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第14話 離宮の光、王城の影


 アルデリオン王国の離宮。


 此処は王族の女性達が住まう場所。


 皇太后陛下を筆頭に、王妃陛下、王女殿下がこの離宮内で生活している。


 ニコは今日、初めて王族が暮らすエリアに入る事となった。


 先頭を行くのはヴァルキュリア騎士団のジェシカ班長。


 その後ろをニコとフロムが並んで歩いていく。


 長い廊下の突き当りに、重厚な扉が設えてあり、その前にはヴァルキュリア騎士団から派遣されている女性騎士が二人で番をしている。


「お疲れ様です。今日は新しく配属される二人を同行しています」


 そう言ってジェシカは辞令の書かれた羊皮紙を番をしている騎士に見せる。


「……書類を確認いたしました。中へどうぞ」


 二人の騎士が一歩下がり、扉に向かって手を差し出す。


「ありがとう」


 ジェシカは騎士の礼で答えると、重厚な扉を自ら押し開けていく。


「(……!!)」


 其処には別世界のような景色が広がっていた。


 今まで自分たちが歩いてきた廊下ですら、豪華な絨毯や壁紙、そして贅の尽くされた天井の構造など超一流の技術と、素材が使われているのに、扉の向こうは更のその上をいっていた。


「(なんだこれ……)」


 最初に、細かな幾何学模様が濃いグレーと白の二色で編み上げられた、毛足の長い絨毯が目を引く。


 壁紙には金糸と銀糸が編み込まれた波模様の布が貼られている。


 天井からは豪華なシャンデリアが等間隔で吊り下げられている。


 ニコとフロムが思わず動きを止めて、周囲を見回してしまう。


 その様子に気付いたジェシカが二人に声を掛ける。


「……見とれる気持ちは分かるが、先を急ぐぞ」


「「は、はい」」


 ニコとフロムはジェシカの声で我に返ると、慌ててジェシカの後を追う。


「(凄い……いったい幾らくらい掛かってんだろ……)」


 ニコは思わず材料費や建築費を考えてしまう。


 一方のフロム。


「(これ汚したら、罰則ものだよな……歩くのにも気を使うのかよ)」


 と心の中で考えていた。


 やがて豪奢な廊下の突き当りに辿り着く。


 其処にも重厚な扉があり、此処には騎士の姿は無い。


 ジェシカが扉の前で振り返り、二人を見る。


「この先がお前たちの新しい警護先だ。心するように」


「「はいっ」」


 二人の返事にジェシカが頷き、重厚な扉を開けていく。


 そして二人は、再び感嘆の声を漏らすのだった。


 ◆


 扉の向こう側は巨大なホールになっていて、白大理石のテラスを抱くように左右へ広がる二条の階段が象徴的に構えていた。


 階段は踊り場からゆるやかに分岐し、左右対称の弧を描きながら二階へと昇っていく。


 手すりには王家の紋章を刻んだ真鍮の装飾が連なり、シャンデリアの光を受けて淡く金色に輝いていた。


 階段下のホールは儀礼のために整えられており、まるで舞台の中央に立つような荘厳さを生み出す。


 騎士達は左右の階段をそれぞれ警護位置として使い、 来訪者は階段の“左右どちらを上るか”で身分や役割が暗に示されるという古い慣習も残っていた。


 ニコとフロムは天井の巨大なシャンデリアを見上げながら息をのむ。


「「(凄い!!)」」


 この世の贅を尽くした様な佇まいに、ニコもフロムも思わず息をのむ。


 そんな二人をジェシカが温かい目で見守る。


「さあ、見とれていないで、我々の詰め所に行くぞ」


「は、はい」


 ニコが一歩踏み出すが、毛足の長い絨毯によってほとんど音がしない。


「(足音が消える位の毛足なんだ……すごっ)」


 ニコは少しズレた感動を覚えながら、ジェシカの後を追う。


 一方のフロムはじっと絨毯を見ながら考える。


「(こんな足元じゃ、いざという時の動きに支障が出るな……少し研究しておこう)」


 そんな事を考えながらジェシカとニコの後を追う。


 それでも二人は同じことを考える。


「「(此処がこれからの戦場なんだ……)」」


 ニコとフロムは離宮の雰囲気にのまれながらも、身を引き締めるのだった。


 ◆


 王城の裏側。


 騎馬コースから外れて人工湖に向かう小道。


 其処は一度、小道の存在を隠すように偽装が施されていたが、今まさにヴァスケスとアグネスがその謎を解き明かそうとしていた。


 枯れかけた灌木の枝を打ち払い、人と馬が通れるくらいの隙間をつくる。


 ヴァスケスが馬を連れて、一面の雑草畑に侵入する。


 続けてアグネスも愛馬のアルバを連れて足を踏み入れる。


 ヴァスケスが草むらの中にしゃがみ込み、何やら地面を調べ始める。


 そして、暫くガサガサと何かを探していたが、ついにそれを見つけた様だ。


「……ここんところ雨が少なかったからな……案の定、残っていたぜ」


 ヴァスケスは頬に泥を付けながら、笑みを浮かべてアグネスを呼ぶ。


「アグネス……これ、何だと思う?」


 ヴァスケスが指さす先には、明らかに人工的なわだちが残されていた。


わだちですね……多分荷車の」


「そうだ……しかもそんなに古くない。それに、こんな場所に轍が残されているのはおかしくないか?」


「……はい。この轍は明らかにこの奥から来たものですね」


「灌木の偽装工作といい、この雑草畑の轍といい……よっぽど、この先には見られちゃ困るものがあるんだろうな……」


 そう言ってヴァスケスはアグネスの目をじっと見る。


 アグネスもヴァスケスの目を見つめている。


「オレがこのまま調査を続行する……と言ったら、お前はどうする?」


「……任務ですから……」


「此処に来る前に言ったろ……正式な調査じゃねえって」


「自己責任なんですよね……行きますよ。お付き合いします」


 ヴァスケスは真面目な表情でアグネスに尋ねる。


「いいんだな?」


「はい」


 アグネスが短く答える。


 ヴァスケスとアグネスは雑草畑の中を奥へ奥へと進んで行く。


 雑草は人の背丈ほどまで伸び、数歩進むだけで王城の姿は完全に見えなくなった。



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