表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承者誓約譚  作者: 冬泉アオイ
《氷花の詩》第二章:敵は過去も今も未来も恨みました。■■を守るために。
PR
6/43

第一話:影を落とす灰燼

「……以上が、先日の我が里における襲撃の全容です」

国都の『誓いの森』に佇む会議室。

花の継承者・花菱絢芽の凛とした声が響き渡り、室内の空気は一段と重さを増していた。

十人の継承者たちがそれぞれの席で沈黙を守る中、

真っ先に口を開いたのは、地の継承者である磐木大地だった。

「なるほどな……。ただの闇討ちではなく、

こちらの陣形を完全に把握した上での包囲網、か。

鏡花殿の言う通り、これまでの『灰燼』の行き当たりばったりな戦術とは明らかに

一線を画している」

「ああ。奴らは今まで、能力のゴリ押しや数に頼るだけの

テロリスト集団だと思っていたが……どうやら、

戦い方を熟知した『指揮官』が裏にいると見た方が良さそうだ」

炎の継承者、緋村宗星が腕を組みながら、赤い瞳を鋭く光らせる。

「指揮官、ねぇ……。どこのどいつか知らねえが、

陰でコソコソ作戦なんて練ってねえで、

俺の前に出てくれば一瞬で消し炭にしてやるよ」

雷の継承者・雷堂迅が、自身の指先にパチパチと紫色の電撃を走らせながら不敵に笑う。

だが、その軽口をたしなめるように、柊夜が静かに水縹色の瞳を向けた。

「油断するな、迅。奴らの狙いが俺たち『継承者』の命である以上、

今までの常識が通じない相手になったということは、

それだけ俺たちの生存率が下がるということだ。特に──」

柊夜は一度言葉を切り、会議室の全員を見渡した。

「奴らが『隠れ里の結界を抜ける手段』、

あるいは『術式を無効化する手段』を持ち合わせているのだとしたら、

一族の血を引く者しか入れないという里の絶対的な安全性すら、過去のものになる」

その言葉に、風の継承者・風見凪や光の継承者・天宮日奈も、

ハッとしたように表情を強張らせた。

二百年間守られてきた「隠れ里」という聖域。

それが脅かされるかもしれないという事実は、

彼らにとって世界の前提が覆るほどの恐怖だった。



──同時刻。国都から遠く離れた、敷島のどこか。

日が一切差し込まない、古びた地下の潜伏組織の一室。

冷たいコンクリートの壁に囲まれたその部屋の、唯一の明かりである蝋燭の火が、

ゆらゆらと不気味な影を揺らしていた。

「……花の隠れ里の襲撃は、失敗に終わったか」

闇の奥から、低く、しかし驚くほど透き通った男の声が響く。

「申し訳ありません、冥様。花の守護官──神崎鏡花の戦術眼が、

我々の想定を僅かに上回っておりました。

それに……最悪なことに、北の氷が早々に動き出し、花の里へと合流した模様です」

床に膝を突き、深く頭を垂れているのは、全身を黒い装束に包んだ灰燼の構成員だ。

闇の中に佇む男──灰燼を統べる棟梁、九条冥。

彼は、手元に置かれた敷島の地図を、感情の失せた黒い瞳で見つめていた。

その地図には、十の隠れ里の位置を示すバツ印が不気味に書き込まれている。

冥は、構成員の報告を聞いても、怒る風でもなくただ静かに息を吐いた。

「構わない。元より、あの『花』を一度の奇襲で枯らせるとは思っていない。

だが……実験としては十分だ。

こちらの『反・術式兵装』の出力が、継承者相手にどこまで通用するか、

そのデータは取れた」

冥がそう言って机の上に置いたのは、奇妙な鈍色に光る、歪な形をした短刀だった。

魔術も、奇術も、この世界の理であるあらゆる幻力を、

文字通り「遮断」し、無に還す未知の武器──。

「冷泉柊夜。氷の継承者……。やはり、奴が一番の障壁になるか」

冥の脳裏に、二百年前から連綿と続く『継承者』というシステムの歪みと、

自分たちの血族が味わってきた過去の、今も、そして未来へも続く深い怨嗟が蘇る。

「我々は過去も、今も、未来も恨み、呪い続ける。……■■を守るために。

あの忌々しい血族のシステムを、この代で完全に終わらせる」

冥の手が、地図の南の地──『日向』の場所を指差した。

「各洲に潜伏させている斥候たちに伝えろ。

全神経を尖らせ、継承者どもの動向を見張れと。次は……この南の地を、赤く染める」

「御意」

黒衣の構成員が、音もなく闇の中へと消えていく。

一人残された冥は、蝋燭の火を指先で静かにつまみ消した。

暗黒に包まれた部屋の中に、消え残った煙だけが、

これからの敷島の運命のように不穏に漂っていた。



冥がラスボスです。

結構強くしたい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ