霧の中の光
――ソムナリアたちの馬車が動き出した。
すぐに速度が乗り、緩い下り坂を一気に駆け下りて行った。
追手の馬車がこれに気づき発進する。やや反応が遅れたものの、前の馬車から離されずに食らいついている。
ソムナリアとゲオルクは前方を見ている。眼光が知らないうちに鋭くなっていく。
そして、ソムナリアたちが「戦闘予定地点」と呼んでいた付近にさしかかった。
――月が消えた。
正確には、月の光が著しく弱められている。
濃霧の中に入ったのだ。
「これですね?」
ゲオルクが言った。
「それより始めて!」
ソムナリアが叫んだ。
ソムナリアとゲオルクは、腰に据えた革袋からマナバッグを取り出し、ウェラを手指から込めて前方に放り出す。放たれたマナは一拍置いて光を発する。これを二人でせわしなく続ける。
馬車の前には光の道が形成されていく。光に照らされた道は細い。すぐ近くに沼がある。ちらちらと魔術の光に照らされている。
「どう?ヨーゼフさん?」
ソムナリアがマナを放り投げながら尋ねた。
「濃霧の中なのに走れます!」
ヨーゼフが歓喜を含む声で答えた。
馬車の後ろでは、その光の道は急速に消えていく。そこを追手が走って行く。
ベルンハルトは、追手の馬車が少しずつ離れていくのを見た。
「あいつら、遅くなってる」
ベルンハルトが前方に報告に来た。
ソムナリアはヨーゼフにゆっくりとした口調で聞いた。
「速度はこのままで。抜けられる?」
ソムナリアの声に、ヨーゼフは自信たっぷりに答えた。
「もちろんです!」
なだらかな坂を駆け上がっていくと、少しずつ周囲の霧が薄まっていった。
「止めろ!」
ベルンハルトが荷台から叫んだ。
馬車が横向きになって止まった。
「ここならこちらが有利だね」
ベルンハルトが口角が上げながら言った。
「そう。霧の中で襲うつもりだったんだろうけどね。策士策に溺れるを地で行くよね」
ソムナリアがベルンハルトに同調して言った。
ソムナリアは道に飛び降りた。ゲオルクも一拍遅れて飛び降りた。二人は馬車の両端に散って追手を待った。
すぐに急ぐ馬車の車輪の音が聞こえた。しかし霧の中で見えない。
「撃て!」
ソムナリアは声を上げた。ゲオルクがそれに合わせて、マナバッグをつかんだ。
――シャーッ!
ゲオルクは追手の馬車の音のする方に光の弾丸を撃ち込んだ。
「さすが一級ね。光が強い」
ソムナリアが呟いた。
――バキッ!
何かの手ごたえを感じた。馬車にダメージを与えたか、脇の木を倒しただけか、ここからでは分からない。ゲオルクは手ごたえに自信がなく、光の弾丸の行方を見ようとした。
「手を動かして!」
ソムナリアが叫んだ。
そのソムナリアも小さな光の弾丸を撃ち込み始めた。
――シャ!シャ!シャ!シャ!
「よっ、よっ、よっ……」
子どもの手遊びのような風情で光の弾丸が多数現れて、追手のいる方に向かって飛んで行った。その大きさはゲオルクのものより小さい。
しかし数が尋常ではない。
「ソムナリアさんの術数……尋常じゃない……」
ゲオルクの口から期せずして言葉が漏れ出た。
――パシッ!パシッ!
霧の中にあると思われる馬車の幌に穴を開けているような音が微かに聞こえている。
ゲオルクを尻目にソムナリアは延々と同じペースで弾丸を撃ち込んでいる。
「遅いよ」
ソムナリアが怒鳴った。
「すみません!」
――シャー!……シャー!
我に返ったゲオルクは、光の弾丸を再び撃ち込み始めた。
――パシッ!パシッ!
追手の何かに当たる音が聞こえた。
――ウグウゥ……
向こうから人のうめき声が聞こえた。当たったようだった。
――おい!……だ!……
霧の先で複数の人の声が聞こえてくる。切羽詰まっているような怒鳴り声。
――ア!ウァー!
痛みに耐えている者がいるのが分かる。
そして追手の動きが止まった。一気に静寂が辺りを支配した。
「どうしたのかな……?」




