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継承者誓約譚  作者: 冬泉アオイ
《氷花の詩》第七章「過去には決別を、現在には羨望を、そして未来には祝福を、」
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第三話:闇の継承者『九条 冥』

氷の絶壁によって、中央の戦場は完全に二つへと引き裂かれた。

壁の向こう側から響く、絢芽と依織の激しい刃の交錯音。

それを背中で聞きながら、

柊夜は、闇の継承者『九条 冥』と相対していた。

周囲は見渡す限りの銀世界。

柊夜の冷気が、総本殿の広場を完全に支配している。

(一旦、出方を見るか。地の利は完全にこちらにある。

──ならば、使えるものは全部使ってやる!)

柊夜は「氷河」を構えたまま、一切の詠唱を行うことなく、

体内の幻力を極限まで練り上げ始めた。

無詠唱による超高速の術式構築。

ただ、時間がかかる。

柊夜はあえて言葉を投げかけた。

「おい、九条。お前の戦う理由はなんだ」

「え? 僕のかい?」

冥はドス黒い幻力を足元から揺らめかせながら、小首を傾げた。

その瞳には、退屈と狂気が入り混じっている。

「僕はねえ、この歪んだ世界のシステムごと、すべてをぶっ壊すために戦っているよ。

過去の因縁も、隠れ里の因習も、全部が鬱陶しいからね。

──じゃあ、君は何のために戦うんだい? 氷の継承者様」

「俺は──」

柊夜は一瞬だけ、壁の向こうで戦う恋人の気配を捉えた。

そして、迷いのない水縹色の瞳で、真っ直ぐに冥を射抜く。

「──好きな人と、一緒にいたいだけだ」

「はあ?」

冥の顔から、一瞬だけ笑みが消えた。

高潔な、あるいは壮大な大義名分が返ってくると思っていたのだろう。

しかし、柊夜の口から飛び出したのは、

世界の命運などよりも遥かに身近で、純粋で、私的な想いだった。

「それが、俺の理由だ」

躊躇いのない、確固たる言葉。

その言葉の重みに、冥は衝撃を受けたかのように目を見開いた。

「……あはは、ハハハ! たったそれだけのためかい? はあ、つまらないな。

もっと面白い答えが返ってくると思ったんだけどねえ。本当に残念だよ」

「ああ、こちらも残念だ。お前とは、最初から話が通じないとはな」

柊夜が冷たく言い切った、その刹那。

ドォォォォォォォォンッ!!!!!

冥の足元の雪原が爆発するように弾け、巨大な氷山が地底から突き上げてきた。

それも、一つや二つではない。

冥が回避しようと跳躍した先、降り立つ場所のすべてから、

兵器さながらの猛烈な氷山が連続して出現し、彼を貫こうと襲いかかる。

「ちっ、」

冥の口から、初めて苦しげな、余裕の無い声が漏れた。

凄まじい速度で迫る氷の山が、闇の継承者の身体を柊夜の視界から完全に遮っていく。

だが、柊夜は攻撃の手を緩めない。

冥の姿が氷山の向こうに見えなくなったと同時に、

彼はすでに、次の術式の構築を開始していた。

彼の回路は、限界を知らないかのように熱を帯びて回転していく。

一方、隆起する氷山の群れから、

紙一重で身をかわし続けていた冥は、冷たい風の中で思考を巡らせていた。

(さすがは雪松のお眼鏡にかなった存在だ。

……はっ、『初代の頃とは違う』、そう言いたいわけかい。

面白いじゃないか、冷泉柊夜。──仕方がない、僕も本気で行こう)

冥の纏う闇の幻力が、爆発的に膨れ上がった。

その手にある黒い剣──古より伝わる闇の神器が、不気味な脈動を始める。

「──『黒夜斬』──!!」

冥がその剣を、ただ一閃した。

空間そのものを切り裂くような闇の軌跡が走り、

次の瞬間、柊夜が生成した巨大な氷山が、紙のように真っ二つに両断された。

退くのではなく、押し通す。

これこそが、九条冥という男の攻撃のモットーであり、彼の真骨頂だった。

主の狂気と闘争本能に呼応するように、闇の神器はさらなる禍々しさを増し、

戦場に異形の化け物めいた漆黒の波動を生み出していく。

自分を貫くための氷山を踏み台にして、冥は跳んだ。

切って、切って、切りまくる。

冥は進路を塞ぐ氷山を次々と粉砕し、強引に最短距離を突き進む。

そうして氷山をすべて切り裂き、

ついにその視界の先に、静かに佇む柊夜の姿を捉えた──その瞬間だった。

「──遅い」

柊夜の後ろには無数の氷剣が並んでいた。

幾何学的な美しさすら感じさせるほど精密に整列させられた数百本もの氷剣は、

柊夜の強固な意思を汲み取り、一斉に音速を超えて冥へと射出された。

ヒュオオオオオオオオオオッ!!!

冥は、迫り来る氷剣の嵐を避ける。

狂気的な反射神経で、肉体を捻り、躱し続ける。

しかし、柊夜の術式は執拗に追い続けるものだった。

一本を避ければ、次の一本が。

氷の剣は地面や残骸に突き刺さり、穿ち続け、逃げ道を確実に塞いでいく。

白銀の世界の中、無数に突き刺さる氷の剣。

それが、雲間から覗く冷たい月光に照らされ、

キラキラと残酷なまでに美しく輝いていた。

まるでこの世の物とも思えない、幻想的で神秘的な情景。

思わず心を奪われそうになるほどの絶景だが─

─これは、互いの命を削り合う血みどろの戦いだ。

ドシュッ!!!

鋭い肉声と共に、避ける限界を迎えた氷剣の一本が、冥の左肩を深く突き刺し、貫いた。

だが、冥はその激痛をものともしなかった。

むしろ、傷口から流れる血すらも歓喜の材料であるかのように、

一斉に群がってくる氷剣を黒刀で叩き落としていった。

「ふふふ……ハハハハハハ!!!!! いいねえ、君! 最高だよ、冷泉柊夜!!」

冥は喉を枯らすような狂気の笑声を、月夜に響かせた。

「これだけの規模の術式を、無詠唱で、

 しかも連続で放ちながら平然と立ち続けている人間を、僕は生まれて初めて見たよ!

 普通なら、最初の氷山を連続で生成した段階で、

 幻力が枯渇して廃人になるはずなんだがなあ!

 なのに君はっ!

 あとどれくらい動けるんだい!? 見た感じ、まだまだ余裕そうだなあ。

 ……素晴らしいな、今の世代は!

 君のような怪物がいるなんて、本当に素晴らしいよ、敷島はさぁ!!」

「うるさいな、戦闘狂がっ!」

柊夜の冷徹な一喝が響く。

冥は自身の肩に突き刺さった氷の剣を、眉一つ動かさずに力任せに引き抜き、

雪原へと投げ捨てた。

血が溢れるのも構わず、彼は再び悍ましい闇のオーラを滾らせて交戦状態に入る。

「まだだ……まだまだ踊り続けよう! 僕を楽しませておくれよ、冷泉柊夜!!!!」

「言われなくても、お前を殺すために、

 俺はどこまでも立ち続け──この剣を振り続ける」

「氷」の白銀と、「闇」の漆黒。

二百年という長い歳月を越えて、今、二つの世代の「最強」が、正面から激突する。

この異次元の戦いは、まだ誰にも止めることはできない──。


ちなみに柊夜の氷剣はfate strange fakeのギル様vsエルキドゥを見てたら思いつきました。

「これ、制限ありで生成させればええやん!」って感じで

なんかパクリやんって言われたくないんで先に申告します。

fateファンの皆様すみません

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