第一話:総本殿の緊急招集
あの常盤原での死闘から、一週間が明けたある日のこと。
国都の中央に厳かに佇む『誓いの森』の総本殿。
その重厚な円卓の会議室には、
前回の襲撃事件と『灰燼』がもたらした新たな脅威を受けて緊急招集された、
敷島を護る十人の継承者と、その背後に控える守護官たちの姿があった。
「おーおー、集まってるな。
常盤原の英雄サマたちは、随分と優雅で甘い一週間をお過ごしだったようで?」
部屋の扉が開くと同時に、不敵な笑みを浮かべて挑発的な声をかけてきたのは、
雷の継承者・雷堂迅だ。
相変わらず口の悪い男だが、そのすぐ隣に立つ彼の守護官・鳴神刹那が、
いつものダウナーで容赦のない調子ですかさず冷や水を浴びせる。
「迅様、うるさいです。少しはその自慢の雷で、
ご自身の足りない頭でも冷やしてきたらどうですか」
「んだとコラ、刹那! 俺はただ、そこの氷の誑し野郎が、
また花菱の嬢ちゃんを泣かせてねぇか心配してやっただけだろ!」
「からかわないでください、迅様!
柊夜様はとっても、とっても優しくしてくださいましたっ!」
絢芽が瞬時に顔を真っ赤にして立ち上がり、全力で反論する。
その横では、
いつものように柊夜が「いや、俺は別に特別なことは何もしていないんだが……」と
水縹色の瞳を泳がせていた。
「まあまあ、三人ともその辺にしておきなよ。
せっかく全員が無事に国都に戻ってきたんだからさ」
ぎゃーぎゃーと始まりかけた騒ぎを穏やかに執り成したのは、
地の継承者・磐木大地だった。継承者たちの中で最年長である彼の落ち着いた声と言葉は、
一触即発になりがちな会議室の空気を一気に和らげる。
「フン……。無事なのは結構だけど、肝心の『灰燼』の情報は進展があったわけ?
私はそっちの方がよっぽど気になるんだけど」
大地の背後から、ツンと澄ました声で腕を組んだのは、
継承者の中で最年少である月の継承者・月読千夜だ。
子供扱いされることを何よりも嫌う彼女は、
あえて大人びた態度で柊夜を鋭く睨みつける。
そんな彼女の隣では、守護官の望月朔夜が口元を隠しながら囁いた。
「あらあら、千夜様ったら。
会議の前までは『柊夜様たちが無事で本当によかった』ってホッとしていたくせに、
相変わらず素真面目じゃありませんねぇ」
「なっ──! ちょっと朔夜、余計なこと言わないでってば!!」
千夜がさらに顔を真っ赤にして怒る中、柊夜は小さく息を吐いて視線を巡らせた。
「ああ。その件についてだが……情報の解析は、すべて零に一任してある」
柊夜に話を振られ、円卓の影から音もなく姿を現したのは、
影を操る継承者・零だった。
彼はいつも通り淡々とした様子で、手元の資料に目を落とす。
「ん。えっとね、幽玄の『糸』と僕の『影』を使って、
常盤原で生け捕りにした遮断持ちの男を徹底的に尋問したんだ。
その結果、件の不気味な武器──『反・術式兵装』は、
僕たちの神器とほぼ同様のプロセスで作られた物であることが分かったよ」
零の言葉に、会議室の空気が一瞬で引き締まる。
「製作元まではまだ特定できていないけど、あの『反・術式兵装』は、
僕たちが使う【魔術】や【奇術】を
完全に『遮断・無効化』して消し去ることができる。
そして、神器の直接攻撃とも正面から打ち合うことができる優れものだ。
──ただし、一つだけ弱点がある」
零は尋問の成果を示すように、怪しく目を光らせた。
あの武器は、対象に直接作用する**【幻術】**だけは遮断できなかった。
だから、あの兵装を持つ相手と戦う時は、
魔術や奇術じゃなくて『幻術メイン』で立ち回るといい。
騒然としていた会議室が一気に静まり返る中、
炎の継承者・緋村宗星が少し考え込むようにして口を開いた。
「なあ、零。その兵装に幻術が通じる、というのは確かなのだな?」
「うん、間違いないよ」
「では、武器そのものに幻術を付与した場合はどうなる?
焔などは、幻術をそっちメインで戦闘に組み込んでいるのだが……」
炎の守護官である不知火焔は、
自身の双剣「爆炎」に幻術による炎の揺らめきを付与し、
敵の間合いを狂わせる変幻自在の剣技を得意としている。
もしそれが通じないとなると、
彼女の戦力は大幅に制限されることになるが──零は静かに首を横に振った。
「ああ、それは無効化されちゃうね。
刃に直接触れるものは、すべて『術式』と見なされて消されるみたいだ。
……もし炎の力を使うのならば、武器同士をぶつけ合うんじゃなくて、
相手の服とか身の回りのものを直接燃やして、切り伏せればいいと思うよ」
「なるほどな。武器そのものを狂わせるのではなく、
相手の身に纏うものに直接術をかけるか、あるいは視界を奪うか。
……そういうことだ、焔」
宗星に話を振られ、後ろに控えていた焔は不敵に笑い、
双剣の柄を親指でパチリと叩いた。
「オッケー、理解したわ。触れさせずに、
外側からジワジワ炙り殺して隙を作ればいいんでしょ?
むしろ私の得意分野よ、任せなさいな」
「へっ、相変わらず回りくどいねぇ!
要するに、あのクソ武器に触れねぇ『生身の部分』を、
俺の雷で直接ぶち抜けば一撃ってことだろ?」
雷堂迅がバチバチと紫電を周囲に散らしながら、獰猛に笑う。
「迅様。その大雑把な狙いを相手に簡単に見切られて、
自慢の雷剣ごと叩き折られないように気をつけてくださいね。
……まあ、私が術符の幻術で、嫌というほど敵の目を眩ませて差し上げますが」
刹那が冷たく言い放つと、迅は「んだとコラ!」と噛みつくが、
二人の間の戦術的な噛み合わせはすでに完璧だった。
◇
「よし、全員の対策は決まったな」
柊夜が全員を見渡して立ち上がり、愛刀「氷河」の柄に手をかける。
その水縹色の瞳に、最強の継承者としての絶対的な冷徹さと威厳が宿る。
「迅と宗星は、西部の防衛。大地と千夜は、南部だ。
すでに零の影の転移門を各地方の拠点に繋いである。
危なくなったらプライドを捨てていつでも連絡しろ。……行くぞ」
「「「了解!!!」」」
柊夜の号令とともに、各主従がそれぞれの死地へと一斉に動き出す。
「大地さん、遅れないで! 南部の防衛は、私が完璧に仕切って見せますから!」
「お、頼りにしてるぜ、千夜ちゃん。厳、俺たちの間合いに敵を一枚も入れさせるなよ」
「……御意。この大盾、何を通すこともありません」
地と月の主従が、抜群のコンビネーションで真っ先に部屋を後にする。
最後に残されたのは、国都の遊撃および防衛の要を任された氷、花、風、光の4組だ。
「さて……俺たちも、いつどこで敵の本格的な襲撃があってもいいように、
国都の警戒を強めるぞ。凪、日奈、準備はいいか?」
柊夜の言葉に、凪は愛銃「風刃」を指先で器用にクルリと回して不敵に笑い、
日奈は駆と静かに視線を合わせてから、力強く頷いた。
「いつでもいけるわよ!
今度こそ、あの不気味な武器を持った奴らに風穴を開けてあげるんだから!」
「ええ。私たちの光の連携、今度こそ見せてあげましょう、駆」
「はっ。日奈の往く道を邪魔する不届き者、この閃光の槍で一網打尽にしてみせます」
各自が新たな『反・術式兵装』への独自の攻略法を胸に。
敷島全土を舞台にした、血族と灰燼の本当の戦争が、
今ここに本格的な幕を開けるのだった。
『灰燼襲撃編』始動です!
今日はあと一話ぐらい投稿して終わります。




