第16話 前哨拠点管理
翌朝、ミオは指揮所で二つの拠点を開いた。
エルク拠点。
レイヴン前哨拠点。
二つの拠点は、一本の補給路で結ばれている。
ミオがレイヴン前哨拠点へ意識を向けると、施設の状態が表示された。
《門 損傷》
《北側石壁 損傷》
《井戸 使用可能》
《地下倉 使用可能》
《見張り台 一基使用不可》
井戸と地下倉は、そのまま使える。
二基ある見張り台のうち、一基も使用可能だった。
門と北側の石壁には、修復が必要になる。
前哨拠点には、軽装槍兵が二体いる。
一体は門。
もう一体は、北側の欠けた石壁。
その内側に、六人の住民が残されていた。
《未ユニット化住民 六人》
六人全員に、労働ユニットへ変更できる表示が出ている。
「まず、門を直します」
隣に立つクロウが、前哨拠点の表示を見た。
「理由は?」
「門を閉じられない間は、軽装槍兵を一体、入口に置き続ける必要があります」
「ああ」
「門を閉じられるようにした後、地下倉を整理します。運んだ物資を置く場所が必要です」
「石壁は?」
「石材は北側へ運ぶだけにします。今日は門と地下倉を優先します」
「それでいい」
ミオは、前日に準備した補給物資を開いた。
一般糧食。
兵用糧食。
薬草。
木材。
石材。
繊維。
一般糧食は、前哨拠点に残された六人へ配る分だ。
兵用糧食は、軽装槍兵二体へ配る。
門の支柱には木材が必要になる。
外れかけた金具には鉄材がいるが、エルク拠点の鉄材には余裕がない。
地下倉に残された武具や工具から、使える鉄材を回収する予定だった。
「門に使う木材は、これで足りますか」
ミオが尋ねた。
「応急修復なら足りる」
「石材は北側の石壁へ運ぶだけにします。修復は明日から始めます」
「ああ」
ミオは補給内容を確定した。
労働ユニットが、倉庫の前に並べられた木箱を荷車へ積み込んでいく。
荷車を引く労働ユニットを一体。
護衛には、広場と倉庫の周辺を巡回していた農民兵を一体つける。
エルク拠点には、軽装槍兵一体と農民兵四体を残す。
農民兵は門に二体。
農地に一体。
西側の柵に一体。
「反抗リスクが上がった場合は、門の農民兵を一体、広場へ移します」
「ああ」
山賊砦に近い北西側の採取は、まだ休止させたままだ。
採取ユニットには、支配地の東寄りで木材と薬草を集めさせる。
厨房ユニットは一般糧食を作り、倉庫では搬入作業を続ける。
ミオが配置を確定すると、それぞれの印が指定した場所へ移動した。
「準備できました」
「行くぞ」
クロウがハルバードを持ち上げた。
エルク拠点の門が開く。
クロウが先頭に立った。
その後ろを、荷車を引く労働ユニットが進む。
ミオは荷車の横を歩き、農民兵が反対側についた。
木箱と、まとめられた木材や石材が荷台に載っている。
一行が外へ出ると、門に残った農民兵が扉を閉めた。
門の上では、黒い鳥の紋様が淡く光っていた。
◇ ◇ ◇
レイヴン前哨拠点の門は、開いたままだった。
片側の扉が傾き、下端が地面を擦っている。
軽装槍兵が一体、入口に立っていた。
もう一体は、北側の欠けた石壁を塞いでいる。
クロウたちが近づくと、二体の軽装槍兵が同時に姿勢を正した。
門の状態は、管理画面に表示されていたとおりだった。
支柱が歪み、扉を支える金具も外れかけている。
ミオが門へ意識を向けた。
《支柱 交換必要》
《金具 補修必要》
《木材 必要》
《鉄材 必要》
「運んだ木材で支柱を交換します」
「ああ」
「鉄材は、地下倉に残っている物から回収します」
ミオは砦の中へ入った。
中央の建物のそばに、六人が集まっている。
前日より顔色は戻っていた。
それでも、クロウの黒い鎧を見ると、六人の身体が硬くなった。
次に、六人の視線がミオへ集まる。
男の一人が口を開いた。
「村へ帰してもらえるんですか」
「今は帰せません」
ミオが答えた。
「では、ここに残れということですか」
「はい。門と石壁の修復、地下倉の整理が必要です」
男は、荷車に積まれた資材と、入口に立つ軽装槍兵を見た。
「俺たちに、その作業をさせるんですか」
ミオの視界に、薄い表示が現れる。
《反抗リスク 低》
クロウが六人の表示を確認した。
「全員、労働ユニットにできる」
目の前の六人は、ミオを襲ったわけではない。
それでも、前哨拠点には人手が必要だった。
門を直す。
地下倉を整理する。
石壁へ資材を運ぶ。
ミオは六人の表示を見つめた。
「六人全員を、労働ユニットにします」
「ああ」
ミオの視界に項目が浮かぶ。
《ユニット化対象 六人》
《役割 労働ユニット》
《確定》
六人が身を寄せ合い、後ずさった。
一人が門へ目を向ける。
入口には軽装槍兵が立っている。
北側の欠けた石壁も、別の軽装槍兵が塞いでいた。
ミオは《確定》へ触れた。
「労働ユニットで、確定します」
六人の足元から光が立ち上がった。
重なった声が、光の中で途切れる。
服の上に、丈夫な作業着が重なった。
工具袋。
木槌。
鋸。
縄。
厚い作業靴。
光が消えると、六体の労働ユニットが並んでいた。
怒りも、恐怖もない。
村へ帰りたいと訴える者もいなかった。
六体はミオへ顔を向け、指示を待っている。
《労働ユニット 六体》
ミオは六体を選択した。
「二体は、門の支柱を交換してください」
二体の労働ユニットが門へ向かう。
「二体は、地下倉を整理してください」
別の二体が中央の建物へ入った。
「残る二体は、荷車の物資を下ろして、木材と石材を北側へ運んでください」
残る二体が荷車へ向かう。
六体は確認も相談もせず、それぞれの作業を始めた。
《門 応急修復開始》
《地下倉 整理開始》
荷車を引いてきた労働ユニットも、木箱を下ろしていく。
一般糧食。
兵用糧食。
薬草。
木材。
石材。
繊維。
一般糧食と兵用糧食は、地下倉の離れた場所へ運ばれた。
薬草も、取り出しやすい棚へ置かれる。
《糧食備蓄 増加》
《薬草 追加》
《木材 追加》
《石材 追加》
《繊維 追加》
地下倉を整理している労働ユニットが、壊れた武具と古い工具を運び出した。
ミオが回収できる物へ意識を向ける。
《鉄材 回収可能》
《木材 回収可能》
《繊維 回収可能》
「門の金具には、回収した鉄材を使ってください」
労働ユニットが、壊れた武具から金属部分を外し始める。
門の前では、傷んだ支柱が取り外されていた。
新しい木材が元の位置へ運ばれる。
一体が支柱を押さえ、もう一体が木槌を打ち込んでいく。
作業に迷いはなかった。
互いの動きを妨げることもない。
先ほどまで六人が立っていた場所には、誰も残っていなかった。
ミオは一度だけ、そこへ目を向けた。
すぐに、門の修復表示へ視線を戻す。
六人の表情を確認する必要はなくなった。
誰が反抗するのかを考える必要もない。
全員が、指定された作業を続けている。
地下倉を整理する一体には、決められた時間に一般糧食を六体へ配るよう指示した。
軽装槍兵二体へ渡す兵用糧食は、別の場所へ分けて置かせる。
前哨拠点では、六体の労働ユニットへ配る一般糧食が必要になる。
それとは別に、軽装槍兵二体へ配る兵用糧食も必要だ。
どちらも前哨拠点では作れない。
エルク拠点から、定期的に運ばなければならなかった。
「西側の岩場が近いな」
クロウが周辺マップを開いた。
黒い兜が、石壁の向こうへ向く。
前哨拠点から西へ進めば、石材と鉄材の候補表示がある岩場へ届く。
エルク拠点から向かうよりも近い。
「この拠点からなら、岩場までの距離が短くなります」
ミオも地図を確認した。
「ああ」
クロウが、前哨拠点から西へ伸びる経路を指した。
「兵士と物資をここへ置ける。エルクまで毎回戻る必要もない」
糧食。
薬草。
兵士。
閉じられる門。
整理された地下倉。
必要なものを前哨拠点へ置けば、クロウはここからさらに外へ進める。
「前哨拠点が動けば、俺は外に出やすくなる」
クロウが言った。
「エルクまで戻る回数も減る」
ミオは、修復中の門と地下倉の表示を確認した。
「前哨拠点の補給と修復は、私が確認します」
「ああ。頼む」
門の前で、木槌の音が止まった。
ミオの視界に、新しい表示が浮かぶ。
《門 応急修復完了》
二体の労働ユニットが工具を下ろした。
門に立っていた軽装槍兵が、片側の扉へ手をかける。
扉が動いた。
今度は、下端が地面を擦らない。
二枚の扉が中央で合わさり、内側から横木をかけられる状態になっていた。
完全な修復ではない。
表面には傷が残り、交換できなかった古い金具もある。
それでも、入口を閉じることはできる。
「門にいた軽装槍兵は、使用できる見張り台へ移動してください」
軽装槍兵が門を離れ、見張り台へ向かった。
北側の欠けた石壁には、もう一体を残す。
門を修復した二体の労働ユニットには、井戸から水を運ばせる。
地下倉を整理していた二体のうち、一体には糧食の配布を任せた。
もう一体には、回収できる木材と鉄材の整理を続けさせる。
残る二体は、木材と石材を北側の石壁へ運んでいた。
「石壁の修復は、明日から始めてください」
六体の労働ユニットが、指定された作業を続ける。
前哨拠点の状態が更新された。
《レイヴン前哨拠点》
《軽装槍兵 二体》
《労働ユニット 六体》
《門 応急修復済み》
《北側石壁 損傷》
《地下倉 使用可能》
《井戸 使用可能》
《見張り台 一基使用不可》
《防衛力 低》
《糧食備蓄 少》
《修復必要》
門は閉じられるようになった。
地下倉には、糧食と修復資材が収められている。
北側の石壁と、壊れた見張り台は残っていた。
それでも、必要な物資と作業人員は配置できた。
「帰るぞ」
クロウが言った。
「後はエルクから確認できる」
「はい」
ミオは門を修復した労働ユニットへ指示を出した。
「私たちが出たら、門を閉めて横木をかけてください」
労働ユニットが門の内側へ移動する。
クロウとミオが前哨拠点を出た。
農民兵一体と、荷車を引く労働ユニット一体も続く。
背後で門が閉じた。
内側から、横木がかけられる音がした。
閉じた門の上では、黒い鳥の紋様が淡く光っていた。
◇ ◇ ◇
エルク拠点へ戻ると、ミオは指揮所で二つの拠点を開いた。
エルク拠点では、厨房と倉庫が予定どおり稼働している。
農地の反抗リスクも低いままだった。
門と西側の柵にも異常はない。
レイヴン前哨拠点では、修復した門が閉じられている。
使用可能な見張り台に、軽装槍兵が一体。
北側の欠けた石壁にも、一体。
六体の労働ユニットは、指示された場所で作業していた。
《糧食備蓄 少》
《北側石壁 損傷》
《修復必要》
対応する項目は、まだ残っている。
それでも、エルク拠点から糧食の残量と修復の進行を確認できた。
「二つとも確認できます」
ミオが言った。
「糧食が減れば、次に運ぶ量も決められます」
「修復に必要な資源もな」
クロウは周辺マップの西側を見る。
「前哨拠点が安定したら、西側の資源候補を確認する」
「石材と鉄材ですね」
「ああ」
ミオは、すぐには岩場へ意識を向けなかった。
先に、二つの拠点の状態を見直す。
エルク拠点では、厨房と倉庫が稼働している。
レイヴン前哨拠点では、門が閉じられ、軽装槍兵と労働ユニットが配置されている。
確認を終えてから、ミオは西側へ目を向けた。
岩場。
石材。
鉄材候補。
その先には、まだ灰色の範囲が広がっている。
ミオが周辺マップを閉じた時、窓の外で門を守る農民兵が東へ身体を向けた。
ミオも窓の外を見る。
東の街道を、一台の荷車が進んでいた。
荷台には荷物が積まれている。
手綱を握る者の姿も見えた。
荷車は、ゆっくりとエルク拠点へ近づいていた。




