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継承者誓約譚  作者: 冬泉アオイ
《氷花の詩》第六章:誓いの森防衛戦
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第七話「炎の継承者『緋村宗星』」

──同時刻。誓いの森、正面入り口付近。

ここが、国都から森へと至るもっとも広く、

もっとも遮蔽物のない「最大の侵入経路」だった。

それゆえに、他の戦区とは比較にならないほどの重装甲車、

あるいは何百人もの灰燼の本隊が、黒い大波となって押し寄せていた。

地響きを立てて迫り来る大軍勢。

だが、その大軍勢を森の手前で足止めしている炎が二人。

「──『紅蓮』ッ!!」

炎の守護官・不知火焔が、愛用する双剣「不知火」を十文字に振るう。

爆発的な劫火の刃が空間を裂き、

突撃してきた灰燼の装甲車の前輪をドロドロに溶かしながら爆破した。

「はっ! さすがは正面、お出迎えの数が桁違いだね」

焔は燃え盛る爆炎の中からバックステップで飛び退くと、真っ赤な髪をかき上げ、

獰猛な笑みを浮かべる。

その背中には、一切の揺らぎのない絶対的な信頼を寄せる主の姿があった。

「焔、調子に乗るな。敵は術式相殺の陣形を組んでいる。──焼き尽くすぞ」

炎の継承者──緋村宗星である。

彼は愛刀「緋炎」の柄を静かに、しかし力強く握りしめていた。

「灰燼の有象無象ども。この誓いの森は、我ら緋村の炎が護る絶対の領域。

一歩たりとも、その汚れた足で歩むことができると思うな」

宗星が「緋炎」を引き抜くと同時に、彼の周囲の空気が一瞬で陽炎のように歪み、

地面の草木が触れてもいないのに炭化して消えていく。

「フン、たった二人で何ができる! 術式相殺重盾の陣形を崩すな! 押し潰せッ!」

灰燼の指揮官の怒号が響く。

前衛の兵たちが『反・術式兵装』の巨大な黒い盾を隙間なく並べ、

赤黒い相殺の障壁を展開しながら、壁のように一斉に突撃してきた。

どんな魔術的攻撃も、その盾の壁に触れた瞬間に霧散する──はずだった。

「──『緋炎・烈火』」

宗星が静かに刀を振り下ろす。

放たれたのは、巨大な炎の斬撃──ではない。

それに乗じた炎の一閃だ。

ゴォォォォォォォッ!!!!!

空気を数千度まで一瞬で加熱した熱が、大気を燃やしながら切ってゆく。

術式そのものを消し去る反・術式障壁だが、

それはあくまで魔術の構成式を分解するもの。

しかし、宗星が放ったのは、

魔術を通り越して周囲の空気そのものを

現象としての「超高熱」に変えたものだった。

「ぎゃあああああああッ!?」

障壁を、盾を、衣服を、そして肉体を容赦なく焼き焦がす圧倒的な熱。

盾の術式相殺機能が追いつく前に、

伝導した熱によって黒い金属盾そのものが赤く融解し、

灰燼の兵たちは武器を手放して悲鳴を上げながら転がった。

「ば、馬鹿な!? 障壁ごと、盾が溶けていく……!?」

動揺が走る灰燼の軍勢。そのわずかな隙を、焔が見逃すはずもなかった。

「主が道を拓いたんだ。──木っ端微塵になりなよ!」

焔が双剣を交差させ、全身に真紅の炎の蛇を纏わせる。

「──『爆炎蛇』──!!」

炎の蛇たちが地面を這うように、超高速で灰燼の陣形の「内側」へと潜り込んだ。

盾の隙間から侵入した炎の蛇は、

重装甲車や兵士たちの弾薬庫へと直接接触し──次の瞬間、大爆発を引き起こした。

ドガガガガガガガガガッ!!!!!

連鎖する爆炎。

正面入り口付近は、まるで昼間のように赤く染まり、火の海と化した。

どれほどの物量、どれほど術式を無効化する兵器があろうとも、

それを遥かに凌駕する「圧倒的な火力」の前に、灰燼の本隊は一歩も前に進めずにいた。

「はぁ……はぁ……。よし、これで前衛は全滅だね」

焔が二本の刀の熱を逃がしながら呟く。 しかし、宗星の表情は晴れなかった。

火の海の向こう──国都の中央部から、

天を衝くように不気味で禍々しい『闇の幻力』が、

ドス黒い柱となって立ち上ったのを、その鋭い瞳が捉えたからだ。

「……始まったか」

宗星がボソリと呟く。

「え? あ、あれって……まさか、九条冥の本隊が動き出したの?」

焔が爆炎の向こうを睨みつける。

その闇のオーラは、離れたこの場所にまで肌を刺すような悪寒をもたらしていた。

「ああ。ついに、元凶が動き出した。──そして」

宗星は視線を、誓いの森の横のルート

──北部から中央部へと凄まじい速度で駆け抜けていく、

二つの馴染み深い幻力の光へと向けた。

一つは、すべてを拒絶する圧倒的な「白い冷気」。

もう一つは、すべてを包み込む鮮烈な「桃色の桜」。

「柊夜と、絢芽か。……無事に合流し、中央へ向かっているな」

宗星の口元が、わずかに不敵に釣り上がる。

「あいつらが九条冥を討ち果たすまで、俺たちがこの正面を死守する。

一兵たりとも、中央の邪魔をさせるわけにはいかない」

「りょーかい! 主がそう言うなら、ウチはトコトン付き合うよ!」

焔が再び「不知火」に烈火を宿し、不敵に笑う。

火の海の向こうからは、さらに多くの灰燼の増援が、

死を恐れぬようにして湧き出してきていた。

「来い、灰の屍ども。」

中央の決戦を柊夜たちに託し、炎の主従は、迫り来る大軍勢を迎え撃つべく、

再び炎の嵐となって正面から突撃していくのだった。



六章終了!

次の七章は最終決戦(闇迎撃編)ね

一話一話書くのがめっちゃ大変やわ

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