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継承者誓約譚  作者: 冬泉アオイ
《氷花の詩》第六章:誓いの森防衛戦
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第三話:花の守護官『神崎鏡花』

国都の西部に位置する、誓いの森・西側外縁部。

ここは他の戦区に比べて建物の密集度が低く、敵の侵入経路が限られているため、

灰燼の別働隊の数そのものは比較的少なかった。

──しかし、戦況は決して楽観視できるものではなかった。

「クソッ……! また消された……ッ!」

鋭い金属音と共に、光の守護官・朝比奈駆の放った光の刃が、

敵の掲げた不気味な黒い盾に触れた瞬間、霧のように霧散した。

駆の持つ槍「閃光」は、

その名の通り目を灼くような光の術式を纏ってこその威力を発揮する。

それが、灰燼の投入した『反・術式兵装』の障壁によって、

ただの「鉄の棒」に変えられてしまっていた。

術式を消された一瞬の隙を突き、大剣を構えた灰燼の兵が駆の懐へと肉薄する。

「駆、下がれッ!」

上空から鋭い声が響くと同時に、無数の小さな影が閃いた。

風の守護官・白雲疾風が放った投剣「飛燕」だ。

キィィィン! と不気味な赤黒い火花が散る。

疾風の投剣に込められていた風の術式もまた、敵の障壁に触れてかき消されたが、

刃そのものが持つ速度までは消せなかった。

投剣は敵の兜を弾き、わずかにその前進を怯ませる。

その隙に、駆は泥臭く地面を転がって間合いを取り、

疾風もまた、ビルの壁面を蹴って駆の隣へと着地した。

「助かった、疾風。……だが、完全に術式の相性が悪すぎる。

こちらの攻撃術式が、当たる直前に全て無効化されるぞ」

駆が額の汗を拭いながら、槍を構え直す。

「ああ、分かっている。敵の数は少ないが、

あの『反・術式障壁』を持つ重装歩兵が前衛にいる限り、僕たちの術式は届かない。

じわじわと物量で押し潰されるのを待つだけだ」

疾風の周囲に浮遊する「飛燕」の残りも、少なくなっていた。

二人は息を切らし、誓いの森の境界線を背にして身構える。

目の前には、赤黒い術式相殺の光を放つ兵装を持った、十数人の灰燼の精鋭たちが、

不気味な足音を立てて距離を詰めてきていた。

術式を消される恐怖。防衛戦ゆえに、一歩も引けない絶望。

二人の守護官が、覚悟を決めて武器を握り直した──その、刹那だった。

「──お待たせしました! 西部の防衛、加勢します!」

戦場に、凛とした、しかしどこか朗らかな少女の声が響き渡った。

「なっ……!?」

灰燼の兵たちが目を見開いた瞬間、上空から白と薄黄蘗色の着物を翻した少女が、

弾丸のような速度で降臨した。

花の守護官──神崎鏡花である。

彼女は着地の勢いをそのまま凄まじい回転運動へと変え、

愛刀「春嵐」を真一文字に振り抜いた。

「はぁぁぁッ!!」

ドガァァァン!!

障壁を展開する暇さえ与えない、目にも留まらぬ神速の抜刀。

鏡花の「春嵐」が放った強烈な一撃は、前衛にいた灰燼の重装兵の『黒い盾』を、

術式ごと絶った。

盾を失った敵兵は、そのまま後ろのビルへと吹き飛び、

壁に叩きつけられて意識を失う。

「君は……花の……!?」

駆が驚愕の声をあげる。

「はい! 柊夜様の指示で、西部の応援に参りました!」

鏡花は「春嵐」を美しく構え直し、短い髪を揺らしながら微笑んだ。

「神崎さん、気をつけて! 敵はこっちの術式を──」

疾風の警告を遮るように、鏡花はトントンと地面を蹴って、

自ら敵の群れの中心へと突っ込んでいった。

「分かってます! でも、普通に切った方が早いですよ?」

鏡花の戦闘スタイルは、花の隠れ里の中でも特異だった。

花の一族でありながら、彼女が使う「春嵐」の本質は、

植物を操る術も扱えるが、身体強化がメインだ。

「ふう、」

鏡花が小さく息を吐き、地を滑るようなステップで敵の懐へと潜り込む。

灰燼の兵が慌てて赤黒い障壁を展開するが、鏡花はその障壁の「外側」から、

敵が握っている武器の柄や関節だけを正確に狙って、切り刻んだ。

キィィィン!!

鏡花の一閃が、敵の持っていた大剣を綺麗に両断する。

目にも留まらぬ三連撃。

術式を相殺するシールドを展開していたはずの敵兵たちは、

肝心の「攻撃するための武器」を、

鏡花の超絶的な剣技によって次々と破壊されていく。

兵たちはただの丸腰の木偶の坊へと成り下がった。

「す、凄い……! 術式が無効化されるなら、術式に頼らない剣技で……!」

駆がその圧倒的な戦術に目を見開く。

「二人とも、ボーッとしてたら置いていきますよ!

今が、最高のチャンスです!」

鏡花が叫ぶ。

「──了解した! 疾風、いくぞ!」

「ああ、これなら僕たちの術式も通る!」

形勢は完全に逆転した。

武器を失い、完全に動揺した灰燼の兵たちに向けて、駆と疾風が本当の反撃を開始する。

「『閃光よ、敵を貫け』!」

駆の槍「閃光」が、今度こそ本来の眩い光の術式を宿し、

前方の敵を光の奔流で包み込む。

「『風を纏い、走れ!飛燕』!」

疾風の手から放たれた無数の投剣が、

真空の風を纏って四方八方から敵を切り裂き、その足を完全に縫い止めた。

「『春の嵐は舞い上がる』」

中央に躍り出た鏡花が、「春嵐」を天へと掲げる。

彼女の全幻力が刀身へと集約され、

周囲に本物の桜の花びらが舞い散るような、美しい緑のオーラが立ち上った。

「──『爛漫桜』──!!」

鋭い掛け声と共に振り下ろされた一撃は、

凄まじい旋風となって、残った灰燼の別働隊を一網打尽に呑み込んだ。

ドゴォォォォォンッ!!

激しい風圧が収まった時、そこに立っている敵は一兵たりともいなかった。

全ての敵が武器を破壊され、意識を失っている。

「……ふぅ。西部、鎮圧完了ですね」

鏡花は「春嵐」をパチンと音を立てて鞘に収め、小さく息を吐いた。

「助かった、神崎さん。君が来なければ、僕たちは今頃……」

疾風が深く頭を下げる。

「お見事でした。さすがは花の守護官だ」

駆もまた、敬意を込めて槍を引いた。

「お礼なら柊夜様と絢芽様に。……さあ、私たちの場所は片付きました。

次は、他のエリアの応援にいきましょう!」

鏡花の明るい声に、駆と疾風も力強く頷く。

西部の危機を完全に脱した三人の守護官は、

次なる激戦地へと向けて、再び国都を駆け出すのだった。



なんだかんだ鏡花は強いです。

氷と比べたら基準バグるからね

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