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継承者誓約譚  作者: 冬泉アオイ
《氷花の詩》第六章:誓いの森防衛戦
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第四話:北部

「──日奈! 右から来ます、下がって!!」

誓いの森・北部。

うっそうと生い茂る木々の合間に、千夜の鋭い警告が響き渡った。

千夜は、愛弓「天弓」を限界まで引き絞り、上空に向けて矢を放つ。

放たれた矢は空中で一本から数百本へと分裂し、

月光を纏った雨となって降り注いだ。

ドカカカカカッ!!

しかし、前方から押し寄せる灰燼の精鋭たちが掲げた黒い盾

──『反・術式兵装』の前に、

その美しい月光の雨はジュウジュウと不気味な音を立ててかき消されていく。

「嘘……私の『天弓』の術式が、あんなに簡単に……っ!」

「千夜ちゃん、危ないっ!」

盾を構えた敵兵の影から、音もなく跳躍してきた暗殺兵が、

赤黒いダガーを千夜の喉元へと突き出す。

そこへ割って入ったのは、光の継承者・天宮日奈だった。

「はああぁぁッ!!」

日奈は愛槍「光槍」を激しく突き出し、暗殺兵のダガーを強引に弾き飛ばす。

そのまま槍を回転させ、眩い光の衝撃波で敵を足止めした。

だが、その日奈の呼吸はすでに限界を迎えていた。

彼女の衣服の数箇所は裂け、そこからじわりと赤い血が滲んでいる。

「はぁ、はぁ……っ、千夜ちゃん、大丈夫……?」

「私は平気です、でも日奈、その腕……!」

日奈の右腕は、敵の術式相殺の衝撃をまともに喰らい、軽く震えていた。

この北部防衛線は、総本殿の「真裏」に位置する極めて重要な拠点だ。

もしここが突破されれば、療養中の磐木大地がいる救護室へ、

敵の別働隊が直接なだれ込むことになる。

だからこそ二人は、自身の守護官を市街地や西部の防衛に回してでも、

この場所を二人きりで死守すると志願したのだ。

しかし、現実は非情だった。

「あははは! 逃げ惑え、敷島の雛鳥どもが!」

不気味な笑い声と共に、さらに奥から、

巨大な重火器型の『反・術式兵装』を抱えた灰燼の追加部隊が現れる。

「──これ以上、一歩も通さない……っ!!」

日奈は絢芽に連絡を入れた直後、通信が強制遮断された絶望的な状況の中でも、

決して瞳の光を失っていなかった。

自分がここで倒れれば、中にいる大地さんが殺される。

そして、今必死にこちらへ向かっている絢芽ちゃんたちに、合わせる顔がない。

「千夜ちゃん、私の背中、預かってくれる?」

「……! はい、もちろんです。月読の名に懸けて、あなたに影すら踏ませません!」

二人の若き継承者が、互いの背中を合わせる。

「『集え光よ、我が下に。 闇を照らす一閃となれ! ――光芒の穿撃!』

日奈の「光槍」が、彼女の残った全幻力を吸い上げて爆発的な純白の輝きを放った。

周囲の木々が一瞬で白昼のように照らされる。

日奈はその槍を敵に向かって投擲した。

槍は光線となり、敵部隊の三分の一を貫いた。

「千夜ちゃん!!」

「『月光よ、我が矢に集え。──月下の箭雨』!!」

日奈が強引に抉り開けた敵の防衛線の隙間に向かって、千夜が最大の一撃を放った。

天弓から放たれた光矢が、月に隠れたかと思うと数百本へと変化していた。

矢は障壁を失った敵の重装兵たちを直撃する。

ドガァァァァンッ!!

激しい光の爆発が北部一帯を包み込み、灰燼の兵たちが悲鳴を上げて吹き飛んだ。

「やった……!?」

千夜が希望の声をあげた、その瞬間だった。

ギィィィィィン──。

不気味な、耳障りな駆動音が、爆煙の向こうから響いた。

煙が晴れたそこに立っていたのは、全くの無傷──それどころか、

日奈と千夜の放った「光」と「月」の幻力をその身に吸収し、

赤黒く脈動させている巨大な結晶体を持った、

灰燼の『相殺機』だった。

「な……術式を、吸収して、増幅している……!?」

日奈が愕然と目を見開く。

敵の狙いは最初から、広範囲術式を持つ二人の幻力をわざと撃たせ、

それを吸収して総本殿の結界を破るエネルギーに変換する」ことだったのだ。

結晶体が、禍々しい赤黒い閃光を放ち、チャージを開始する。

その銃口が、完全にエネルギーを使い果たして動けない日奈と千夜へと向けられた。

「しまっ──」

千夜が咄嗟に日奈を庇おうと前に出たが、

弓を構えるだけの幻力はもう一滴も残っていない。

「灰になれ、継承者ども!」

灰燼の兵が容赦なく引き金を引いた。

放たれるのは、二人の全力が上乗せされた、絶対零度をも焼き尽くす最悪の破壊光線。

死の光が、二人の視界を真っ赤に染める──。

──その時だった。

「『氷壁』」

「『桜花の盾』」

ドガガガガガガガガガッ!!!!!

地響きと共に、日奈と千夜の目の前に、

氷の壁と桜の花びらが現れ、攻撃を防いだ。

ズドォォォォォォンッ!!!!!

赤黒い破壊光線が氷壁に激突し、凄まじい衝撃波が辺りを揺るがす。

しかし、その禍々しい光線は、氷の壁も花弁の盾も

ただの一枚すら突破することは出来なかった。

「え……?」

日奈が、呆然と目の前の氷壁を見上げる。

パキン、と小気味いい音を立てて氷壁が左右に割れると、

二人の後ろから一人の青年が静かに歩を進めてきた。

水縹色の瞳に、冷徹なまでの闘志を宿した、氷の継承者。

「……遅くなったな、日奈、千夜」

「柊夜、様……!」

千夜の声が歓喜に震える。

そして、柊夜のすぐ隣には、美しい桜色の幻力を扇から立ち上らせた、

花菱絢芽が並び立っていた。

絢芽はボロボロになった日奈の姿を見るなり、その瞳に激しい怒りを燃え上がらせる。

「日奈ちゃん……! よく、ここまで持ちこたえてくれました。もう大丈夫です!」

「絢芽ちゃん……柊夜、ごめん…。」

日奈はその場にへたり込み、安堵の涙を流した。

柊夜は愛刀「氷河」を静かに引き抜き、前方の灰燼の重機部隊を、

凍り付くような視線で見据えた。

「次の相手は俺たちだ。」

新しき力を得て国都へ帰還した最強の二人が、ついに北部の戦場へと降臨した。



千夜はほんとは強いです。

今はメンタルやられちゃって結構弱体化しちゃってます

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