第六話:抹消された血族
筑前での激戦から一週間。 大地の命は取り留めたものの、未だ意識は戻らない。
敷島全土に緊張が走る中、国都の総本殿では、
緊急の『第百十二回臨時継承者会議』が執り行われていた。
「──僕の『影』と幽玄の『糸』で筑前の戦場に残された残滓を集め、
それを皓に託した。そこから先は、彼から説明してもらうよ」
影の継承者・零が静かに席に直すと、円卓の視線が一斉に一人の青年に集まった。
時の継承者、久遠皓。
手にした杖「遡航」に刻まれた刻印を静かに指先でなぞりながら、
彼はいつになく険しい表情で口を開いた。
「……信じ難いことですが、僕の魔術『時の遡航』によって、
筑前に残されていた九条冥の幻力の『起源』を過去へと辿りました。
時を遡ること数百年──敷島の始まり、
つまり『初代継承者』が誕生したあの時代まで」
皓の言葉に、最年少の月読千夜が、包帯の巻かれた小さな手で円卓を叩いた。
「もったいぶらないでよ、皓! あいつは一体何者なの!?
大地さんをあんな目に遭わせた、あの九条冥って男は……ッ!」
「千夜、落ち着け」
隣に立つ守護官の朔夜が宥めるが、千夜の瞳にはまだ怒りと焦燥が滲んでいる。
皓は一呼吸置き、重々しく告げた。
「九条冥。 あいつは、敷島の歴史に存在してはならないはずの存在
── 初代継承者の一人、**『闇の継承者』**です。」
「──なっ!?」
会議室に衝撃が走る。
炎の継承者・宗星が絶句し、背後の焔も双剣の柄を握る手に力を込めた。
雷堂迅が、椅子の背もたれに乱暴に背を預けながら忌々しげに吐き捨てる。
「おいおい、冗談だろ?
敷島の血族は『氷・花・炎・地・雷・月・光・風・影・時』の十だ。
おとぎ話の初代の時代から、十一の目の席なんて聞いたこともねぇぞ!」
「そう、そこが問題なんです」
皓の隣から、時の守護官・時東刻成が、分厚い古文書の束を円卓に広げた。
「政府の最高機密書庫、そして我が久遠、時東家、
果ては各洲の隠れ里に保管されている最古の文献まで、
この一週間で全て調べ尽くしました。
……ですが、九条冥、そして『闇の継承者』に関する記述は、
ただの一文字、たったの一行すらも残されていない。
完全に、歴史から『抹消』されているんです」
◇
意図的に消された、もう一つの血族。
その事実が意味する底知れぬ不気味さに、
誰もが言葉を失う中──ずっと無言で腕を組んでいた冷泉柊夜が、
水縹色の瞳を鋭く光らせて立ち上がった。
「……文字として残っていないのなら、生きた歴史に直接訊ねるまでだ」
「柊夜様?」
絢芽が不安げに彼を見上げる。柊夜は愛刀「氷河」を腰に帯び直すと、
冷徹な声で告げた。
「これより俺は、北海洲にある『氷の隠れ里』へ戻る。
あの偏屈な里長の糞ジジイなら、
公式の記録にない『闇』の真真を、何か知っているはずだ」
「あ、待ってください、柊夜様! 私も、私もお供します!」
絢芽が慌てて立ち上がる。 柊夜は一瞬だけ躊躇うような素振りを見せたが、
「……足手まといにはなるなよ」
と、少しだけ声を和らげてそれを許した。
大地の仇を討ち、敷島を護るため。
柊夜たちは、九条冥の謎を解き明かすべく、
自らのルーツである「隠れ里」へと動き出すのだった。
結構大事なことをどんどん言ってゆくので気を付けておいてください。




