第二話:常盤原の激突
秋津洲中部──「常盤原」。
柊夜たちが南国日向で急襲を受けていたのと、まさに同時刻。
国都からほど近いこの荒野では、
風の継承者・風見凪と、光の継承者・天宮日奈のペアが、
かつてない規模の敵軍勢に包囲されていた。
「ちょっと、倒しても、倒しても湧いてくるんだけど!
なんなのこれ、キリがないわよ!!」
凪が激しい愚痴をこぼしながら、愛銃「風刃」を連射する。
放たれた見えない風の弾丸が敵を次々と撃ち抜いていくが、
闇の奥からはそれを上回る数の増援が押し寄せてくる。
「まあ、ある程度の覚悟はしていましたが……これほどとは。
完全に私たちをここで圧殺する気ですね……っ!」
日奈もまた、凛とした表情の中に焦りをにじませ、光の魔術を展開して応戦していた。
しかし、敵の数は優に数百を超えている。
「この量です、本当なら『奇術』を使って一掃したいところですが、
……奴ら、こちらの詠唱の隙を完全に狙って突撃してきます。
詠唱する暇すらありませんね。──はぁ、仕方ありません。
凪さん、少しの間だけ、私の『神器』を使います。守ってください!」
「えっ、ここで神器!? ──了解、任せなさい!」
凪が瞬時に前線へと躍り出、愛銃を天へと掲げる。
ゴォォォッ!! と、凄まじい風の障壁が二人の周囲に展開され、
押し寄せる灰燼の足を強引に止めた。
その隙に、日奈は自らの内に眠る光の力を解放し、
まばゆく輝く純白の槍を頭上へと掲げた。
「『来たれ光陰の槍よ』──」
日奈の、凛として透き通るような声が常盤原の夜空に響く。
「『闇の帳を打ち砕き光へ変えろ』『光の継承者の私が100年の安念を約束しよう』──」
風の障壁に敵の刃が叩きつけられ、火花が散る。
その極限の緊迫感の中、日奈の詠唱が完了した。
「神器──『闇を穿つは光陰の槍』!!」
詠唱が終わったその瞬間、彼女が掲げた槍の先端から、
極太の一条の光の線が天へと突き抜けた。
その光線は雲を突き破り、遥か上空である地点に達した瞬間──パァンッ!!
と目も眩むような、まばゆい閃光と共に、無数に分散した。
その数、ざっと一千以上。
降り注ぐ小さな光の斬撃の雨が、
日奈と凪の周囲にいた灰燼の軍勢を容赦なく正確に穿ち、切り裂いていく。
◇
ここで説明しよう。 『神器』とは、
継承者が自らの使用する固有武器の名と、
それに対応する専用の詠唱を紡ぐことで発動する、
いわば「固有の必殺技」のようなものである。
先ほど柊夜が使った『奇術』に比べると、発動のための代償(幻力の消費)は少なく、
連戦にも耐えうるというメリットがある。
しかしその反面、周囲の環境そのものを完全に支配して作り変える奇術に比べれば、
一度の純粋な殲滅能力においては一歩劣ってしまう。
◇
「はぁ、はぁ……っ」
大技を放ち、大きく肩で息をする日奈。
周囲の大半の敵は今の光の雨で消し飛んだが、悪夢は終わらない。
光の届かない闇の奥から、なおも生き残った賊の残党たちが、
大技直後で身動きの取れない日奈へと容赦なく手を伸ばしてきたのだ。
「しまっ──」
凪のカバーも間に合わない。
鋭い刃が日奈の華奢な身体を切り裂こうとした、その瞬間。
シュパパパパパンッ!!!
夜闇を切り裂いて突如として現れた、
鋼鉄と同じ硬度を持つ「薄桜色の花弁」の嵐が、
襲いかかろうとしていた賊の身体を容赦なく乱れ突き、吹き飛ばした。
「ぐあああああッ!?」
「ふぅ、危ない危ない! 日奈ちゃん、凪ちゃん、お待たせ!」
「「絢芽ぇ!!」」
荒野のただ中に突如として出現した『黒い扉』から、
扇を片手に華麗に飛び出してきたのは、花の継承者・花菱絢芽だった。
「あとは私に任せなさいな!」
絢芽はそう言って、手にした美しい扇「桜蘭」を鮮やかに、力強く振り抜いた。
その瞬間、荒涼とした常盤原の土を突き破り、
数条の、いや、数十本もの巨大な樹木が猛烈な勢いで急成長し、蠢き始めた。
これこそが、花の継承者が誇る固有の奇術──『死地の樹海』。
蠢く巨木たちが、残った灰燼の連中を次々と巻き込み、へし折っていく。
これで、今度こそ殲滅完了──誰もがそう確信した、次の瞬間だった。
キィィィィンッ──!!!
耳障りな、不気味な金属音が常盤原に響き渡る。
驚くべきことに、灰燼の連中の手にある「赤黒い光を放つ歪な武器」が、
絢芽が生み出したはずの、幻力に満ちた巨木たちを一瞬で『切り伏せ』、
無に還したのだ。
「えっ……!? なんで……っ!
普通は、私たちの術式は神器レベルの攻撃でしか通用しないはず……っ!」
予期せぬ事態、自身の放った奇術があっさりと消し去られた現実に、
絢芽の桃色の瞳が驚愕と動揺に染まる。
術を破られた硬直。
そこへ、無情にも灰燼の剣風と、激しい銃弾の雨が絢芽の身体へと肉薄する。
「「絢芽ちゃん!! 避けて──っ!!!」」
日奈と凪の悲痛な叫びが響く。
だが、完全に思考の海へと沈み、硬直してしまった絢芽の耳に、その声は届かない。
死線が、彼女の目の前まで迫る──。
キン──ッ!!!
その瞬間、空間そのものを震わせるような、極めて高くて澄んだ金属音が鳴り響いた。
「先へ行って無茶をするな、絢芽」
聞き馴染んだ、どこまでも冷徹で、しかし世界で一番安心できる男の声。
翻る紺色の着物。
いつの間にか絢芽の目の前に割り込んでいた冷泉柊夜が、
腰の「氷河」を完璧な速度で一閃させ、迫り来るすべての銃弾と刃を、
正確無比に叩き落としていた。
「ひ、柊夜様……っ!」
間髪入れず、柊夜は空いた左手を前方にかざし、敵を圧殺するための巨大な氷塊を放つ。
──しかし。先ほど大樹を切り裂いたあの謎の赤黒い武装は、
柊夜の放った氷をも、まるで最初から何もなかったかのように容易く両断し、
霧散させてみせた。
「……なるほどな」
自身の術式すらも防がれたというのに、柊夜は一切動揺することなく、
水縹色の瞳を細めて冷酷に敵を観察する。
(恐らくは、幻力で作られているものを完全に遮断するか、
あるいは魔術の系統そのものを無効化する能力……といったところか)
防がれたことに驚くどころか、一瞬でその本質を見抜き、冷静に敵の分析を進める柊夜。
(だが、こんな力は初耳だ。
鏡花が言っていた『知恵が回る』というのは、
この謎の対・継承者兵装も含めてのことだったのか……)
柊夜が戦況を組み立てていると、すぐ横から激しい風の弾丸と共に、
いつもの罵声が飛んできた。
「遅いんだよ! この天然誑し野郎!!」
「そうですね。ヒーローの登場にしては、
もう少し速くても良かったと思いますよ? 柊夜」
凪と日奈からの、いつもの手厳しい追撃。
しかし、今の柊夜にはそれに軽口で返す余裕はなかった。
敵の手にある新兵装は、間違いなく自分たち継承者の息の根を止めるための、
本物の牙だ。
「あの『遮断持ち』は俺が相手をする。
お前たちは、その他の奴らを確実に捕らえてくれ」
一瞬で戦況を判断した柊夜が、冷徹な声で各自に役割を言い渡す。
「「「了解!」」」
夜の常盤原。吹き荒れる冷たい風の中、氷の最強の刃と、
すべてを遮断する未知の武器が激突する火花が、激しく散り始めるのだった。
キャラクターの戦闘シーンって考えるの楽しいよね




