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第23話 戦争準備

翌朝。


昨日、採取ユニット化した四体が倉庫前に並んでいた。


《採取ユニット 四体》


西の廃坑までの搬送路は、まだ整備の途中だ。


廃坑で採取を始めることはできない。


それでも、先にレイヴン前哨拠点まで移動させておけば、搬送路が開通した後すぐに配置できる。


「レイヴン前哨拠点へ移動してください」


ミオが命じる。


四体は同時に向きを変え、荷車の横へ並んだ。


昨日まで何をしていたのか。


どこで暮らしていたのか。


それを気にする様子はない。


与えられた移動先へ向かう準備をしている。


ミオの胸の奥には、まだわずかな重さが残っていた。


それでも、止めようとは思わなかった。


西の廃坑には採取ユニットが必要だ。


鉄材がなければ、前哨拠点の補修も兵装の整備も進まない。


「搬送路は?」


クロウが尋ねる。


「労働ユニット二体が整備しています。あと二日ほどで西の廃坑まで荷車を通せる予定です」


ミオは周辺マップを確認した。


レイヴン前哨拠点から西の廃坑へ続く道。


岩場を避けながら、荷車が通れる幅を確保する作業が進んでいる。


「開通したら、四体を西の廃坑へ配置します」


「ああ」


採取地点は三つになる。


北の森。


西の川。


西の廃坑。


木材や糧食だけではなく、鉄材も継続して得られるようになる。


「鉄材が入れば、前哨拠点の補修を進められます」


ミオが言う。


「壊れている見張り台の次は、兵装の整備に使う分を残します」


「それだけじゃ足りない」


ミオはクロウを見た。


「ほかにも必要なんですか?」


「ああ」


クロウは指揮所へ向かって歩き始める。


「集めてる理由を説明する」


◇ ◇ ◇


指揮所へ入ると、ミオは現在の資源量を確認した。


木材。


石材。


鉄材。


糧食。


薬草。


繊維。


クロウも自分のUIを開いている。


「木材と鉄材は前線設備に使う」


クロウが言った。


「石材と繊維も、設備や補修に必要になる」


「糧食と薬草は?」


「部隊の補給と、負傷兵に使う」


ミオは並んだ資源を見る。


これまでは、施設の修復や拠点での生活を維持するために使ってきた。


クロウが別の用途を表示する。


《時限性前線基地》


《補給箱》


《移動式防壁》


《前線柵》


《破城槌》


《簡易投石機》


どれも、人が暮らすための施設ではない。


戦うための設備だった。


「戦争をするんですか?」


ミオが尋ねる。


「まだ相手も決まっていないのに」


「ああ」


クロウの答えに迷いはなかった。


「始まってから資源を集めるのは遅い」


「相手は決まっているんですか?」


「別のギルドか、領地を持ってる勢力だ」


クロウは淡々と答える。


「敵対した時に決める」


怒りも恨みもない。


攻める相手の名前すら、まだ決まっていない。


それでも、戦争へ備えることだけは決まっている。


「大規模戦は、前に出るまでの備蓄と補給でほとんど決まる」


クロウは資源量を確認しながら言った。


「今ある拠点を維持するだけなら、ここまで採取地点を増やす必要はない」


だから、山賊砦を前哨拠点へ変えた。


西の廃坑も採取地点として確保した。


さらに外へ進むために、資源を集めている。


北の森から木材と薬草を得る。


西の川から糧食や石材を確保する。


西の廃坑から鉄材を採る。


レイヴン前哨拠点を、その先へ進むための足場として使う。


別々に見えていたものが、ミオの中でつながった。


「補給と資源管理も戦闘の一部だ」


クロウが言う。


「俺が前で戦えても、糧食が切れれば部隊は動かせない。兵装を直せなければ、次を攻められない」


ミオが糧食を確保する。


鉄材の用途を分ける。


採取ユニットを配置する。


必要な物資を前哨拠点へ送り続ける。


それらは、戦闘から離れた仕事ではなかった。


「私は、戦争の準備をしているんですね」


「ああ」


クロウは、ミオがどう感じたのかを尋ねない。


必要な情報として、資源を集める理由を説明しているだけだった。


「どれくらい備蓄すればいいですか?」


「相手の規模による」


クロウが答える。


「今は、部隊を動かし続けられる糧食と、負傷兵に使う薬草を確保する」


「木材と石材は前線設備用ですね」


「ああ」


「鉄材は兵装の整備分を残して、その上で設備用を確保します」


「それでいい」


ミオは資源量を見直した。


まず、エルク拠点とレイヴン前哨拠点で必要な量を残す。


食事。


補修。


兵装整備。


日常的に使う分まで削る必要はない。


その上で、余った資源を前線設備へ回す。


「生活に必要な分は減らしません」


ミオが言った。


「拠点で使う量を先に残します。その後で、前線設備へ使える量を決めます」


「任せる」


「西の廃坑から鉄材が入るようになれば、使える量も増やせます」


「ああ」


ミオは現在の採取量と消費量を確認する。


ただ資源を増やせばよいわけではない。


何に使うかまで考えなければならない。


「設備を使う時は、先に必要量を教えてください」


「実物を見せる」


「どこでですか?」


「前哨拠点の外だ。設置条件と消費量を確認する」


数字で表示されている資源が、戦場で何に変わるのか。


ミオにも、自分の目で確かめる必要があった。


「私も行きます」


「ああ」


◇ ◇ ◇


二日後。


前哨拠点から西の廃坑まで、荷車が通れるようになった。


待機させていた採取ユニット四体を、西の廃坑へ配置する。


四体は採取を開始した。


その日のうちに、最初の鉄材がレイヴン前哨拠点の地下倉へ運び込まれる。


《鉄材 増加》


ミオは表示を確認した。


西の廃坑が、実際に鉄材を生み始めた。


その後、クロウとミオは前哨拠点の外へ出た。


軽装槍兵二体が続く。


さらに、小さな荷車を一台連れている。


荷台には、兵用糧食と薬草が積まれていた。


前線設備そのものは、登録された資源を消費して設置できる。


だが、兵士が実際に口にする糧食や、傷の処置に使う薬草まで、その場に現れるわけではない。


それらは前線まで運ぶ必要がある。


クロウは、岩場へ続く道から少し外れた平地で止まった。


周囲に敵の姿はない。


「ここへ設置する」


クロウが場所を選ぶ。


ミオも管理画面から設置位置を確認した。


斜面。


大きな岩。


凹凸の激しい地面。


そうした場所へ重ねると、設置できない表示へ変わる。


平らで十分な広さがある場所では、青白い表示になった。


《設置可能》


「地形条件があるんですね」


「ああ」


クロウが答える。


「設備ごとに必要な広さも違う」


最初の項目を選ぶ。


《時限性前線基地》


必要資源。


作成時間。


維持時間。


複数の情報が表示される。


ミオは消費量を確認した。


「拠点の生活と補修に必要な分には触れません」


「問題ない」


クロウが設置を確定した。


共有資源の数字が減る。


《作成中》


地面へ青白い線が走った。


短い杭が現れる。


その間へ木材が組まれていく。


表示されている作成時間が、少しずつ減っていた。


低い柵が形になる。


布を張った簡素な天幕。


石を敷いた足場。


天幕の布には、黒い鳥の紋様が浮かんでいた。


労働ユニットは使っていない。


運び込まれていた建材を、その場で人が組み立てたわけでもない。


資源として登録されていた木材や石材が消費され、目の前で前線設備へ変わっていく。


やがて、作成時間がゼロになる。


表示が切り替わった。


《時限性前線基地 稼働》


《補給範囲》


《回復可能》


《兵士再配置可能》


今度は、維持時間の数字が少しずつ減り始めた。


「仮設だ」


クロウが言う。


「維持時間が切れれば、基地の機能は止まる」


生活するための拠点ではない。


必要な時間だけ戦場に置き、部隊を動かすための足場だった。


クロウは続けて、天幕の内側へ補給箱を設置した。


空の木箱が現れる。


前線基地と同じように作成時間を経て、使用可能な状態へ変わった。


ミオは荷車へ意識を向けた。


「糧食と薬草を入れます」


軽装槍兵へ指示し、荷車から兵用糧食と薬草を運ばせる。


補給箱の中へ収める。


箱そのものは資源を消費して設置できる。


だが、中へ入れる物資は別だ。


前線で補給を続けるなら、その分だけ後方から運ばなければならない。


「補給箱を増やしても、運ぶ量が足りなければ意味がないんですね」


「ああ」


クロウは短く答えた。


「箱だけあっても食えないからな」


ミオは頷いた。


次に、クロウは基地の外側へ横長の設備を設置する。


《移動式防壁》


作成時間が経過すると、光の中から鉄材で補強された板壁が現れた。


下には車輪。


裏側には、押すための横木がついている。


「押せ」


クロウが軽装槍兵へ命じた。


一体が防壁の後ろへ入る。


横木を押す。


板壁が草地を進んだ。


兵士は身体の大部分を隠したまま前へ移動できる。


だが、小さな岩へ近づくと車輪が止まった。


方向を変えるにも、大きく回り込む必要がある。


「平地でないと使いにくいですね」


「ああ」


「敵に弓兵が多い時に使うんですか?」


「そういう使い方もある」


クロウが答える。


「地形と敵を見て決める」


弓兵が多いなら防壁。


門や壁があるなら、破壊するための設備。


必要な資源は、戦う場所によって変わる。


「最後に投石機を出す」


クロウが前線基地の反対側へ移動した。


これまでより広い設置範囲が表示される。


《簡易投石機》


木材。


鉄材。


繊維。


さらに、発射に使う石材。


ミオは必要量と残量を確認した。


「設置できます。ただ、使える資源はかなり減ります」


「今日は消費量の確認だ」


「分かりました」


ミオはもう一度数字を見る。


「作ってください」


クロウが確定した。


共有資源の数字が大きく減る。


《作成中》


木材が三角形の土台へ組み上がる。


鉄材で補強された軸。


太い繊維の縄。


石を置くための受け皿。


作成時間がゼロになる。


設備が完成すると、草地に大きな影が落ちた。


《簡易投石機 設置完了》


クロウは少し離れた岩へ兜を向ける。


「一回だけ撃つ」


「石材の消費量を確認します」


発射用の石材を使う。


軽装槍兵二体が左右から縄を引き、投射部分を下げる。


クロウが岩までの距離を確認した。


「放て」


固定が外れる。


太い木材が跳ね上がった。


石が高く飛ぶ。


一瞬遅れて、大きな音が響いた。


石は狙った岩の手前へ落ち、土と小石を散らす。


命中はしていない。


クロウは落下地点を見る。


「少し短いな」


悔しがる様子はない。


すでに距離と角度を計算し直している。


「もう一度なら当てられますか?」


「ああ」


クロウは即答した。


「だが今日は一回でいい」


目的は、岩を壊すことではない。


設置条件と資源消費を確認することだった。


ミオは、前線設備へ使える残りの資源量を見る。


最初は十分に見えた数字が、大きく減っている。


前線基地。


補給箱。


移動式防壁。


簡易投石機。


すべてを一度に使えば、備蓄はすぐに減る。


さらに、補給箱へ入れる糧食や薬草は別に運ばなければならない。


「今の量では、大きな戦いを続けられません」


「そうだな」


「前線基地を作り直す分も必要です」


ミオは数字を確認しながら続ける。


「部隊を長く前線へ置くなら、運ぶ糧食と薬草も増やさないといけません」


「ああ」


「投石機を使うなら、設備を作る資源とは別に、発射する石材も必要です」


クロウは否定しない。


「だから採取ポイントを取る」


答えはそれだけだった。


ミオは周囲を見回す。


何もなかった草地に、柵と天幕が立っている。


補給箱。


移動式防壁。


簡易投石機。


兵士を集める場所。


物資を置く場所。


敵へ進むための設備。


ミオが管理していた資源は、戦場で使う物へ姿を変えていた。


「戦う場所そのものを作れるんですね」


「ああ」


クロウは投石機の軸を確認している。


「設備を置けば、戦いやすい場所に変えられる」


ミオは周辺マップを開いた。


エルク拠点。


レイヴン前哨拠点。


西の廃坑。


その先に、時限性前線基地の表示がある。


資源があれば、支配地の外側にも一時的な足場を作れる。


そこへ糧食と薬草を運ぶ。


必要な設備を置く。


兵士を進ませる。


集めることと攻めることは、別の仕事ではなかった。


「備蓄の割合を変えます」


ミオが言った。


「何を優先する?」


「まず糧食と薬草です」


ミオは答える。


「部隊を長く動かすなら、途中で不足しない量を用意します」


クロウは黙って聞いている。


「次に木材です。前線基地、防壁、投石機に使います」


「ああ」


「鉄材は兵装整備分を残して、設備へ使える分を確保します。石材は投石機を使う場合に備えて、発射分まで考えます」


「繊維は?」


「設備と装備の補修に使います」


ミオは少し考える。


「採取だけで足りなければ、次に交換できる機会があれば優先して確保します」


クロウが一度頷いた。


「それでいい」


ただ数字を増やせばよいわけではない。


相手。


地形。


戦う日数。


使う設備。


それによって、必要な資源の割合は変わる。


「戦う場所が決まったら、地形と敵の装備を教えてください」


ミオが言った。


「必要な設備を決めてから、使える資源量を調整します」


「任せる」


また、その言葉だった。


戦場へ出て、ハルバードを振るうことはできない。


自分で敵へ向かって進むことも怖い。


それでも、クロウが戦うために必要な物は揃えられる。


必要な糧食を用意する。


薬草を運ぶ。


木材や鉄材を確保する。


前線で使える設備の数を計算する。


それが、自分の仕事だった。


前線基地の維持時間が減っていく。


やがて、表示されていた補給範囲が消えた。


《維持時間 終了》


《時限性前線基地 機能停止》


回復や兵士再配置の機能も使えなくなる。


「戦いが長引けば、作り直す分も必要ですね」


「ああ」


ミオは維持時間と消費した資源量を覚えておく。


永久には使えない。


それでも、資源を準備すれば、クロウが戦える場所を支配地の外へ広げられる。


「戻ったら、必要な備蓄量を計算し直します」


「頼む」


クロウはハルバードを肩へ担いだ。


試射で削れた地面と、機能を失った前線基地へ一度だけ兜を向ける。


もう興味は次へ移っているようだった。


ミオもレイヴン前哨拠点へ続く道へ向く。


背後には、設置した前線設備が残っている。


朝までは、ただの資源量として見ていたものだった。


それが今は、柵になった。


防壁になった。


投石機になった。


資源を集めれば、クロウが戦うための準備ができる。


もっと遠くへ。


もっと大きな戦いへ。


攻める相手は、まだ決まっていない。


それでも、ギルド《レイヴン》の戦争準備は、すでに始まっていた。

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