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第14話 次の攻略地点

翌朝、ミオが管理画面を開くと、見慣れない項目が増えていた。


《周辺マップ》


昨日まではなかった表示だ。


ミオは指揮所の窓から外を見た。


門では、農民兵が警備を交代している。


採取ユニットは籠や道具を背負い、森と川へ向かっていた。


宿舎の近くでは、労働ユニットが排水路の泥を運び出している。


エルク拠点の様子は、昨日までと変わらない。


変わったのは、管理画面に見える範囲だった。


「クロウさん」


部屋の反対側では、クロウがハルバードの刃を確かめていた。


黒い兜がミオへ向く。


「どうした」


「管理画面に、周辺マップという項目が出ています」


「ギルド権限で開いたか」


クロウはハルバードを壁際へ立て、机の前まで歩いてきた。


「触ってみろ」


ミオは《周辺マップ》へ指を伸ばした。


文字へ触れた瞬間、淡い光が机の上へ広がる。


細い線が重なり、地面や森の形を描き始めた。


中央に、翼を広げた黒い鳥の紋様が浮かぶ。


《所属ギルド レイヴン》


《ギルドホーム エルク拠点》


その周囲を、青白い線が囲んでいた。


拠点を囲む柵。


門。


宿舎や兵舎。


厨房と倉庫。


南側の農地。


北の森と西の川。


採取ユニットが往復する道も、線の内側へ入っている。


《支配地 エルク》


「これが、今使っている範囲ですか」


「ああ」


クロウが青白い線へ指を向けた。


「防衛と採取が届いている範囲だ」


ミオは北の森へ意識を向けた。


小さな印が浮かぶ。


《木材》


《薬草》


《糧食》


《繊維》


西の川にも、別の印がある。


《糧食》


《石材 少》


以前は、実際に森や川へ目を向けなければ、詳しい表示は見えなかった。


今は指揮所にいながら、地図の上で確認できる。


森の中では、青白い小さな点が動いていた。


採取ユニットを示す印だ。


顔も名前も見えない。


それでも、どの採取場所に何体いるのかは分かる。


以前なら、人が点として表示されることを怖いと思った。


今は、全体の位置を確認できることの方が重要に思えた。


支配地の内側にいる。


警告も出ていない。


それなら、採取を続けさせられる。


「外側が暗いです」


青白い線の向こうは、灰色に覆われていた。


山や森らしい形は薄く見える。


だが、道や建物の位置までは分からない。


「未探索領域だ」


クロウが答えた。


「拠点から離れるほど、情報が粗くなる」


「近づけば見えるようになりますか」


「ああ。実際に近づけば、もっと詳しく表示される」


クロウが地図を動かす。


中央のエルク拠点が小さくなり、灰色の範囲が広がった。


その北西に、赤い枠で囲まれた印が浮かんでいる。


《山賊砦》


《敵性拠点》


砦らしい外周の輪郭だけが、灰色の中に薄く見えていた。


内部の様子は分からない。


表示を見た瞬間、ミオの身体に力が入った。


北西にある山賊の砦。


森で倒した山賊たちの仲間が、まだ残っている場所だ。


「人数までは見えません」


「距離があるからな」


クロウは赤い印を拡大した。


地形の輪郭は粗いままだ。


砦の正面へ続く細い道と、南側に広がる森だけが見える。


「表示だけじゃ、中の戦力までは分からない」


「近くまで行って確かめるんですか」


「ああ」


クロウの声に不安はなかった。


敵の数を恐れているのではなく、現地で確認する情報を考えているようだった。


「次はここだ」


クロウが赤い印を指した。


「山賊砦を取る」


「確認するだけではなく、攻めるんですか」


「入口と戦力を確認する。問題なければ、そのまま落とす」


最初から、戦わずに帰るつもりはないらしい。


「砦にいる山賊は、全員倒すんですか」


「ああ。山賊は全処理だ」


返答に迷いはなかった。


以前なら、その考え方を理解できなかった。


今も、それが普通だとは思えない。


それでも、止めようとは思わなかった。


山賊砦が残れば、採取ユニットが襲われるかもしれない。


エルク拠点へ再び山賊が来る可能性もある。


地図の上の赤い印は、取り除かなければならない危険に見えた。


「他にも表示があります」


ミオは地図の西側へ目を向けた。


川の向こうに、岩の多い土地が描かれている。


《岩場》


《石材》


《鉄材候補》


「鉄材があるかもしれません」


「ああ」


クロウも同じ場所を見た。


「砦の後だな」


鉄材には余裕がない。


武具や工具を増やすなら、新しい入手先が必要になる。


だが、岩場の周辺は灰色のままだ。


採取ユニットを送るには、先に道と周辺の安全を確かめなければならない。


「川を越える必要がありますね」


「渡れる場所も調べる」


「護衛なしで採取ユニットを送るのは危ないと思います」


「ああ。だから後だ」


クロウは地図を東へ動かした。


エルク拠点の近くを、一本の道が通っている。


《街道》


《支配外》


山賊砦から延びる細い道も、その街道へつながっていた。


さらに東へたどると、灰色の中に小さな集落の印が浮かんだ。


《リード村》


《未制圧集落》


《拠点候補》


「別の村があります」


「ああ」


「未制圧集落というのは?」


「レイヴンの支配地じゃない村だ」


ミオは《拠点候補》へ意識を向けた。


「ここも、拠点にできるんですか」


「条件を満たせばな」


クロウは、リード村と街道の位置を見比べた。


「街道沿いなら、交易に使えるかもしれない。今すぐ取る必要はない」


クロウが見ているのは、そこに暮らす人々ではなかった。


街道との位置。


エルク拠点からの距離。


拠点として使えるかどうか。


今のリード村へ向かう理由はない。


それでも、必要になれば取る場所として、地図には表示されていた。


ミオは白い印から目を離した。


今、対応しなければならないのは、北西の赤い印だった。


「いつ出ますか」


「明日の朝」


クロウは周辺マップを閉じた。


「今日は準備する」


「兵士は、どのユニットを連れていくんですか」


「軽装槍兵三体」


クロウが答えた。


「農民兵は五体ともエルクに残す」


軽装槍兵三体が出れば、エルク拠点に残る兵士は農民兵五体だけになる。


クロウと軽装槍兵が不在の間、その五体を配置して拠点を守らなければならない。


「糧食と薬草を確認します」


「任せる」


クロウは壁際のハルバードを手に取った。


刃や柄の状態を確かめるため、指揮所の外へ向かう。


ミオは机の前に残り、管理画面を切り替えた。


《ギルド共有資源》


糧食には余裕がある。


薬草も、森での採取によって増えていた。


鉄材と繊維は、まだ不足している。


今回の遠征に必要なのは、兵用糧食と薬草だ。


ミオは厨房ユニットの作業状況を開いた。


「一日分で足りますか」


扉へ向かっていたクロウが足を止める。


「予定どおりならな」


「砦までの道は、まだ全部見えていません」


ミオは周辺マップを小さく表示した。


エルク拠点から山賊砦までの間には、灰色の部分が残っている。


「遠回りするかもしれません。砦の外にも山賊がいるかもしれないです」


「二日分にした方がいいと思います」


「そうするか」


「はい」


ミオは厨房ユニットへ、軽装槍兵三体分の兵用糧食を二日分用意するよう指示した。


一般糧食の調理に影響が出ない範囲で、遠征用の保存食が準備される。


厨房の表示が切り替わった。


《兵用糧食 準備中》


続けて、倉庫で運搬をしている労働ユニットへ指示を出す。


軽装槍兵三体に、一つずつ持たせる薬草。


それとは別に、予備を少量。


指示を受けた労働ユニットが、指定された量の薬草を取り分け始めた。


「少し多くないか」


指揮所へ戻ってきたクロウが、準備内容を確認した。


「軽装槍兵の動きに影響する量ではありません」


「なら、その量でいい」


クロウは準備内容の確認を終えた。


「持てるならいい」


次は、留守中の兵士配置だった。


クロウが不在になっても、門と柵の警備は続けなければならない。


倉庫の周辺にも農民兵を残し、警告が出た場所へ動かせる一体も必要だった。


ミオは兵士の配置画面を開いた。


《農民兵 五体》


前日に倉庫へ移した一体も含め、五体全ての配置を組み直す。


門へ二体。


南側の農地へ一体。


西側の柵へ一体。


残る一体は、広場と倉庫の周辺を巡回する。


「この配置でどうですか」


ミオが尋ねた。


クロウも自分の画面で、同じ配置を確認しているようだった。


「門は二体で足りる」


「南側では、未ユニット化住民が農地に出ています。反抗リスクは低いままですが、農民兵を一体置きます」


「ああ」


「西側の柵にも一体。残りは、警告が出た場所へ動かせるように巡回させます」


「問題ない」


クロウは配置を変えなかった。


次に、ミオは採取ユニットの位置を開いた。


北西側の森で作業している印がある。


山賊砦へ向かうクロウたちの進路に近い。


戦闘が始まっても、指示を変更しなければ採取を続ける。


「北西側の採取を止めます」


ミオは対象となる印を選んだ。


「クロウさんたちが戻るまで、支配地の東寄りで木材と薬草を集めさせます」


「川は?」


「今のまま続けます。危険表示が出たら、すぐに帰還させます」


「それでいい」


ミオは採取ユニットの移動先を確定した。


青白い点が、山賊砦から離れる方向へ動き始める。


《採取範囲 変更》


遠征用の兵用糧食を用意しても、普段の一般糧食には不足しない。


ミオは厨房ユニットへ、一般糧食を少量だけ遠征用に包ませた。


「何の分だ?」


クロウが尋ねる。


「砦に、山賊ではない人がいた場合です」


「いると決まったわけじゃない」


「見つけてから食事を用意するより、少し持っていった方がいいと思います」


山賊に捕らえられている者。


無理やり砦で働かされている者。


自分のように、誰かから差し出された者がいるかもしれない。


「敵性表示が出ていない人がいたら、どうしますか」


「山賊とは分ける」


「エルクへ連れてくるんですか」


「砦を取った後、役割候補にする」


助けて解放するとは言わなかった。


ギルド《レイヴン》の管理下へ入れる。


それでも、山賊の中へ残されるよりはよいと思った。


レイヴンの拠点へ入れば、食事と寝床は与えられる。


「少しだけ持たせます」


クロウは、包まれた一般糧食の量を確認した。


「その程度なら問題ない」


一般糧食は、一体の軽装槍兵が持つ背負い袋へ加えられた。


準備が終わる頃には、日が傾いていた。


厨房では、遠征用の兵用糧食が包まれている。


倉庫では、薬草が持ち運べる量へ分けられていた。


門や柵では、農民兵が新しい配置についている。


採取ユニットは北西から離れ、支配地の東寄りへ移っていた。


ミオは管理画面を順番に確認した。


糧食。


薬草。


兵士の配置。


採取範囲。


どの項目にも、不足を示す警告は出ていない。


クロウが山賊砦を攻めるための準備を、ミオが整えた。


山賊砦には、森で倒した者たちより多くの敵がいるかもしれない。


外周には柵がある。


入口の位置も、内部の構造も分かっていない。


クロウが強いことは知っている。


それでも、何が起きるかまでは分からなかった。


ミオはもう一度、糧食と薬草の表示を確認した。


不足している項目はなかった。


翌朝。


空が白み始める前に、クロウと軽装槍兵三体が門前へ並んだ。


三体は同じ兜と防具を身につけ、長槍を持っている。


背負い袋には、ミオが用意させた兵用糧食と薬草が収められていた。


そのうち一体は、山賊以外の者を見つけた場合に備えた一般糧食も持っている。


門を守る農民兵二体が、重い横木へ手をかけた。


「留守中の配置と採取範囲は、昨日決めたとおりです」


ミオが言った。


「一般糧食にも不足はありません」


「ああ」


クロウが黒い兜をミオへ向けた。


「問題ない。留守はミオに任せる」


「はい。エルク拠点は任せてください」


クロウの判断を待たずに拠点を管理するのは、初めてだった。


返事をしても、緊張は消えなかった。


「ああ」


農民兵が横木を外す。


門が開いた。


クロウが外へ出る。


軽装槍兵三体が、その後へ続いた。


朝の薄い光が、長槍の穂先へ反射する。


四つの姿は、北西へ続く森へ向かって歩いていった。


「門を閉めてください」


ミオが命じた。


農民兵が門を閉め、横木を戻した。


重い音が、門の内側へ響いた。


ミオは指揮所へ戻り、周辺マップを開いた。


中央には、青白く囲まれたエルク拠点。


東には、白い表示のリード村。


西には、鉄材があるかもしれない岩場。


北西には、赤い山賊砦。


軽装槍兵を示す三つの青白い点が、森の中を進んでいる。


その先には、クロウを示す輪郭の違う印があった。


四つの印は、北西へ向かっている。


その先で、山賊砦の赤い印が待っていた。

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