目遣いで、艶のある声を漏らす。
一気に近づいた彼女の気配に、いつもはクールな氷雨の灰色の瞳が微かに揺れた。
彼はすっと視線を逸らし、耳の裏を少し赤くしながら呟く。
「……私、常に柊夜の影としてあるだけだ。……行くぞ、柊夜。車の準備はできている」
「あ、ずるい! 氷雨様、今照れて逃げましたね!?」
くすくすと笑う鏡花と、完全にポーカーフェイスが崩れて早足で車に向かう氷雨。
そんな守護官二人の様子を、主である柊夜と絢芽はジト目で見つめ、
心の中で完全にシンクロしてこう思った。
((なんで、付き合ってないんだろうな、あの人たち……))
そんな微笑ましいいざこざが繰り広げられていた、国都の駐車場。
しかし、その平和な空気は、
突如として氷雨の懐にある端末が鳴らした「不穏な警告音」によって、
一瞬で引き裂かれることになるのだった。
迅と絢芽は従妹なんです!
なんか番外編か後日談書こうと思ったり




