表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承者誓約譚  作者: 冬泉アオイ
《氷花の詩》第七章「過去には決別を、現在には羨望を、そして未来には祝福を、」
PR
39/43

第七話「覚悟」

激突する「氷」と「闇」。

その余波によって、総本殿の美しい広場は原型を留めないほどに

破壊されていた。

「あはははは! 凄いね、凄いよ君は!

理性を捨て、ただの獣になった君は、さっきまでより遥かに僕を愉しませてくれる!」

冥の狂った笑い声に、柊夜は応えない。

ただ、その瞳からはハイライトが完全に消え失せ、

底知れない殺意だけが渦巻いている。

氷河から放たれるのは、もはや美しい氷ではなく、

触れるものすべてを凍らせる凍結の結晶。

己の肉体が軋み、血を流すことすら認識していない。

そんな破滅的な死闘から離れた片隅。

時の継承者・久遠皓は、静かに金色の懐中時計を掲げていた。

「ここ全体の時間を巻き戻すのは、さすがに時の神様が許してくれない。

……だけど、君だけの『時間』なら、僕の独断でどうにでもなる」

皓の静かな声と共に、彼の周囲に無数の金色の歯車が顕現し、

カチカチと音を立てて噛み合い始めた。

彼が発動した術式──それは、世界をやり直すタイムリープではない。

花菱絢芽という一人の人間の「肉体」と「魂」の時間だけを

強制的に過去へと逆行させる、歴史への反逆だった。

ただ、このような強い技は燃費が悪いのが通常。

その例に当てはまるように零の『コレ』も絶大な幻力を奪われる。

もともと瀕死寸前の人間ができる芸当ではない、が。

彼は敷島の『継承者』

精神力は常人の数倍以上。

精神だけで大技を放つこともできる。(はず)

時は動いた。

「──『時層回帰』──」

皓が懐中時計の竜頭を逆方向にカチリと回した瞬間、

絢芽の遺体を眩い金色の光の奔流が包み込んだ。

タッ、タッ、タッ、タッ……。

時計の針が動くような音が響く。

その軌跡と同時に皓から血が落ちた。

今日中に何度も過去へ行っているのだ。

幻力も体力も体も限界なはずだった。

だが、皓は術式を組み続ける。

死ぬ可能性もあるにも関わらず。

光が絢芽の全身を駆け巡り、術式が完成した。

次の瞬間、信じられない光景が始まった。

雪原に流れ出していた絢芽の鮮血が、

全てを無視して彼女の身体へと吸い込まれるように戻っていく。

胸元を無残に貫いていた致命の傷口が、

時間を逆再生するように肉を繋ぎ合わせ、瞬く間に白い肌へと塞がっていった。

そして、肉体の時間が「傷を負う前」まで巻き戻ったその瞬間。

世界の狭間に消えかけていた彼女の「魂」の時間が、

強引に現世の肉体へと引き戻され、

ガチリと噛み合った。

「……っ、はあぁッ!!!?」

絢芽の口から、猛烈な酸素を求める悲鳴のような呼吸が漏れた。

失われていた瞳に鮮烈な光が戻り、止まっていた心臓がドクン、と力強く脈打ち始める。

「な……私、は……?」

絢芽は自分の胸に手を当てた。

衣服は切り裂かれたまだが、そこには血もなければ、傷一つない。

「おはよう、絢芽。」

呆然とする絢芽の前に、皓が血を拭きながら淡々と告げた。

「皓、くん……? なんで、ここに……。それに、私は確か九条に刺されて……」

「君は一度、確かに死んだよ。

僕は君の身体と魂の時間を数分前──君が元気だった頃に巻き戻して、

強引に生き返らせたんだ。……まあ、僕の気まぐれさ」

皓の言葉を聞いた瞬間、絢芽の脳裏に「最期の記憶」が鮮烈に蘇った。

自分が倒れた後のこと、傷つき狂っていく愛しい人の姿が。

「──柊夜、様……っ!!」

絢芽は弾かれたように顔を上げ、広場の中央へと視線を走らせた。

そこにいたのは、かつて見たこともないほどに狂い、

理性を失って刀を振り回す柊夜の姿だった。

服は引き裂かれ、全身から血を流しながら、

獣のような咆哮を上げて冥に斬りかかっている。

「……ひどいものだろう?」

皓が静かに、破壊されていく戦場を見つめながら言った。

「彼は君を失ったことで、完全に壊れてしまった。

今の柊夜を動かしているのは、

敷島を護る使命感でもなければ、君との未来を望む意志でもない。

ただ目の前の男を八つ裂きにするためだけの、殺意だ。

このまま戦いが続けば、相打ちになるか、あるいは彼の身体が内側から崩壊して死ぬ

最も、この戦いで敷島は滅びるはずだった。」

「そんな……っ!」

絢芽の胸に、張り裂けんばかりの痛みが走る。

柊夜は、自分のために狂ってくれたのだ。

自らの死が、彼からすべての理性を奪い去るほどに、彼は自分を愛してくれていた。

「……皓くん、私を生き返らせてくれて、本当にありがとうございます」

絢芽はふらつく足で、しっかりと大地を踏み締めて立ち上がった。

その手には、主の復活に呼応して再び瑞々しい幻力を放ち始めた扇「桜蘭」がある。

「今の柊夜様を止められるのは、私だけです。──行ってきます」

「手短にね。いくら時間を巻き戻したとはいえ、君の力は万全じゃない」

「ええ、一瞬で終わらせます!」

タッ!!! と、絢芽は銀世界を全力で駆け出した。

目指すは、氷と闇の嵐が吹き荒れる中心地。

理性を失った柊夜の「氷河」が、冥の黒刀と激突し、

凄まじい衝撃波を撒き散らしている。

冥はその柊夜の狂気的な猛攻を前に、初めて悦楽ではない、

本物の生命の危機を感じて冷や汗を流していた。

「ちっ、本当に化け物だな君は……! 心臓を潰されても動くんじゃないのか!?」

冥が防戦一方になりながら黒刀を振り抜こうとした、まさにその一瞬。

「──柊夜様ーーーーーーッ!!!」

戦場に、届くはずのない、

しかし誰よりも恋焦がれた少女の凛とした叫び声が響き渡った。

「──は?」

その声を聞いた刹那。

理性を失い、ただの殺戮人形と化していた柊夜の動きが、ピタリと止まった。

脳が認識するよりも早く、彼の魂が、心臓が、

その最愛の声を拒絶することなどできなかった。

「……あ、や……め……?」

ゆっくりと振り返る柊夜。

その視線の先には、傷一つない姿で、涙を流しながら真っ直ぐに自分へと走ってくる、

絢芽の姿があった。

「私はここにいます! 生きています!

だから……だからもう、そんな悲しい戦い方はしないでください……!」

「……生き、て……?」

柊夜の瞳に、微かな、しかし確かな正気の光が戻り始める。

だが、その最大の隙を、闇の継承者が見逃すはずがなかった。

「──あはは! よく分からないけど、生き返ったならもう一回殺すだけだ!!」

冥の顔に、邪悪な、そして最悪の笑みが戻る。

完全に動きの止まった柊夜の無防備な首元をめがけて、冥の黒刀が神速で突き出された。

「しま──」

正気に戻りかけた柊夜では、その反応速度の遅れをカバーしきれない。

「させると思ったのかい、」

優しく、実直で、そして絶対的な安心感のある声。

その声と共に、冥の凶悪な斬撃を何かが正面から受け止めた。

先の戦いで致命傷を負い、倒れていたはずの土の継承者──磐木大地。

その不動の双眸は死んでいない。

彼の左手には、太刀「砂礫」が固く握られていた。

ガギィィィンッ!!!

「チッ、立ち上がるのか、この男は……!」

冥が忌々しげに距離を取る。

「柊夜!!聞こえるか。絢芽ちゃんと話してこい!この戦場は貰い受ける!!」

「っ、ああ。大地、頼む、、、」

柊夜は戦線から離脱し、絢芽に駆け寄った。

「……絢芽。本当に、絢芽なのか……?」

絢芽に触れる柊夜の身体は、小刻みに震えていた。

全身の傷から血を流し、ボロボロになりながらも、

彼は絢芽の温もりを確かめるように強く、強く抱きしめる。

「はい、柊夜様。私はここにいます。あなたの隣に、ずっといます」

絢芽は柊夜の胸に手を当て、生命の幻力を流し込んで彼の傷を癒やしていく。

最愛の人の復活。

それによって、柊夜の「理性」と、揺るぎない「覚悟」が、戻ってきた。

戦区の端で見守る久遠皓。

時間を超えた奇跡の末に、

氷と花は、今度こそすべての因縁を断ち切るための最終決戦へ臨む──。



柊夜)冥、さようならのお時間だ。

冥)ぎゃあー!


☆朗報

冥、〇す!


こんな感じでよかったんだけどな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ