第12話 王女付騎士
ヴァルキュリア騎士団の宿舎。
ニコがベッドの上で目を覚ます。
最近、同室の二人とは任務内容が異なる為、顔を合わせる事が少なくなっていた。
今日も、既に二人の姿が無い。
「……二人とも、朝早くから任務かな……」
ニコはそんな事を考えてから、もそもそとベッドから抜け出す。
「そうだ……今日は離宮に行く前に、コリーナ小隊長の所へ顔を出すんだっけ……遅刻したらまずいよね」
ニコはさっさと着替えると、食堂に向かうのだった。
◆
食堂に着くと、配膳の列に並ぶ。
何気なく既に食事中の人達のメニューを確認する。
「(今日はシチューか……野菜ゴロゴロのやつだね……)」
ニコがそんな事を考えていると、ニコの順番になる。
「おばさま、おはようございます」
「ニコちゃん、おはよう。いつも元気だね」
「へへへ、それだけが取り柄ってよく言われるよ」
「良いんだよ、それで。はい」
おばさまが野菜ゴロゴロのシチューを渡してくれる。
ニコはそれを受け取り、礼を言ってから空いている場所に移動する。
「いただきまーす」
ニコはそう言ってから食事を始める。
「(まずは、この大きなジャガイモから……はぐっ……?)」
ニコはジャガイモを咀嚼しながら、何か違和感を感じる。
「(……あれ……いつものホクホク感がない……)」
ニコはシチューを見る。
見た目はいつもと全く変わりが無い。
「(……ジャガイモだけなのかな……じゃあ、ニンジンを……はぐ……?)」
おかしなことに人参も、いつもの甘みが無く、逆にえぐみを感じる。
「(……あたしの舌がおかしくなったのかな……)」
ニコはパンに手を伸ばす。
いつも通りの焼きたてのパンだ。
二つに割って、シチューに浸してから口に運ぶ。
「(……あれ……なんだろう……いつもと違う)」
別に美味しくない訳では無い。
「(普通に食べられるんだけど……)」
ニコが怪訝そうな表情を浮かべながら食事をしていると、何故かおばさまがニコに近づいてきた。
「……おばさま?」
ニコが声を掛けると、おばさまがニコの前に座る。
「……アンタがそんな顔で食事してると、気になるじゃないか……」
「あ、ごめん」
「謝らなくていいよ……美味しくなかったろ、イモもニンジンも」
おばさまが少し悲しそうに言ってきた。
「アンタにはバレちまうんだね……ヴァスケスとかフロムは気がづかなかったんだけどね」
それを聞いてニコが苦笑する。
「最近、野菜の質が下がってね……そのくせ値段が上がってるんだよ」
「……へえ。そうなんですね」
「野菜だけじゃなくて、穀物も急に値段が上がってね。パン屋も大変みたいなんだよ」
「そうなんですね。でも、普通に美味しかったですよ?」
「そんな顔で言われてもねえ」
おばさまはそう言うと、椅子から立ち上がる。
「まあ、なんとか手間暇かけて、美味しくするつもりだけどね……」
「ありがとうございます……」
ニコが頭を下げると、おばさまは笑いながら厨房に戻っていった。
「王都では、そんな事が起きているんだ……」
ニコは改めてシチューを見つめる。
「……残さないで食べないと……おばさまが心配するからね」
そう言って残りのシチューを食べ始めるのだった。
◆
食事が終わり、練兵場の横の事務棟に向かう。
すると入り口にフロムが立っていた。
「おはよう、フロム。どうしたの?」
「おす。ニコもコリーナ小隊長に呼ばれてるんだろ? あたしも呼ばれているんだ」
「え、そうなの?」
「ああ。だから此処で待ってれば来るかなって……一緒に行こうぜ」
フロムが鼻の頭を触りながらそう言ってきた。
ニコは苦笑しながら答える。
「フロムはコリーナ小隊長のこと苦手だもんね?」
「ち、ちがう……もう、行くぞっ」
フロムは急に背中を向けると、歩き出してしまう。
「あ、ごめんて。待ってよ、フロムゥ」
ニコは慌ててフロムの背中を追いかけるのだった。
◆
コリーナ小隊長の部屋の前。
ニコとフロムが入り口の前に立つ。
フロムがいつものようにニコの背中を叩く。
「(分かってるよ……もう)」
ニコが扉をノックする。
「ニコレット、フロム、出頭しました」
「入れ」
短くコリーナの声が返ってきた。
「失礼しますっ」
ニコとフロムが部屋に入ると、コリーナ小隊長と、ジェシカ班長の姿があった。
「よく来た……近くに来い」
コリーナが椅子から立ち上がる。
机を挟んだ対面にニコとフロムが休めの姿勢を取る。
それを横から見る位置にジェシカが近づく。
「急ではあるが、辞令を発令する」
ニコとフロムが姿勢を正す。
「ニコレット・フォン・アスターハイム、フロム・ガーネットの両名を離宮警護の任を解き、フラウセリア・アルデリオン王女付の警護任務を与える」
「「えっ……」」
思わず、声が漏れると、ジェシカが横から睨んできた。
「(え……フラウの警護?)」
「(直属警護かよ……)」
ニコとフロムは心の中でそう思う。
「これは、王女殿下の婚約に伴う警護強化特別措置である。なお、警護担当の班長はジェシカに任せる。両名は本日より、ジェシカの指揮下に配属される。以上だ」
「「はい」」
ニコとフロムの声が重なる。
「ジェシカ……問題児二人だが、実力は保証する。頼む」
「はい」
ジェシカが踵を鳴らして返事をする。
「……行って良し」
「「「はい」」」
そしてジェシカを先頭に、ニコとフロムがコリーナの部屋を出る。
コリーナはその背中を見送ると、再び椅子に座り事務仕事を再開するのだった。




