不気味な馬車
昼過ぎ頃、二台の馬車が南方街道を進んでいる。つかず離れずの距離を保ち続けている。
「あいつら、ずっと同じ距離ですね」
ゲオルクが独り言を言った。
「そうだよね……ここまで距離が維持できてるの、凄いのは凄いよね」
ベルンハルトが応じた。
「気持ち悪いけどね」
ソムナリアが呟いた。
ベルンハルトもゲオルクも頷いた。
「本当にどういうつもりなんだろうね?」
三人とも黙り込んだ。馬車はなお同じ速度で進んでいる。
「じゃあ、聞いてみよう?」
ソムナリアが言った。
「誰か聞きに行くんですか?」
ゲオルクが尋ねた。
「それはさすがに……」
そう言うとソムナリアは御者に声をかけた。
「ヨーゼフさん、速度を下げてもらえますか?」
「いいですよ」
そう言うとすぐに馬が足を緩めた。
ソムナリアは荷台の後部まで跳ぶように移り、追手の馬車を見た。
シューッ!
鋭い音とともに光の矢が上がった。
――来たか!
ソムナリアはじめ全員身構えた。
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
光の矢は次々と地面に刺さった。
「速度を戻して」
ソムナリアが声をかける。すぐに馬の足が戻った。
「全部後ろだ……」
ソムナリアが呟いた。
追手の馬車はそう離れていない。光の矢は十分に届く。それらが全て後方に落ちた。
「遅くするなということだよね?」
ベルンハルトが呟いた。
「うん」
ソムナリアも同意した。
「なんでなんでしょう?」
ゲオルクが二人に尋ねた。
「さあ」
「分からない」
二人とも口々に答えた。
「今度は速くできますか?」
ソムナリアが御者のヨーゼフに大声で尋ねた。
――シューッ!
光の矢が再び放たれた。
「え!?」
ソムナリアたちは不意を突かれた。
ザクッ!ザクッ!
光の矢はソムナリアたちより前方に落ちた。
「これは速く行くなということか……?」
ベルンハルトが言った。
「間違いないよね。しかも馬車が速度を上げる前からだよね」
ソムナリアが言う。
「僕もそれを思いました。ソムナリアさんの言葉、聞こえてましたよね」
ゲオルクが同調した。
「でも、なんでなんでしょう?」
再びゲオルクが言った。
「わかんない」
「わからないね」
ソムナリアとベルンハルトはまたそれぞれ答えた。
さらに馬車は進んだが、二台の馬車は間隔を変えずに走っている。
「そろそろ街だよね?」
ソムナリアがベルンハルトに尋ねた。
「うん。宿泊施設が使えるよ」
ベルンハルトが言った。
「良かった。宿屋だとかなり危ないからね」
ソムナリアの口元が引き上がった。
「危ないんですか?」
ゲオルクが首をかしげていた。
「そうだよ。乙女には厳しいのよ?」
ソムナリアは冗談めかして言った。しかしすぐに表情を戻した。
「宿屋は個室が無いよね?部屋があっても数人で泊まらないといけないから、私は男子と同室。酷いときは知らない人と一緒に雑魚寝だってあるからね」
「でも、ソムナリアさんなら、手を出してくる人ぐらい、いくらでもやり返せませんか?」
「いちど考えてみるといいよ」
ソムナリアはゲオルクに顔を近づけた。
「南方戦線では、魔術士を護衛する人たちがいたよね?」
「はい……」
ゲオルクはソムナリアに気おされつつ頷いた。
「護衛が無いままの魔術士は、いくら一級持ちでも、相手を倒せるとは限らない。むしろ寝ててすぐ近くまで寄られたら……あ、そうそう……」
ソムナリアはベルンハルトを指さした。
「寝てるうちにベルンハルトに組み伏せられたとして、魔術戦に持っていける?」
ベルンハルトは「俺をダシに使うなよ……」と呟いた。
「……多分だめです」
「ね?先々を読んで、自分が不利にならないように考えないといけないの。いい?」
「はい……」
ゲオルクがうなだれるようにうなずいた。
「さあ、もう話は終わりよ!」
ソムナリアはゲオルクの肩を叩いた。
「元気だしなさい!とりあえずおいしい夕食よ!」
馬車は街に入り、蹄の音を響かせながら宿泊施設に向かった。




