食堂の視線
宿泊施設のフロントで手続きをすると、それぞれに鍵が渡された。
宿屋は雑魚寝が普通とされるのに、国営宿泊施設は個室に入ることができる。
いちど個室に荷物を置いて、食堂に集合することにした。
「今日は深酒は厳禁で……」
ベルンハルトが言った。
「そもそも飲んだらダメなんじゃない?任務中でしょ?」
ソムナリアが応じた。
「そういうこと言うなよ……」
ベルンハルトが苦笑した。
思い思いに夕食の注文をして、雑談をしながら待っていた。
「ムラエネ料理はこの辺では出ないんですか?」
「そうよ。ネバーベントまで行かないと」
「ムラエネは僕にはどうでもいいことですが……」
「なんと教育の行き届いてない魔術士だこと……!」
ソムナリアが急に机に突っ伏した。そして聞き取りやすい口調で言った。
「ゲオルク、驚かないでね。表情はそのままね」
「はい?なんですか?」
「ベルンハルトは?」
「俺は把握してるよ」
ベルンハルトは手で口を覆って言った。
「ゲオルク。追手がいるんだ」
「えっ!」
ゲオルクが声に出した。
ソムナリアはそれを聞いて、暑苦しめの笑顔をあえて作って、顔を上げた。
「なーんてね」
「もう、驚かさないで下さいよ!」
「でも声を出すのはダメだよ。本当にどこに誰がいるか分からないんだからね」
ソムナリアが言うと、ゲオルクは頷いた。
「はい」
それを見てから、ソムナリアはベルンハルトに向かって手を開いた。ベルンハルトは頷いた。
それからすぐに、食事が運ばれてきた。
「とりあえず食べよ」
ソムナリアが号令をかけて、三人揃って夕食を食べ始めた。
――三人は黙々と食事を食べた。
表情を変えずに、肉をナイフで切って口に運んだ。
パンをちぎっては口に押し込んだ。
時々、スープを口に入れた。
ゲオルクは二人が終始無言なことに戸惑っていたが、何も言わないなら自分から何も言えない。二人に合わせて黙って食事を続けた。
最後にディンビアを飲んで食事を終えた。
三人は無表情で揃ってテーブルを立った。そのまま食堂を出て、客室に向かった。
「ゲオルク、ちょっといい?」
ソムナリアがドアを開けたゲオルクに声をかけた。
「はい?」
「明日の打合せ。ベルンハルトの部屋に来て。荷物も持ってきて」
「あ、はい!」
ゲオルクは急いで部屋に入った。
ベルンハルトの部屋に三人が揃ったところで打合せが始まった。
「ゲオルク、分かった?追手が食堂にいたの」
「本当だったんですか?」
ゲオルクが驚いている。ソムナリアとベルンハルトは頷いた。
「分からなかった?」
「はい……」
ゲオルクは不安そうに二人を見る。
「じっとこっちを見ていたの」
ソムナリアが言う。ベルンハルトも頷いて同意した。
「食事時に知らない人をじっと見るものでもないでしょ?」
ベルンハルトが言った。
「そう。あそこでこっちを見てても意味ないのにね」
ソムナリアが答えた。
「あの……」
ゲオルクが不安そうに口を挟んだ。
「僕だけ分からないのって、まずいですよね?」
「まあ、一人だけ出来ないって、嫌な気分になるよね」
ソムナリアが言った。そしてさらに尋ねた。
「ところで、魔術大学校修了してどれだけ経った?」
「前年度末に修了です」
ソムナリアが頷いた。
「まだ若いよ。これから技術を身に付くよ」
「でも……」
ゲオルクは不満そうに言った。そこにソムナリアが言う。
「スキルが無いことは仕方ないことなの。いろんな経験をして、努力もして、いろんなスキルを身に付けていけばいいだけ。いい?」
「はい……」
ゲオルクは半分まで同意したような返事をした。
――ゴホン。
ここでベルンハルトが咳払いをした。
「その話は、いったんおいて」
ベルンハルトが話し始めた。
「話を戻そう。追手が同じ宿泊施設にいるということは、いつ攻撃されるか分からないんだ。そこで、二人には寝ずの番をしてもらう」
「え?」
ゲオルクは驚いた。
「そうなるよね。分かった。」
ソムナリアは平静なままだ。




