戦闘地点へ
南方に向かう馬車が縦に並んでゆっくり進む。ソムナリアは前を行く馬車に乗り、後続を警戒している。
「あの……」
ゲオルクが声をかけた。
「なに?」
ソムナリアが答える。
「不思議に思ったんですが……なぜわざわざ敵の誘導に乗るのですか?」
「勝つためよ」
ソムナリアは言った。
「あいつらは私たちが混乱したところを狙うつもりだよ。それで勝てると思ってるはず。そこを裏切ってあげるの」
ゲオルクは続けて尋ねた。
「でもそれなら、なぜ敵は今狙って来ないのでしょうか?」
「たぶん、確実に仕留めたいのと、あと、あの地形、戦闘予定地ね。あそこだと事故死にしやすいんじゃないかな」
「なるほど……ありがとうございます」
「じゃあ、ちょっと寝るね」
すぐにソムナリアは寝転がって、目を閉じた。
しばらく馬車はゆっくりと進んだ。
ゲオルクが馬車の前方に小さな街を見た。
「この街は通過ですか?」
ゲオルクが尋ねた。ベルンハルトが「そうだよ」と同調した。
「通過しないと、あいつらが光の矢を撃ってくるだろうからね」
「そうですね……」
ゲオルクは街の壁を眺めながら言った。
もう少し進むと峠道に入った。
ガタガタと音が立った。
「ねえ……いったん休憩しよ?」
ソムナリアは起き上がるなり言った。
馬車が止まった。後続の馬車も止まった。
山道は、平野より先に暗くなる。夕刻が迫る中で、ソムナリアたちは全員で最終の打ち合わせをした。
「……できる?」
ソムナリアがゲオルクに尋ねた。ゲオルクは自信ありげな表情を見せた。
「できます」
「ヨーゼフさんは?」
御者のヨーゼフは、渋い顔をして見せた。
「なんとかするしかないですね……」
「ベルンハルトは?」
「俺……今回はやることないんじゃないか?」
「そんなことないよ。ベルンハルトは、いるだけで接近戦にならないから。あいつらは絶対に避けるよ」
「それならまあいいか……手紙を守る大事な役もあるしね」
四人がまとまった。
馬車が動き出す。追手の馬車も一緒に動きだした。戦闘予定地点まであと少しのところまで来た。
「もうちょっと寝るね?」
ソムナリアは再び横になった。
進むたびに辺りが暗くなっていった。
「少し気味悪いですね……」
ゲオルクが言った。ベルンハルトが顔を向けた。
「この時刻にここを通らないからね」
「ここは戦闘予定地点とは違うんですよね?」
ベルンハルトは頷いた。
「確かにここも気分の良くないところではあるね。でもまだましなんだよ」
「そんなに『向こう』はひどいんですか?」
「うん。日中は大したことはないけど、未明から朝にかけては嫌だな」
「そうなんですか……」
二人は追手の馬車に視線を移した。
太陽がほぼ隠れる時刻になった。
「今日は十六夜だったんじゃ……」
ベルンハルトは、呟いた後、前方に身を寄せてヨーゼフに尋ねた。
「十六夜だと灯火なしで行けるか?」
「基本、行けます」
「じゃあそのまま行こう。戦闘ポイントの直前まで行かないと追い立てられるだろう」
寒風吹く夜の野を馬車が南に進んでいる。ソムナリアたちはゆっくりと進む。その後ろを追手もゆっくりと進む。昼と同じ間隔で進んでいる。
「ヨーゼフ、そろそろか?」
ベルンハルトが言った。
「そうですね。もう少しです」
「じゃあここで休もう」
馬車が止まった。後続も止まった。
ソムナリアが停車の衝撃で目覚めた。
「ついた?」
「少し前で止まってる。ここぐらいまで来たなら、あいつらにどやされないだろうからね」
「うん。いいね」
ソムナリアが追手の馬車を見ながら薄く笑った。そしてゲオルクに顔を向けた。
「ゲオルク、準備しよう」
「はい」
ゲオルクは自分のバックパックの中を漁った。ソムナリアも必要なものを取り出している。
「照明は?できそう?」
「はい」
「弾は?」
「あります」
ゲオルクが小型マナバッグが多く入る袋を掲げた。
「じゃあ、前に行こう」
二人はヨーゼフを挟んで座った。
「ソムナリア、もういい?」
荷台からベルンハルトの声が聞こえた。
「ヨーゼフさん、どうですか?」
ヨーゼフは頷いて見せた。
ソムナリアは一つ大きく息を吸い、吐いた。
「いいよ!」
ソムナリアがベルンハルトに向いて言った。
「よし……行け!」
ベルンハルトが叫ぶと馬車が走り出した。




