第15話 前哨拠点
クロウたちが出発した後も、エルク拠点では普段どおりの作業が始まっていた。
厨房ユニットは一般糧食を作り、採取ユニットは支配地の東寄りの森へ向かっている。
五体の農民兵も、昨日ミオが決めた場所についていた。
休止させているのは、山賊砦に近い北西側の採取だけだ。
ミオが管理画面へ意識を向ける。
《エルク拠点》
《維持状態 安定》
朝の配置に問題はない。
ミオは次に、周辺マップを開いた。
北西へ向かう四つの印がある。
クロウが一つ。
軽装槍兵が三つ。
エルク拠点を離れてから、四つの印はほとんど同じ間隔を保っていた。
灰色だった森も、クロウたちが通るたびに少しずつ輪郭を増している。
細い道。
傾斜。
浅い水場。
岩の多い場所。
今まで見えなかったものが、地図の上へ書き加えられていく。
その先には、赤い印があった。
《山賊砦》
《敵性拠点》
出発した直後よりも、表示が大きくなっている。
山賊砦までの距離が縮まっていた。
「もうすぐ着く……」
ミオは机へ両手をついた。
クロウが負けるとは思っていない。
山賊がエルク村へ来た時も、北の森で残党と戦った時も、クロウは止まらなかった。
今は軽装槍兵も三体いる。
糧食も薬草も持たせた。
それでも、戦闘が始まるのを待つ時間は落ち着かなかった。
ミオは戦闘に手を出せない。
クロウから任されたのは、エルク拠点の管理だ。
周辺マップだけを見続けていて、倉庫や厨房に問題が起きれば対応が遅れる。
ミオは一度、山賊砦から意識を外した。
厨房の作業状況を確認する。
糧食の消費は予定どおりだった。
農地で働いている未ユニット化住民の反抗リスクも、低いままだ。
東寄りへ移した採取ユニットも、支配地の内側で動いている。
倉庫の前には、採取ユニットが運び戻した物資が集められていた。
そろそろ搬入を始める時間だ。
ミオが倉庫へ向かうと、広場を巡回していた農民兵も入口へ移動した。
倉庫の扉は、すでに開いている。
作業を任されている未ユニット化住民たちが、棚と搬入場所を確認していた。
「搬入を始めてください」
ミオは入口に積まれた物資を見る。
木材。
薬草。
糧食。
繊維。
採取ユニットは黙って荷物を下ろし、次の指示を待っている。
「木材は奥です。薬草と繊維は右側へ運んでください」
住民たちが荷物を運び始めた。
倉庫の入口には農民兵が立っている。
ミオの視界には、それぞれの荷物の分類が表示されていた。
《木材》
《薬草》
《糧食》
間違った棚へ向かう者がいれば、ミオが置き場所を指示する。
搬入は滞りなく進んだ。
最後の袋が棚へ置かれた時、視界の端で赤い光が点滅した。
ミオはすぐに周辺マップを開いた。
山賊砦の周囲に、赤い反応が次々と現れている。
門や見張り台だけではない。
砦の内部にも、複数の反応が重なっていた。
印同士が近すぎて、正確な数までは判別できない。
その南側には、クロウたちの青白い印が止まっていた。
《敵性拠点 警戒状態》
文字が浮かぶ。
見つかったのだ。
ミオの指先に力が入った。
次の瞬間、クロウの印が赤い範囲へ入った。
軽装槍兵の印も続く。
《戦闘発生》
山賊砦の表示が強く明滅した。
◇ ◇ ◇
同じ頃、クロウは山賊砦の正面に立っていた。
砦は、低い岩場の上に作られている。
正面には木造の門がある。
左右には石壁が延びているが、北側の一部は大きく欠けていた。
二つある見張り台のうち、一つは屋根が傾いている。
もう一つには、弓を持った山賊が立っていた。
「黒い鎧だ!」
見張り台から声が上がる。
「村の兵まで連れてきやがった!」
砦の中で男たちが動き始めた。
門の内側へ木箱や板を運ぶ者。
弓を持って壁へ上がる者。
剣や斧を手に、中央へ集まる者。
クロウは砦の正面で足を止めた。
黒い兜が、門から見張り台へ動く。
次に、石壁の欠けた北側へ向いた。
「正面は使わない」
軽装槍兵たちは無言で待っている。
「一体は門を塞げ。逃げる敵を通すな」
一体が正面へ移動した。
長槍を構え、門から出てくる者へ穂先を向ける。
「残りは北側へ回る」
クロウが走り出した。
二体の軽装槍兵が続く。
見張り台から矢が放たれた。
一本は地面へ刺さる。
二本目はクロウの胸へ向かった。
黒い鎧がわずかに傾く。
矢は肩の装甲を擦り、後ろへ飛んだ。
クロウは足を止めない。
山賊が壁の上から石を投げる。
一つが兜へ当たり、鈍い音を立てた。
それでも、クロウの速度は変わらなかった。
「止めろ!」
壁の欠けた場所へ、山賊が三人集まる。
剣と槍を前へ向け、狭い隙間を塞いだ。
クロウはハルバードを両手で構えた。
最初の槍が突き出される。
クロウは柄で槍を外側へ払い、そのまま踏み込んだ。
斧刃が横へ走る。
槍を持つ男が倒れた。
隣の男が剣を振り上げる。
クロウは止まらず、返した斧刃を鎧のない脇腹へ入れた。
三人目が後ずさる。
「待て!」
クロウは声に反応しない。
間合いを詰め、ハルバードの穂先を突き出した。
道が開く。
クロウが砦内へ入った。
二体の軽装槍兵も続く。
長槍を左右へ向け、欠けた壁へ山賊が近づくのを防いだ。
砦の中央には、十人以上の山賊が集まっていた。
山賊たちの頭上には、赤い表示が並んでいる。
剣。
斧。
槍。
弓。
装備は揃っていない。
立つ位置もばらばらだった。
「三人しかいねえ!」
山賊の一人が叫ぶ。
「黒いのを囲め!」
左右から男たちが動く。
クロウはハルバードを低く構えた。
「槍兵は壁際を維持。抜ける敵だけ止めろ」
軽装槍兵たちは追ってこない。
命令どおり、壁の欠けた場所を塞いだ。
クロウだけが中央へ進む。
先頭の男が斧を振り下ろした。
クロウは身体を横へ外し、柄の中ほどで男の腕を押し上げる。
空いた胴へ斧刃を入れた。
男が倒れるより先に、背後から剣が迫る。
黒い鎧が回る。
剣をハルバードの柄で受け止め、そのまま押し返した。
山賊の身体がよろめく。
返した斧刃が赤い表示を消した。
「こいつ、本当に一人かよ!」
弓を持つ男が、仲間の後ろから矢を放った。
クロウは正面の男を斧刃で退けながら、身体を沈める。
矢は兜の上を通り過ぎた。
もう一本。
今度は太腿の装甲へ当たる。
矢先が弾かれ、地面へ落ちた。
クロウは弓を持つ男へ向きを変えた。
間にいた山賊たちが、慌てて道を塞ぐ。
クロウが踏み込むたびに、その列が崩れた。
柄で武器を外され、空いた場所へ斧刃が入る。
赤い表示が一つずつ消えていった。
弓を持つ男が背を向ける。
中央の建物へ逃げようとした。
横から槍を突き出した山賊が、クロウの進路へ入る。
穂先が黒い胸当てへ当たった。
クロウの身体がわずかに止まる。
男の顔に笑みが浮かんだ。
クロウは槍の柄をつかみ、手前へ引いた。
男の身体が前へ出る。
斧刃が肩口へ振り下ろされた。
クロウは槍を放り捨て、逃げる弓兵へ追いついた。
赤い表示がまた一つ消える。
砦の門が内側から開いた。
二人の山賊が外へ飛び出そうとする。
待機していた軽装槍兵が長槍を下げた。
一人目が穂先を避けようと横へ跳ぶ。
軽装槍兵は追わず、門の中央へ踏み直した。
反対側から抜けようとした二人目も、振り直された長槍に進路を塞がれる。
後ろから来た三人目とぶつかり、足を止めた。
軽装槍兵は門から動かない。
通ろうとする山賊だけを、順番に倒していく。
恐怖で動きが鈍ることもない。
仲間が負傷しても、視線を逸らさない。
命じられた位置を保ち続けた。
中央では、山賊の数が半分以下になっていた。
「止まれ、黒鎧!」
大柄な男が叫んだ。
他の山賊より厚い革鎧を着ている。
手には大きな剣があった。
男の後ろには、残った山賊が三人いる。
「これ以上、好きにはさせねえ!」
大柄な男が剣を両手で構えた。
クロウは答えない。
足元に落ちた武器を避けながら、男との間合いを詰める。
大柄な男が剣を振り下ろした。
ハルバードの柄と剣がぶつかり、重い音が響く。
男は力を込め、クロウの武器を押し下げようとした。
クロウが柄をひねる。
剣の向きが外れた。
空いた胴へ、斧刃が横から入る。
大柄な男が地面へ倒れた。
「頭領がやられた!」
残る山賊が動揺する。
一人が武器を捨て、両手を上げた。
「降参する!」
クロウが振り向く。
男の頭上には、赤い表示が残っていた。
「待て、もう戦わない!」
斧刃が動く。
赤い表示が消えた。
残る二人が、別々の方向へ逃げる。
一人は門へ。
もう一人は欠けた壁へ向かった。
門には軽装槍兵がいる。
壁際にも二体がいる。
どちらにも逃げ道はなかった。
短い戦闘音の後、最後の赤い表示が消えた。
砦の中が静かになる。
軽装槍兵たちは、指定された位置で止まった。
クロウは倒れた山賊を一人ずつ確認しない。
赤い表示が残っていないことを確かめると、砦の中央へ目を向けた。
一つの建物だけ、扉の外側に太い棒が渡されている。
窓も板で塞がれ、中から開けられないようになっていた。
クロウは建物へ近づき、扉を塞いでいる棒を外した。
中から物音が聞こえる。
クロウが扉を開いた。
暗い室内に、男女六人が集まっていた。
全員、汚れた服を着ている。
手首を縄で縛られた者もいた。
黒い鎧を見た六人が、身を寄せ合うように壁際へ下がった。
「山賊は……」
男の一人が尋ねた。
「全処理した」
クロウは六人の頭上を確認する。
赤い表示はない。
代わりに、別の文字が浮かんでいた。
《救出対象 六人》
「歩けるか?」
「はい」
クロウは腰の袋から小さな刃物を取り出した。
縛られていた者の縄を順番に切っていく。
「外で待て」
六人は互いのそばを離れず、まとまって建物の外へ出た。
砦の中央には、倒れた山賊が残っている。
男の一人が、近くに立つ軽装槍兵へ頭を下げた。
「助けていただいて、ありがとうございます」
軽装槍兵は答えなかった。
男は戸惑いながら、もう一度口を開く。
「領都から来た兵の方ですか?」
返事はない。
軽装槍兵は男へ顔を向けることもなく、長槍を構えたまま周囲を警戒していた。
「……聞こえていますか?」
それでも反応はなかった。
クロウは倒れた山賊の間を歩き、井戸や建物の状態を確認している。
死体を避けることも、六人の様子を気にすることもなかった。
男は軽装槍兵から離れ、他の五人のそばへ戻った。
六人は互いに身を寄せたまま、誰も新たに話しかけなかった。
クロウが軽装槍兵へ兜を向ける。
「持ってきた一般糧食を出せ」
軽装槍兵はすぐに背負い袋を開いた。
「六人に渡せ」
命令には反応する。
だが、先ほどの問いかけには答えなかった。
六人は差し出された糧食を、黙って受け取った。
クロウは六人の様子を気にせず、井戸の蓋を開けた。
縄につるした桶を落とし、水を汲み上げる。
濁りは少ない。
異臭もなかった。
「井戸は使えるな」
次に、クロウは中央の建物へ入った。
床板。
壁。
屋根。
地下へ続く階段。
砦の状態を一つずつ確かめていく。
地下には倉があった。
穀物の袋。
干した肉。
壊れた武具。
古い工具。
残量は多くない。
それでも、六人がすぐに飢える量ではなかった。
《糧食 少》
《鉄材 回収可能》
《地下倉 使用可能》
クロウは砦全体の状態を開いた。
門は損傷している。
石壁の北側は大きく欠けている。
二つある見張り台のうち、使用できるのは一つだけだった。
井戸と地下倉は残っている。
敵性反応はゼロ。
救出対象は六人。
前哨拠点として登録できる条件は満たしていた。
「使えるな」
クロウは砦の中央へ戻った。
六人は建物の前に集まり、糧食を抱えたままクロウを見ている。
先ほど軽装槍兵へ話しかけた男も、今度は声をかけなかった。
クロウは管理画面を操作する。
《敵性拠点を制圧しました》
《前哨拠点として登録可能》
クロウが登録を選んだ。
砦の中央に淡い光が現れる。
地面から伸びた細い線が、門、石壁、井戸、地下倉、見張り台を順番に通っていく。
六人は何が起きているのか分からないまま、互いに身を寄せた。
クロウは名称の入力欄へ指を動かす。
《名称 レイヴン前哨拠点》
文字が確定した。
砦の門に残っていた山賊の印が消える。
代わりに、翼を広げた黒い鳥の紋様が浮かび上がった。
《レイヴン前哨拠点》
《所属ギルド レイヴン》
《前哨拠点》
地面を走っていた光が、南東の森へ伸びていく。
《補給路 接続》
「軽装槍兵二体はここを守れ」
クロウが命じた。
一体が門の内側へ移動する。
もう一体は、北側の欠けた石壁へ向かった。
砦の外へ出られる二つの場所を、それぞれ塞ぐ配置だった。
残る一体がクロウの後ろへ立つ。
クロウは拠点情報を確認する。
《防衛力 低》
《糧食備蓄 少》
《未ユニット化住民 六人》
《修復必要》
先ほどまで《救出対象》だった六人が、前哨拠点の住民として表示されている。
クロウは六人へ兜を向けた。
「食料は地下にある。井戸も使える」
六人は黙って聞いている。
「勝手に砦から出るな」
返事はなかった。
門には軽装槍兵が立っている。
北側の欠けた石壁も、別の軽装槍兵が塞いでいた。
六人は互いのそばを離れず、その場に残った。
クロウは管理画面を閉じる。
「戻るぞ」
残った一体の軽装槍兵が、クロウの後ろについた。
二人は南東へ続く道へ向かった。
門と欠けた石壁には、二体の軽装槍兵が残る。
その間で、黒い鳥の紋様が淡く光っていた。
◇ ◇ ◇
山賊砦の赤い印が消えた。
ミオは指揮所の机へ身を乗り出した。
何度見直しても、赤い表示は戻らない。
代わりに、翼を広げた黒い鳥の紋様が浮かんでいた。
《レイヴン前哨拠点》
《所属ギルド レイヴン》
敵性拠点だった場所が、青白い線で囲まれている。
そこからエルク拠点まで、新しい線が伸びていた。
《補給路》
「制圧した……」
声が漏れた。
クロウたちの印も残っている。
砦の中で、四つとも動いていた。
軽装槍兵三体も失われていない。
ミオは前哨拠点の情報を開いた。
《防衛力 低》
《糧食備蓄 少》
《未ユニット化住民 六人》
《修復必要》
砦には、山賊以外の者が六人いた。
さらに意識を向けると、損傷している施設が表示された。
《門 損傷》
《北側石壁 損傷》
《見張り台 一基使用不可》
修復する場所は確認できる。
だが、前哨拠点には労働ユニットがいない。
修復に使う木材と石材も、エルク拠点から運ぶ必要がある。
ミオは《糧食備蓄 少》へ意識を戻した。
地下に糧食は残っている。
それでも、六人の住民と二体の軽装槍兵へ配り続けるには足りない。
追加の糧食が必要になる。
《補給路》の表示は出ている。
だが、線がつながっただけで、物資が前哨拠点へ届くわけではない。
糧食や薬草を木箱へ入れ、ユニットに運ばせなければならなかった。
しばらくすると、砦から二つの印が南東へ動き始めた。
クロウ。
軽装槍兵一体。
残る二体の軽装槍兵は、前哨拠点に留まっている。
一体は門。
もう一体は、北側の欠けた石壁。
砦の外へ出られる二か所に、それぞれ配置されていた。
「二体を残したんだ」
六人の住民と損傷した施設を守るには、余裕のある兵数ではない。
だが、今のエルク拠点から追加の兵士を出せば、門や農地の警備が薄くなる。
まずは物資を用意する。
ミオはエルク拠点の管理画面へ戻った。
厨房ユニット一体に、前哨拠点へ送る一般糧食を別に包むよう指示する。
残る二体は、エルク拠点で配る一般糧食の調理を続けさせた。
続いて、労働ユニットへ空の木箱を倉庫まで運ばせる。
一つには糧食。
もう一つには薬草。
木材と石材も、門と石壁の修復に使う分をまとめておく。
必要な量を一度に運べるとは限らない。
まずは応急的な修復に使う分だけを準備した。
クロウから指示されたわけではない。
前哨拠点の表示を確認し、ミオが必要だと判断した。
労働ユニットが、倉庫の前へ木箱を並べていく。
厨房から運ばれた糧食が収められる。
薬草は取り出しやすいように分け、木材と石材は運搬できる量にまとめた。
物資を運ぶのは明日の朝だ。
日が暮れてから、登録されたばかりの補給路へユニットを出す必要はない。
準備を終える頃には、日が傾いていた。
周辺マップでは、二つの印がエルク拠点へ近づいている。
クロウ。
軽装槍兵一体。
二つの印が門へ着く前に、ミオは広場へ出た。
「門を開けてください」
農民兵二体が横木を外す。
門が開いた。
黒い鎧が、夕暮れの道を歩いてくる。
後ろには、軽装槍兵が一体続いていた。
どちらも装備に大きな損傷はない。
クロウのハルバードの斧刃には汚れが残っているが、歩き方は普段と変わらなかった。
クロウが門を通る。
ミオは一歩前へ出た。
「お帰りなさい」
「ああ」
クロウは足を止めた。
「留守は問題なかったか?」
「問題ありません」
ミオは管理していた項目を順番に報告した。
「農地の反抗リスクは低いままです。採取ユニットは全て戻しました。倉庫の搬入も終わっています。一般糧食にも不足はありません」
「そうか」
クロウが一度頷いた。
「砦にいた六人は、前哨拠点に残したんですか」
「ああ」
「怪我をしている人は?」
「歩けない者はいない。地下の食料と井戸も使える」
クロウが続けた。
「軽装槍兵を二体残した。今夜は問題ない」
「前哨拠点へ送る物資を準備しています」
クロウの兜が、倉庫の前に並べられた木箱へ向いた。
「もう用意したのか」
「糧食の備蓄が少ないと表示されていました。薬草と、修復に使う木材と石材もまとめています」
「助かる」
ミオは、先に準備しておいてよかったと思った。
クロウが山賊砦を攻めている間、ミオはエルク拠点の警備、採取、糧食を管理した。
砦が前哨拠点として登録された後は、新しく必要になった物資も用意した。
戦闘に参加できなくても、ミオが担当することはある。
「明日、補給物資を前哨拠点へ運ぶ」
クロウが言った。
「私も行きます」
「ああ。六人の状態を確認して、修復作業を割り振れ」
「はい」
クロウは指揮所へ向かって歩き始めた。
ミオもその後を追う。
捕らえられていた六人は、山賊から助け出された。
それでも、自由に砦から出られるわけではない。
以前のミオなら、そのことに強く戸惑ったかもしれない。
今も、何も感じないわけではなかった。
六人がどこから来たのか。
どこへ戻りたいのか。
ミオはまだ何も聞いていない。
それでも、最初に考えたのは、明日運ぶ糧食の量だった。
次に考えたのは、門と石壁を修復するための人手だった。
六人が何を望んでいるのかよりも、前哨拠点にどの仕事が必要なのかを先に考えている。
ミオはそのことに気づいた。
だが、考え直そうとは思わなかった。
糧食を配る。
井戸を使える状態に保つ。
門と石壁を修復する。
そのためには、働く者が必要になる。
二人は指揮所へ入った。
机の上には、二つの拠点が浮かんでいる。
中央のエルク拠点。
北西のレイヴン前哨拠点。
二つを結ぶ補給路。
山賊砦だった赤い印は、もうどこにもない。
代わりに、新しい管理対象が増えていた。
《レイヴン前哨拠点》
《糧食備蓄 少》
《修復必要》
《未ユニット化住民 六人》
ミオは最後の表示を見つめた。
次に決めるのは、前哨拠点へ送る人員と、六人に任せる仕事だ。




