馬車は向かっている
「おはよう!今日もよろしくね!」
ソムナリアが馬車に乗るなり御者のヨーゼフに声をかけた。
「ソムナリアさん、おはようございます。でもどうしたんですか?いつもでは考えられない大きな声で」
ヨーゼフに聞かれて、ソムナリアは後方に親指を向けた。
「後ろの馬車に出発するのを教えてるの」
ヨーゼフは苦笑した。ソムナリアは気にしていない。
馬車は宿泊施設を出た。追手もついてくる。
――シューッ!
「え?もう来たんですか!?」
ゲオルクは、後ろから飛んできた光の矢に驚いた。
ザクッ!
光の矢は馬車の前に落ちた。
「ゆっくり行けと言うことね……」
ソムナリアは独り言を言った。
「どうする?」
ベルンハルトはソムナリアの方を向いて言った。
「言う通りにしよう」
馬車の速度が落ちた。追手の馬車も遅くなった。
「まあ、揺れが少ないからよしとしようか」
ベルンハルトが言った。
「結構冗談言える気分みたいね?」
ソムナリアは口元に笑みを湛えながら尋ねた。
「ああ」
ベルンハルトが答えた。
「そんな状況なんですか?」
ゲオルクは一人戸惑っていた。
「そうだよ」
「ああ」
二人そろって答えた。
「えっと、僕だけ分かってないみたいですね……」
ゲオルクは不満そうに二人から目を逸らせた。
「教えてあげるからおいで?」
ソムナリアに招かれて、ゲオルクはソムナリアの近くに寄った。
そして、ソムナリアが今後の展開予想をゲオルクに伝えた。
「……とまあこういうわけ」
ベルンハルトは満足そうにうなずいた。
「ということは、戦闘ポイントは、ここですか?」
ゲオルクが地図上を指さす。
「そう。そこになるね」
ソムナリアが答えた。
「俺が一番嫌なところなんだ」
ベルンハルトが口を挟んだ。
「でもこのままだと、ここで戦うことになりますよね?向こうに有利にならないんですか?」
「多分大丈夫」
ソムナリアはゲオルクの懸念を一言で打ち消した。
「あいつらは私たちが浮足立ってるところを狙おうとしてただけ。決定的にあいつらに有利になるわけじゃない」
「そうなんですか……」
ゲオルクは首をひねっている。
「納得いってない?」
「はい……。正直なところ……」
「どのへんが?」
「本当にこのポイントで戦闘をするのかが分からないのと、なんでこういう回りくどいことをするのか分からないんです」
「うん。それは確かにそうなんだ」
ソムナリアがゲオルクのそばににじり寄った。
「でもね、あいつらは私たちを事故死に見せかけたいのよ」
「え……!?」
ゲオルクが驚いた表情でソムナリアを見た。ソムナリアは淡々と続ける。
「向こうもこっちも魔術士。同じ役所の関係者。仲たがいしているようには見せられない。でも手紙は届かないようにしたい。なら直接襲ったようには見えないようにしたい。事故死だったら、向こうとこっちが仲たがいしてるだなんて全く分からないでしょ?」
「そうなんですか……」
納得しきれてなさそうなゲオルクを見てソムナリアがさらに言った。
「信じにくいかもしれないけど、そもそもあいつらの昨日からの行動がおかしいでしょ?」
「うーん……確かに……」
これにはやや納得したようだった。
「で、事故死に見せかけるには、やっつけやすくて、その後引きずり込めるでしょ?」
ソムナリアは地図を指さしたり地形をなぞったりしてゲオルクに説明した。
「ここなら事故死に見せかけやすいのは納得できます」
ゲオルクが強く言った。ソムナリアは頷いた。
「そこだけ分かればいいよ」
ベルンハルトは、ソムナリアの言葉に同調しつつ、ゲオルクの肩を叩いた。
「決戦は明日のおそらく夜明け前後だ。それまでは何も起こらない。今から寝ておくといいかも知れないよ」
ゲオルクは頷いた。
「私も寝ていい?」
ソムナリアが手を挙げて眠そうな顔を見せた。
「もちろん」
ベルンハルトが言った。その直後にソムナリアは目を閉じて荷台に寝そべった。
荷台の馬車はゆっくりと、しかし確実に戦闘ポイントに向かって南下していた。




